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富山の美食街道「岩瀬ガストロノミー」を旅する|個性派店主による岩瀬ならではのひと皿を

  • 2026.5.22
撮影=阿部 浩

北前船で栄えた港町で、日本酒と美味逍遥

江戸後期から明治にかけて北前船の寄港地として栄えた富山・岩瀬。豪商の町並みと日本酒の酒蔵が残るこの歴史地区は現在、日本料理に寿司、蕎麦やフランス料理など、多彩な食体験が楽しめる町として進化を遂げています。世界のシェフやグルマンも足を運ぶ“美食の町”のいまを巡ります。

ひとつの町に集い、語らう。シェフが織り成すコミュニティ

岩瀬で伺ったお店のほとんどは、土蔵や古民家を改装したものだ。白漆喰の壁であったり、木造建築であったりと外観自体はとてもシックな佇まいなのである。しかし店内はそれぞれのご主人たちの強烈な?!類のない?!情熱的な?!独創性が詰まっているのだ。

『平家物語絵巻』の吹抜屋台のような表現でもない限り、一度は店の中へ足を踏み入れてみなければ、その醍醐味を味わうことはできないでしょう。

みなさんの交流も盛んだ。「酒蕎楽くちいわ」の口岩さんは、岩瀬には各分野の料理人が揃っているのだからと、調味料や料理方法などを質問したりするそうだ。そのおかげで蕎麦に合うオリーブ油や塩を見つけることができたとか。

カウンター越しに蕎麦をゆでるご亭主と向き合えるのもひとつのエンターテインメント。 撮影=阿部 浩

「ピアット スズキ チンクエ」の鈴木さんもオムレツにかける泡のソースに昆布出汁を使っているが、昆布の種類について誰かとお話しされたかな。

「KOBO Brew Pub」では、富山市内の「メツゲライ・イケダ」に特別注文したソーセージをビールとともに味わえる。

「GEJO」の下條さんのところへは「御料理 ふじ居」のお弟子さんが、今日はベルギーの三ツ星シェフがやって来てるよ、と密使のように伝えに来たり。

「カーヴ・ユノキ」と「port pizza NAVE」の柚木兄弟に関しては、もっと食に密接した交流だ。お兄さんが朝仕入れる魚やスペシャリテである日本鹿のラグーを弟さんに分ければ、弟さんは発酵、熟成させたピザ生地を渡してお兄さんが仕上げる「カーヴ・ユノキ」の丸いパンになる。両店で食べたバイ貝も、弟さんは肝をアンチョビ代わりに使っているし、お兄さんの方では肝を使わず軽くスモークしたものだったり。

「カーヴ・ユノキ」の鹿のラグーソースを用いたショートパスタと、旬の焼き野菜とトマトのサラダ。 撮影=阿部 浩

二人でカラオケに行くと「兄弟舟」を歌うくらい仲のいい兄弟だ。このカラオケに加わるのが「魚津群ねんじり亭」の三浦父娘で、ちなみに競輪場前駅近くにある「ルンルン」というスナックに集まるそうですよ。

助け合い、兄弟愛に溢れる栄樹さんと剛志さん。 イラスト=猪本典子

そして、それぞれのお店で使用しているのが「GAKU ceramics」の器や「Taizo Glass Gallery」のお皿やグラス、「IRON CHOP」の傘立てやコート掛けなど、岩瀬の工芸作家の作品だ。

そして、「北陸すしアカデミー」で学ぶ人たちも、富山県のキャッチコピー「寿司といえば、富山」の一員として、いつかこの岩瀬で長ーいカウンターのお店を構える日がやってくるのかもしれない。

“お目当ては、個性派店主の唯一無二のひと皿”

イラスト=猪本典子

新進気鋭の寿司職人。技が光る、斬新な組み合わせ

GEJO(ゲジョウ)[寿司]

桜の葉でマリネした白海老は、春の名残が香りとなって、白海老本来の甘みとともに口の中に広がる。 撮影=阿部 浩

2020年岩瀬に「GEJO」を開くまで、下條貴大さんの道のりはユニーク。富山の和食店で10年間修業し、富山の風土や自然の豊かさを学んだあと、フランス料理店や寿司店へ。フランス・ブルゴーニュやブルガリアでもシェフを経験。だから人脈も豊富で、材料の調達や料理、器にも独特のアイディアが盛り込まれている。いまも世界中でケータリングやイベントを行い、その歩みは国境を越えて広がり続けている。

牡蠣のピュレといしる、「満寿泉」の貴醸酒でマリネした宮崎産の「GEJOキャビア」は、ご主人自らデザインした真鍮のグラスに。 撮影=阿部 浩
鉄製の看板を掲げる玄関。 撮影=阿部 浩

DATA
コース昼26,450円、夜32,200円~ ※要予約
営業時間/12時~15時、18時~23時
定休日/不定休
tel.076-471-8522
Google mapで確認
富山県富山市東岩瀬町180

GEJO

行列の絶えない蕎麦店が岩瀬へ。個性溢れるお蕎麦に舌鼓

酒蕎楽(しゅきょうらく)くちいわ[蕎麦]

立山町でご主人自らが育てた蕎麦を使用。4つの異なるフィルターに通しながら、蕎麦を挽く。 撮影=阿部 浩

2022年、朝日町からこの地へ移転する際に、店主の口岩倫彦さんがこだわったのがカウンター。作る側と食べる側がカウンターを挟んでお蕎麦やお酒、器の話をすることで生まれるコミュニケーションが旨みにもつながるのだと。

まずはフレッシュな蕎麦の実を、手のひらで楽しませてくれます。 イラスト=猪本典子

店主が名付けた前菜10種の“大人のハッピーセット”には母の味である松前漬けを加えてみたり、山菜風味のオリーブ油を蕎麦に使ったりと、妙味のある話は尽きない。

酒肴10品が並ぶ前菜。 撮影=阿部 浩
約2センチ幅の蕎麦は、弾力のある食感が特徴。安曇野の山葵とアニャナ塩、オーストラリアのオリーブ油とともに。 撮影=阿部 浩
滋賀の神社の御神木を使った6人掛けの長いカウンター。ガラス戸越しに土蔵の扉が見える。 撮影=阿部 浩

DATA
夜コース15,000円~ ※要予約
営業時間/18時~22時
定休日/不定休
tel.なし
Google mapで確認
富山県富山市東岩瀬町135

酒蕎楽くちいわ

海と山の幸を薪火で調理。地産ワインと味わう至極のフレンチ

カーヴ・ユノキ[フレンチ]

薪火で軽く炙った富山産バイ貝と菜の花、うるいの葉や茎に山菜パウダーを添えて。富山のワイナリー「セイズファーム」の「プライベートリザーヴ アルバリーニョ 2023」と。 撮影=阿部 浩

2021年のリニューアルでカウンターと薪窯を増設。約100年前の土蔵を改装した、薪火料理が自慢のフランス料理店。次のひと皿を心待ちにさせるスモークの香りにワインも進み、柚木栄樹さんが採った黒文字を削った肉刺し用の串に目をやれば、山荘でもてなされているような錯覚を覚える。おいしさの記憶は膨らみ、余韻が残る。

肉質がきめ細かい日本鹿のクラシタ肉(肩ロース)とハツを薪火で調理。野ぜりや山にんじんなど山菜を添えて。 撮影=阿部 浩
カウンター前の「IRON CHOP」製の調理用薪ストーブと柚木シェフ。 撮影=阿部 浩
森家の米蔵を改装した店の前に、土蔵の通路が続く。 撮影=阿部 浩

DATA
コース夜22,000円~ ※要予約
営業時間/18時ドアオープン、18時30分~22時(一斉スタート)
定休日/月曜
tel.076-471-5556
Google mapで確認
富山県富山市東岩瀬町102 森家土蔵群二番

カーヴ・ユノキ

120時間以上、生地を熟成・発酵!?地の魚介類を生かしたピザが自慢。

port pizza NAVE(ポートピザネイヴ)[ピッツェリア]

富山県産のバイ貝とにんにくが特徴のAHOバイ。地酒の「三郎丸(さぶろうまる)スモーキーハイボール」とともに。 撮影=阿部 浩

2025年開店。120時間以上かけて熟成・発酵させたピザ生地。低イーストで長時間熟成・発酵すると生地がふわっと軽くなり、店主が独自に世界各国のものをブレンドした小麦粉の味わいが深くなる。

もともとパン作りが趣味だった柚木剛志さん。キッチンカーでピザを販売すると評判を呼び、「カーヴ・ユノキ」のお兄さんの誘いで店をもつことに。「黒崎屋」でも冷凍のピザを販売中。

ピザ窯の表面の装飾は「IRON CHOP」が施す。ピザは約400℃で3分ほど、じっくりと焼く。 撮影=阿部 浩
撮影=阿部 浩

DATA
ランチセット2,600円ほか
営業時間/11時30分~18時(金・土・日曜、祝日~15時、18時~21時30分)
定休日/火曜、第1・3月曜
tel.076-481-7718
Google mapで確認
富山県富山市東岩瀬町6

port pizza NAVE

開放感溢れる店内で、地産地消のイタリアンを

ピアット スズキ チンクエ[イタリアン]

富山県産の多種多様な旬の魚に、バジルソースなどを合わせた前菜。ひらめやあじ、さわらなどが並ぶ。 撮影=阿部 浩

2025年開店。大きな石門をくぐると椿や桜、ミモザにオリーブ、沈丁花やローズマリーと和洋交じり合った四季の花が楽しめる庭が広がる。地の魚介を使った前菜やグリルはいずれも繊細で爽やかな味わいだ。富山らしい昆布と醬油を使った泡のソースを添えたオムレツも食感が楽しい。明るいガラス張りの店内は、どこか海辺の別荘に招かれたような気分にさせてくれる。

香ばしく焼かれたぼたん海老が主役のいか墨パスタ。みずみずしい水菜がシャキシャキとした食感を加える。 撮影=阿部 浩
〈右〉麻布十番にあるイタリアンの名店「ピアット スズキ」で修業した店主の鈴木五郎さん。〈左〉ガラス張りの店内から草木を望む。 撮影=阿部 浩

DATA
コース昼2,750円~、夜7,150円~
営業時間/11時30分~14時、18時~20時15分(ともにL.O.)
定休日/月曜
tel.076-482-4014
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富山県富山市東岩瀬町93

ピアット スズキ チンクエ

富山の伏流水で造るチェコスタイルのビール

KOBO Brew Pub(コボブルーパブ)[ビールバー]

ホップと麦の組み合わせにより、色に違いができる。 撮影=阿部 浩

国登録有形文化財「旧馬場家住宅」の旧米蔵を改装し、2020年にオープン。広々とした空間にはガラス張りのビール醸造所が併設され、大きな一枚板のテーブルが並ぶ。チェコスタイルのビールは口当たりが軽く、パテやソーセージと相性がいい。「桝田酒造店」の酒粕を用いた「ドラゴンエール」や、4種類のホップを使った爽やかな口当たりの「IPA」などがおすすめ。

スロバキアのレシピを再現した大きなソーセージと、酒粕を食べて育った富山和牛のスモークジャーキー。合わせるのは、「満寿泉」の酒粕を用いた特製ビール。 撮影=阿部 浩
撮影=阿部 浩

DATA
テイスティングセット(4種)1,500円ほか
営業時間/11時~18時 ※フード17時15分、ドリンク17時45分(ともにL.O.)
定休日/不定休
tel.080-3047-9916
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富山県富山市東岩瀬町107-2

KOBO Brew Pub

Barくろ[バー]

撮影=阿部 浩

魚津でオーセンティックバーを手掛ける佐々木麗さんの2号店。おすすめは「満寿泉」の酒粕とウイスキーのカクテル。

撮影=阿部 浩

DATA
※要予約
営業時間/14時~18時
定休日/不定休(Instagramにて告知)
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富山県富山市東岩瀬町124

Barくろ

酒商(さかしょう) 田尻本店[酒店]

撮影=阿部 浩

満寿泉をはじめ、清酒蔵元直送銘柄からワインまで、店主が選び抜いた珠玉の品揃え。

撮影=阿部 浩

DATA
営業時間/10時~19時(日曜~18時)
定休日/月曜
tel.076-437-9674
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富山県富山市東岩瀬町102

酒商 田尻本店

富山のお寿司はなぜ、おいしい?
一年中獲れる毛がにや種類豊富な白身の数々―。富山の寿司店や日本料理店を訪れると、その魚種の豊富さに驚かされます。その理由は地形にあり。富山県の地形は、日本列島の形成とその後の地殻変動によって生まれました。大陸の分裂で日本海が形成され、富山湾は断裂帯の影響で水深1,000メートル級の深海に。さらに、マグマ活動によって立山連峰が約3,000メートルまで隆起しました。立山連峰から流れ込む栄養豊富な水と、水深1,000メートル超えの富山湾の地形。この標高差4,000メートルにも及ぶダイナミックな地形が豊かな漁場をつくり出したのです。能登半島と佐渡島に囲まれた富山湾は「天然の定置網」とも呼ばれ、日本海の魚種800種類のうち約500種類が生息する「天然のいけす」として知られています。

SUSHIを通して、世界の富山へ
そんな豊かな海の幸とともに富山をまるごと味わうなら、寿司がおすすめです。立山連峰の雪解け水は、米づくりや日本酒造りを支え、富山独自の豊かな食文化を育んできました。ます寿しやかぶら寿し、昆布文化などの伝統食に加え、工芸やガラスの器など食を彩る文化も充実しています。「ウェルビーイング先進地域・富山」を目指し、富山に愛着を持つ人々を「幸せ人口」として増やす取り組みを進めている富山県。その一環として展開しているプロジェクトが「寿司といえば、富山」です。

「寿司といえば、富山」の詳細はこちら

撮影=阿部 浩 取材・文・イラスト=猪本典子 編集=吉岡尚美 沼田凜々子(ともに本誌)

『婦人画報』2026年6月号より

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