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「やっぱりこっちで」リリース直前に届いた一言→徹夜明けの30代男性が画面の前で固まった瞬間

  • 2026.5.18
「やっぱりこっちで」リリース直前に届いた一言→徹夜明けの30代男性が画面の前で固まった瞬間

仕様確定までに、もう何往復したかわからない

システムの開発を任されてから、私は毎日仕様書と向き合っていた。

要件をヒアリングし、画面遷移を整え、データの流れに矛盾がないか何度もなぞる。

技術者にとって、ここがいちばん神経を使う時間だ。

けれど、上流工程の担当者からの連絡は、何度も繰り返し入った。

「ごめん、ここの項目、やっぱり追加で」

軽い一行のメッセージで、テーブル設計が崩れる。

崩れた分は、現場で吸収する。

仕様変更が重なるたびに、影響範囲を洗い直し、テストケースを書き直し、関わるメンバーに頭を下げて回る。

同じチームの後輩は、画面の前で何度も眉を寄せていた。

「これ、また書き換えですか」

そのつぶやきに、私は短く頷くしかなかった。

それでも、形が見え始めると気持ちは前を向いた。

エラーが減り、想定外のケースを潰し、画面の動きが滑らかになっていく工程には、職人仕事に近い手応えがあった。

(動くものを世に出せれば、それでいい)

リリース前夜の伝言で、空気が止まった

リリース予定日の前夜、私は深夜まで会社に残って最終確認をしていた。

動作はおおむね問題ない。

明日の朝、本番公開のボタンを押せば、長く付き合ったこのプロジェクトはひとまず終わる。

徹夜明けで重い目を擦りながら、コーヒーを淹れ直したところだった。

そのタイミングで、プロジェクトリーダー経由で短い伝言が届いた。

「やっぱりこっちで」

添付された資料を開くと、画面の主要な仕様が、根本のところから別案に書き換えられていた。

私は画面の前で、しばらく動けなかった。

これまで何度ヒアリングしたか。現場の工夫を重ね、負荷を予測しながら、ここで止まらないように積み上げてきた設計だった。

それを、最後の最後に、たった一言の連絡が静かに塗り替えていく。

リーダーも、伝えに来た時の声が小さかった。

「ごめん、間に合うところまででいいから」

結局、間に合うところまで、ではなく、間に合わせるしかない。

怒鳴る相手はいない。書き換えれば、形は出来上がる。

だからこそ、削られたのは時間より先にやりがいだった。

技術者として何のために積んだのか、その問いだけが、白々と光るモニタの前に取り残されていた。

エアコンの送風音だけが妙に大きく、私は冷めかけたコーヒーに口をつけ直した。納品の朝までに、書き換えられる箇所はすべて書き換えるつもりだった。

それでも胸の奥で、何かが少しずつ静かに削れていくのは、止められそうになかった。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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