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28年前、媚びる“腰巾着”で視聴者を魅了した「名俳優」三谷幸喜に見そめられた“ベテラン”とは

  • 2026.6.26
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2015年7月、初主演映画『野良犬はダンスを踊る』完成披露試写会に出席した近藤芳正(C)SANKEI

組織の物語には、主役のほかに必ず一人いる。上に媚びて下を抑え、保身に走り、肝心なところで決断できない。中間管理職と呼ばれる、あの嫌われ役だ。近藤芳正(こんどう・よしまさ)は、その役を引き受け続けてきた俳優である。出世も保身も思い通りにいかない男の、せこさと滑稽さと、それでも消えない人間味。演じると、不思議と憎みきれない。

2026年7月、1998年版『GTO』で演じた学年主任・中丸浩司が、同じ俳優のまま、念願の教頭に昇格して帰ってくる。28年かけて、中間管理職がひとつ上がる。これを可能にしたのは、名古屋の子役から始まる、舞台俳優としての縦軸が下に重なっている。

名古屋の子役から、劇団七曜日まで

近藤の俳優人生は、中学1年で地元の児童劇団に入ったところからはじまる。中学3年からは、NHK名古屋制作の『中学生日記』に出演。主役を務めた回もあった。

地元の高校を卒業すると、『中学生日記』で風間先生役だった俳優・湯浅実のもとで、1年間、俳優修行をする。1981年、湯浅が所属する劇団青年座の付属研究所に入所。その後、石井光三とレオナルド熊らによって旗揚げされた劇団七曜日に参加する。

ここまでで、近藤はすでに10年以上、舞台と地方ドラマの現場で身体を作っている。子役から始まり、地方で師に就き、研究所と小劇団を経た俳優。出発点から着実に演技力を磨いてきた。

三谷組で肩書きにならない肩書きを任され続けた

大きな転換点は、やはり三谷組への参加だろう。近藤の名前が三谷幸喜の現場に出るのは、1991年の映画『12人の優しい日本人』である。役どころは、ピザ屋の配達員。10年以上の舞台修行を積んだ俳優が、三谷組に入ってくる。出会い方そのものが、すでに中間管理職俳優の原型を示していた。以降、近藤は東京サンシャインボーイズの舞台に客演として参加し、後期の三谷組常連へと連なっていく。

1996年初演・1998年再演の二人芝居『笑の大学』では椿一役。西村雅彦と組んだこの舞台は、読売演劇大賞の最優秀作品賞を受けている。映画では、『ラヂオの時間』、『THE 有頂天ホテル』、『ザ・マジックアワー』、『清須会議』と、任されるのは「命令する側でも、される側でもない。間に挟まれて右往左往する者。歯車ではなく、歯車を人間に戻す係。それが、近藤が真顔で渡され続けた仕事である。

腰巾着を、憎まれ役にしない

その存在を一気に世に知らしめたのが、1998年のドラマ『GTO』だ。近藤が演じた中丸浩司は、聖林学苑の学年主任。中尾彬演じる内山田教頭の腰巾着で、立場を利用した上から目線で立ち回るが、本心は気弱で、人の意見に便乗するだけ。

権力に媚び、保身に走る。物語の中で、観客が最も苛立つはずの立ち位置である。ところが、近藤の中丸はどこか憎めない。媚びる仕草の裏に、本心の小心者が見え隠れする。だから鬼塚に追い詰められて慌てるたびに、滑稽さが先に立って、憎悪が中和されていく。

終盤、聖林学苑が吸収合併の危機に直面したとき、中丸は鬼塚側に協力して学苑を護る。腰巾着のまま終わらず、最後の最後で大事なものに加担する。それでいて、教頭の座は同僚に譲ることになる。

半歩進んで、一歩下がる。せこさの奥に小さな人間味を一滴落とす。だから中丸という男は、28年経っても忘れられなかった。

脇の技術が、そのまま主演になる

脇で磨いた人物造形は、中心に立ったとき、底力を見せる。2015年、窪田将治監督の映画『野良犬はダンスを踊る』で、近藤は映画初主演に立った。組織お抱えの敏腕の殺し屋だった男。だが年齢による衰えに勝てず、仕事でミスを犯すようになる。引退を決めた職業人の話だ。モントリオール世界映画祭フォーカス・オン・ワールド・シネマ部門に選出された。派手な主役の物語ではない。組織の中で長く中間を担ってきた俳優が、初の単独主演で選んだのが、組織の末端に置かれた一人の老いだった。

舞台でも同じ系譜だ。2005年、永井愛作『歌わせたい男たち』では、君が代の斉唱時に起立しない社会科教師・拝島則彦を演じ、第5回朝日舞台芸術賞グランプリを受けている。組織と個人の間に立たされた中年男の役だった。2023年制作の単独主演映画『事実無根』でも、元妻のDV証言で娘と生き別れた京都の喫茶店マスターを演じ、アヴィニョン国際映画祭で最優秀長編ドラマ映画賞と最優秀長編映画俳優賞を受けている。

主役を張るときも、近藤は「立場と本心が裂けた男」を選ぶ。脇で磨いた技術が、主演になっても捨てられていない。

黒沢清が任せた、古参の家臣

裏を読む俳優は、重い座組の中の重い役を、静かに託される。2026年公開の映画『黒牢城』は、黒沢清監督、本木雅弘主演で、米澤穂信の直木賞受賞作を映画化した一本だ。第79回カンヌ国際映画祭のカンヌ・プレミア部門に出品された。

物語は、織田信長に背いた荒木村重の有岡城籠城戦。近藤が演じる中西新八郎は、村重に仕える古参の家臣で、当主と家中の内側を繋ぐ位置にいる。黒沢清が、本木と菅田将暉らが集う重い座組の中で、家中の古参という肝心の場所を近藤に渡した。監督が安心して中間の人物を預けられる。それは、組織の真ん中を演じ続けてきた俳優だけがたどり着ける信頼だ。

28年かけて、教頭になる

そして2026年7月、フジテレビ系ドラマ『GTO』が帰ってくる。近藤が演じる中丸浩司は、私立誠進学園で念願の教頭の座に就いていた。腰巾着の学年主任が、28年を経て、ついに一段のぼる。最も過去の鬼塚を知り、最も現在の鬼塚を信用しない存在として置かれているという。物語の継続性を保証する役と、主役を相対化する役。同じ役を28年抱え続けた俳優にしか、この二つは発注できない。

職員室の力関係も、ねじれている。校長は宇梶剛士演じる大久保安博。本来なら校長が頂点のはずが、人の良さがにじむ大久保は決断力に欠け、主導権は教頭の中丸が握ってしまう。校長より一段下の肩書きで、それでも画面の中央を担う。三谷組で「主役と物語の間に挟まる人」を30年磨いてきた俳優に、最もふさわしい昇格である。

名古屋の子役から始まり、湯浅実に師事し、青年座研究所と劇団七曜日で骨格を作り、三谷組で主役の隣に長く立つ訓練を重ねた俳優が、ようやく教頭になる。校長にはならない。それでいい。30年運んできた「肩書きにならない肩書き」が、ここで初めてひとつ上がる。その一段に、一人の俳優の30年が詰まっている。


※記事は執筆時点の情報です

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