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「独占路線だから運賃が高い」は間違い? 現役鉄道社員が明かす、きっぷの値段が決まる“意外な裏側”

  • 2026.6.18
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。現役鉄道会社社員の福本明文です。

各地で鉄道運賃の値上げに関するニュースを耳にする機会が増えました。日々の通勤や通学の定期代、あるいは週末の外出時の交通費など、家計に直結する大幅な値上げのケースもあれば、経営努力で値上げを見送る路線もあり、事業者ごとの対応は様々です。私たちが日々当たり前のように支払っているこの鉄道運賃ですが、一体どのような基準で金額が決められているのか、疑問に思ったことはないでしょうか。

今回は、意外と知られていない鉄道運賃決定の裏側と仕組みに迫ります。

実質的な大幅値上げ? 大井川鐵道の衝撃

運賃にまつわる話題として大きな衝撃を与えたのが静岡県を走る大井川鐵道井川線の事例です。

2026年7月からこの井川線が観光鉄道へと転換されることが発表されました。驚くべきは、運行される列車の大半が事前予約を必要とする形式となり、片道3500円に設定されたことです。従来の運賃と比較すると実質的に数倍にもなる大幅な値上げとなり、鉄道業界のみならず一般のニュースでも大きく取り上げられました。

「独占だから高い」「競合だから安い」の誤解

このようなニュースや日頃の利用経験から、競合する他の路線がない独占路線は利用者の足元を見て運賃を高く設定している一方で、並行してライバル路線が走っている区間は安く設定している、という噂を聞いたことがある方も多いでしょう。

たしかに、複数の路線が競合するエリアではお得な切符が発売されることも多いため、そう思い込んでしまうのも無理はありません。しかし、結論から言うと、「独占だから高い」「競合だから安い」という単純な考え方は、鉄道運賃の決定ルールにおいては間違いなのです。

国が認可する「総括原価」と「ヤードスティック方式」

そもそも鉄道運賃は、民間企業であっても鉄道会社が自社の都合だけで自由に価格を決定できるものではありません。国土交通省の審査を経て、認可を受けて初めて設定が可能になります。

その決め方の基本となるのが「総括原価方式」と呼ばれる仕組みです。これは、鉄道を安全かつ安定的に運行するために必要となる適正な原価(人件費や動力費、修繕費など)に、適正な利潤を上乗せして必要な総収入を算出し、それをもとに運賃を決定する方法です。

さらに、一部の鉄道事業者では、各事業者の原価を比較・平均化して経営の効率性を促すヤードスティック方式(比較査定手法)も導入されています。つまり、いくら独占路線であっても企業がいたずらに運賃を釣り上げることは制度上不可能ですし、逆にライバル路線があるからといって原価を割るような不当な価格競争(ダンピング)を仕掛けることもできません。

ただし、認可された上限運賃の範囲内において、特定の区間のみ運賃を安く設定する「特定区間運賃」などを導入し、競合路線との間で価格調整を行っているケースは存在します。

赤字だから高くできるわけではない

では、利用者が少なく赤字の路線であれば、コスト回収のために高額な運賃を設定できるのかというと、それも不可能です。あくまで国が定める「適正な原価」の範囲に収める必要があるからです。

ここで、先述の大井川鐵道井川線の事例が興味深い意味を持ちます。同路線は国土交通省の認可が必要な一般の運賃を無理に引き上げたわけではありません。運行する列車の大半を旅行商品(ツアー)として別枠で価格設定し、通常の鉄道運賃の枠組みから切り離すという手法を採用したのです。これは厳しい経営環境の中で鉄路を維持し続けるための、常識にとらわれない大胆な工夫と言えます。

「高い」と言われる路線の本当の理由

私たちが日常的に利用していて「ここは運賃が高い」と感じる路線の多くは、独占路線だから高いというわけではありません。

例えば、近年開業したばかりの新しい路線で建設にかかった莫大な費用の償還が運賃に上乗せされているケースや、山岳地帯や長大なトンネルを通るため、平地の路線に比べて日々の維持管理コストがはるかに高くつくケースなどが該当します。これらは運賃のベースとなる原価が高いことに起因しています。

鉄道の運賃制度は、利用者の保護と鉄道網の維持という公共性を守るための計算とルールのもとに成り立っています。「なぜこの路線の運賃はこの価格なのか」「どのようなコストがかかっているのか」と、運賃の決め方に注目して考えてみると、毎日の通勤通学や旅行の際にお得なルートを選ぶための新しい視点やヒントが得られるかもしれません。


参考:
鉄道運賃・料金制度について(国土交通省)
井川線の観光列車化について(2026/7/1~)(大井川鐵道公式ウェブサイト)
鉄道運賃・料金の体系(国土交通省)
鉄道事業におけるヤードスティック規制(運輸総合研究所)


ライター:福本明文
大学卒業後、鉄道会社に総合職として入社し、鉄道業界を15年以上経験。鉄道部門だけでなく、関連事業部門のタクシーやバス、小売りなどを幅広く経験。現在はWebライターとしても活動し、広報を担当した経験からコラム記事の執筆からSNSへのコンテンツ提供まで多岐にわたって活動中。


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