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“恐怖の帝王”も称賛するマイク・フラナガンという才気…キング原作映画『サンキュー、チャック』などで描く人間が“輝き”を放つ瞬間

  • 2026.5.3

“恐怖の帝王”と呼ばれるスティーヴン・キングのホラー小説は、『キャリー』(76)を皮切りに次々と映画化され、近年では『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(17)などのヒット作を生み出し、観客の背筋をゾクゾクさせてきた。その一方、『スタンド・バイ・ミー』(86)や『ショーシャンクの空に』(94)、『グリーンマイル』(99)といった非ホラー系映画も、不朽の名作として人気が高い。

【写真を見る】大人になったダニー少年が過去のトラウマと向き合う『ドクター・スリープ』

トム・ヒドルストン演じる広告の男チャック(『サンキュー、チャック』) [c] 2024 DANCE ANYWAY, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
トム・ヒドルストン演じる広告の男チャック(『サンキュー、チャック』) [c] 2024 DANCE ANYWAY, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

極めつけの恐怖映画か、それとも感動作かで評価が大きく分かれているのが、キング原作の中編小説「チャックの数奇な人生」を映画化した『サンキュー、チャック』(公開中)だ。「アベンジャーズ」シリーズのロキ役でおなじみのトム・ヒドルストン主演作で、「スター・ウォーズ」シリーズでルーク・スカイウォーカー役を演じてきたマーク・ハミルが主人公の生涯に影響を与えるキーパーソンとして登場する。

マーク・ハミル演じるチャックの祖父(『サンキュー、チャック』) [c] 2024 DANCE ANYWAY, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
マーク・ハミル演じるチャックの祖父(『サンキュー、チャック』) [c] 2024 DANCE ANYWAY, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

監督、そして脚本も手掛けているのが、原作者キングが大いに信頼を寄せているマイク・フラナガン。人類が滅亡の危機に瀕するなかで、主人公たちが“生きる”ことの意味に気づくというメッセージ性の高いミステリードラマが生みだされた。

世界が滅亡に向かうなか、街に出現する謎の看板

映画は原作と同様に三部構成となっており、まず第三章から物語は始まる。高校教師のマーティー(キウェテル・イジョフォー)は世界に異変が起きたことに気づく。大地震に続き、インターネットはつながらなくなり、道路も陥没して交通不能となる。世界に滅亡の日が迫るなか、街の至るところに「チャールズ・クランツに感謝します。素晴らしい39年間に、ありがとう、チャック」という謎の看板が現れる。チャックことチャールズ・クランツとはいったい何者なのか?

世界の終焉に直面している高校教師のマーティー(『サンキュー、チャック』) [c] 2024 DANCE ANYWAY, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
世界の終焉に直面している高校教師のマーティー(『サンキュー、チャック』) [c] 2024 DANCE ANYWAY, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

続く第二章では、そのチャック(ヒドルストン)が登場。スーツ姿の真面目そうな男だが、ストリートミュージシャンの演奏に合わせて華麗なダンスを披露する。さらに第一章は、チャックがダンス好きになった少年期へと遡る。同時に、なぜ世界は滅亡に向かっているのか、その理由も明らかになる。

ストリートミュージシャンの演奏に合わせて華麗なダンスを披露するチャック(『サンキュー、チャック』) [c] 2024 DANCE ANYWAY, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
ストリートミュージシャンの演奏に合わせて華麗なダンスを披露するチャック(『サンキュー、チャック』) [c] 2024 DANCE ANYWAY, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

キングはゲラ段階の原作小説をフラナガン監督に送っていたそうだ。このような揺るぎない信頼を寄せているのは、彼が少年期からのキング小説の熱心な愛読者であり、「ドクター・スリープ」を映画化したことが大きいと思われる。

過去と現在を交錯させ、主人公の内面に迫るマイク・フラナガンの演出

「ドクター・スリープ」はキングの代表作「シャイニング」の続編で、ユアン・マクレガー主演で2019年に映画化されたのだが、期待されたほどのヒット作にはならなかった。だが、キングが不満を抱いていたスタンリー・キューブリック監督による『シャイニング』(80)のフッテージをあえて使い、オーバールック・ホテルでの惨劇を生き延びたダニー少年が大人になり、過去のトラウマに向き合う姿が丁寧に描かれていた。

【写真を見る】大人になったダニー少年が過去のトラウマと向き合う『ドクター・スリープ』 [c]Everett Collection/AFLO
【写真を見る】大人になったダニー少年が過去のトラウマと向き合う『ドクター・スリープ』 [c]Everett Collection/AFLO

映画『ドクター・スリープ』を観て、キングは自身が「黒歴史」認定していたキューブリック版『シャイニング』に対するわだかまりを解消できたのではないだろうか。映画化された『ドクター・スリープ』は、キング派とキューブリック派のどちらも納得できる内容だったのだ。

フラナガン監督はキングとの初タッグとなった『ジェラルドのゲーム』(17)でも、過去と現在を交錯させながら、主人公の内面に迫る演出を展開した。記憶のなかの自己との対話が、フラナガン作品に共通するテーマだと言えるだろう。

『ドクター・スリープ』、そして『サンキュー、チャック』を手掛けたマイク・フラナガン監督 [c]Everett Collection/AFLO
『ドクター・スリープ』、そして『サンキュー、チャック』を手掛けたマイク・フラナガン監督 [c]Everett Collection/AFLO

生きることの喜びとそれを失うことの恐怖を同じ比重で描写

ジャンプスケア(恐怖演出)に頼らず、派手な効果音も使わない。主人公たちの心情をきっちりと描くことで、生きることの喜びとそれを失うことの恐怖をじわじわと炙りだしていくのがフラナガン演出の真骨頂だ。生きる喜びと恐怖を同じ比重で描いているところも、彼の作品の特徴となっている。

生きる喜びがチャックを通して伝播していく(『サンキュー、チャック』) [c] 2024 DANCE ANYWAY, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
生きる喜びがチャックを通して伝播していく(『サンキュー、チャック』) [c] 2024 DANCE ANYWAY, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

人間が持つ特別な才能のことをキングは“シャイニング”と呼んだわけだが、『サンキュー、チャック』でも人間が“輝き”を放つ瞬間が映しだされる。ヒドルストンや子役のベンジャミン・パジャックが踊りに熱中するシーンは、まさに人生の“輝き”そのものであり、生きることの喜びを凝縮した名場面となっている。キングファンにとっては、『スタンド・バイ・ミー』の少年たちが焚き火を囲むシーン、『ショーシャンクの空に』の刑務所の屋根でビールを飲むシーンと同様に、忘れられないものになるはずだ。

人生の“輝き”そのものといえるダンスシーン(『サンキュー、チャック』) [c] 2024 DANCE ANYWAY, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
人生の“輝き”そのものといえるダンスシーン(『サンキュー、チャック』) [c] 2024 DANCE ANYWAY, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

キング原作の非ホラー系映画が好きな人は、きっと『サンキュー、チャック』にもハマるだろう。そして、映画を観終わったあとに「サンキュー、キング」と口にするに違いない。

文/長野辰次

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