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機能不全家族から逃げ、踏み出した自立への第一歩。しかし働き出した職場で待っていたのは、ストーカーに侵食されていく恐怖の日々だった…【書評】

  • 2026.5.15

【漫画】本編を読む

『社内ストーカーに人生をめちゃくちゃにされました』(きなこ・ジョンソン/KADOKAWA)は、社会に出たばかりの若い女性が、職場で出会った「優しい」先輩によって人生を崩されていく過程を描いた作品だ。

物語は、18歳の主人公・きなこが、専門学校に通いながら料亭で働き始めるところから始まる。毒親に育てられたきなこは、高校卒業後逃げるように家を出て、念願だったひとり暮らしと新しい環境を手に入れて胸を躍らせていた。しかし、平穏なはずの日々は、ある先輩の存在によって徐々に侵食されていく。

職場で陰湿なベテラン従業員にきつく当たられたとき、必ず助けてくれるのが先輩・山田だった。最初は頼れる存在として映っていた彼の行動は、次第に違和感を帯びていく。過剰なボディタッチやプライベートへの踏み込みと、優しさだと思っていたものがいつの間にか歪んだ束縛へと変わっていく。

本作の核心は「ストーカー加害がゆっくりと進行していく恐怖」だ。露骨な暴力や脅迫ではなく、善意や好意の延長として始まるため、被害を自覚していても周囲には理解されにくい。そして気づいたときにはすでに日常が侵食されている。被害の場が生活の糧を生み出す職場であるというのがさらに厄介だ。職場が「逃げ場のない地獄」へと変わっていく過程が恐ろしい。

さらに印象的なのは、きなこが置かれた状況の閉塞感だ。機能不全家族から逃げるように出てきた彼女にとって、山田から逃げるために仕事を辞めることもまた地獄なのだ。彼女の境遇を追いかけていくうちに、読み手は彼女の絶望感を追体験することになる。

現実の世界でも、ストーカー事件は後を絶たず、その動機は身勝手で唐突で予測不能だ。そしてときに人間関係は善意と欲望の曖昧な境界の上に成り立つことがある。本作は、その境界が崩れた際に現れる些細な違和感をやり過ごすことなく、自分を守るために逃げることや環境を変えることを促してくれるだろう。

文=宇田 勉

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