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第1話目で“村上春樹”の世界を見事に再現した俳優 数々の話題作を手掛けた“豪華制作陣”が挑んだ【NHKドラマ】

  • 2026.7.4
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岡田将生 (C)SANKEI

2025年にNHKで放送された『地震のあとで』は、村上春樹の連作短編集『神の子どもたちはみな踊る』を、大胆なアプローチで映像化した全4話のドラマだ。

※以下本文には放送内容が含まれます。 

1995年1月。小村(岡田将生)の妻・未名(橋本愛)は、阪神・淡路大震災のニュース映像をテレビで毎日見続けた後、家から出て行ってしまい、その後、二人は離婚することになる。

妻の変化に気持ちが追いつかない小村だったが、ある日、職場の後輩・佐々木(泉澤祐希)から、とある箱を釧路にいる妹のケイコ(北香那)に届けてほしいと頼まれる。

有給休暇を取って釧路へ旅立った小村が空港に到着すると、ケイコは友人のシマオ(唐田えりか)と共に彼を出迎える。
ケイコの運転する車に乗った小村は、UFOを目撃したことをきっかけに行方不明になった女性の話を二人から聞かされる。

天災を背景にした30年間の物語

原作となる『神の子どもたちはみな踊る』は、1995年を舞台にした連作短編集だが、1995年は阪神・淡路大震災とオウム真理教による宗教テロ・地下鉄サリン事件が起こった激動の1年で、バブル崩壊以降の経済不況が本格的に始まった年だった。
その意味で、日本が大きく変わった1年だったが、小説には阪神・淡路大震災とオウム真理教の起こした事件の影響が色濃く表れており、震災がきっかけで人生観が大きく変わってしまった人や、宗教に絡んだ物語が登場する。
『地震のあとで』は、原作小説のテーマを継承した上で、1995年から2025年までの30年間の日本を舞台にした物語にアレンジしている。

第1話「UFOが釧路に降りる」は、1995年が舞台の物語で、阪神・淡路大震災のニュースが常に背後で流れている。
第2話「アイロンのある風景」は、海辺で焚火をする男女の物語。舞台となる時代は、2011年3月という東日本大震災が起こった年に変更されている。
第3話「神の子どもたちはみな踊る」は、宗教2世として育った青年の物語。舞台は新型コロナウイルスが世界中で大流行し始めた2020年初頭に変更されており、人気が消えた東京を彷徨う青年の姿が描かれる。 つまり、第1話は原作どおりだが、第2話以降は、背景にある天災がそれぞれの時代に起きたものに変更されている。

対して、第4話の「続・かえるくん、東京を救う」は、放送当時の現在(2025年)が舞台の物語だが、他のエピソードとは異なるファンタジー色の強い物語となっている。

ある日、地下駐車場の警備員として働く片桐(佐藤浩市)の前に、かえるくんと名乗る二足歩行の大きな蛙が現れる。 かえるくんは、1995年に片桐と共に、東京で大地震を起こそうとしたみみずくんと戦ったと語る。
そして、再び大地震を起こそうとしているみみずくんと戦うために、いっしょに東京の地下に向かってほしいと片桐に頼む。

劇中で語られる1995年の闘いは、原作小説の「かえるくん、東京を救う」で書かれた物語で、この第4話は、その続編となっている。 かえるくんは、不気味な外見と透明感のある声にギャップがあるのだが、女優ののんが声を担当することによって、人知を超えた異形の存在でありながら、親しみやすさを感じるユーモラスな存在となっている。

かえるくんをどう描くかは、本作を映像化するにあたって一番の難題だったと思うが、ファンタジーとリアルが同居した不思議な存在として実体化させることに成功している。
何よりかえるくんと片桐が探索する東京の地下の禍々しいビジュアルが素晴らしく、現代日本を舞台にここまでファンタジックな映像を生み出したことに圧倒された。

リアルを追求した果てに生まれるファンタジー

本作の脚本を担当している大江崇允は、濱口竜介が監督した映画『ドライブ・マイ・カー』の脚本も手掛けている。
『ドライブ・マイ・カー』は村上春樹の短編が原作だが、本作が収録された短編集『女のいない男たち』に収録された他の短編や、他の村上春樹作品のモチーフを取り入れることで、物語自体が優れた村上春樹論とでもいうような、批評性の高い脚本に仕上がっていた。

そのアプローチは『地震のあとで』でも踏襲されており、各エピソードの中に村上春樹作品のエッセンスが散りばめられた批評的なドラマに仕上がっている。
そして、映像によって村上春樹の世界を再現することに、果敢に挑んだのが、全話の演出を務めた井上剛である。

連続テレビ小説『あまちゃん』や大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』のチーフ演出として知られる井上は、過去の時代の風景や小道具を、可能な限り現実と同じように再現しようとするドキュメンタリー的なアプローチを得意とする映像作家だ。

しかし、リアルを追求した結果、最終的にとても幻想的な映像になるのが、井上のドラマの面白さであり、リアルとファンタジーが同時に存在する不思議な映像作品を多数生み出している。

そんな井上の映像は、村上春樹の世界と相性がよく、現実に起きた天災を背景としているのに、どのエピソードもとても幻想的だ。 それは役者の演出にも言えることだ。

第1話終盤で、小村を演じる岡田将生が、シマオを演じる唐田えりかと観念的なやりとりをする会話劇のトーンは、生々しくもどこか幻想的だ。
特に岡田は、村上春樹の小説の男性主人公がそのまま画面に現れたかのようで、他のドラマで主演を務めている時とは異なる不思議な実在感を漂わせていた。

小説という文字による描写を通し読者の想像力を刺激するからこそ、成立している部分が多い村上春樹の世界は、実写に落とし込むことが難しいのだが、井上は小説を読んでいる時に感じる村上春樹作品の手触りそのものを、映像に落とし込むことに成功している。

観念的で深読みしたくなる物語の面白さはもちろんだが、難解な村上春樹の世界を、井上がテレビドラマの中でいかに映像化したかに注目しても、面白い作品である。


出典:NHK 土曜ドラマ『地震のあとで』NHKオンデマンド より

ライター:成馬零一
76 年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に 『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレ ビドラマを更新する 6 人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』 (PLANETS)がある。

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