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「なぜ外したのか」駅員たちが首をかしげた意外な忘れ物…実は傘だけではない“常連さん”に「謎です」

  • 2026.5.21
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。現役鉄道会社社員の福本明文です。

電車に乗っていて、ふと手すりを見ると、そこには主を失った一本の傘がポツンと取り残されている……。鉄道を利用していれば多くの人が一度は見かける光景です。デジタル技術が目覚ましく発展し、スマートフォン一つで何でも完結する時代になっても、電車内から忘れ物が消える気配はありません。

むしろ、忘れ物の管理は鉄道会社にとって年々大きな負担となっており、その裏側では駅員たちの苦労と、最新技術を駆使した解決への模索が続いています。今回は、意外な忘れ物の正体から、AIを導入した最新の対策まで、鉄道の忘れ物にまつわる「裏側」に迫ります。

数字で見る忘れ物:不動の王者「傘」と増え続ける件数

神奈川県で相模鉄道を運行する相鉄グループは、毎年忘れ物のランキングとともに統計データを公表しています。そのデータによると、2024年度の忘れ物件数は前年度比で4.5%増加しています。その中で不動のランキング1位に君臨し続けているのは、やはり傘です。次いで現金、衣類や生活用品といった品目が続きます。

雨が上がった後の車内には、数多くの傘が残されています。特にビニール傘などは「また買えばいい」という心理が働くのか、持ち主が探しに来る確率は極めて低いのが現状です。忘れ物全体で見ても、相鉄グループが公表している返却率は約30.0%。つまり、10個の忘れ物のうち7個は、持ち主の元へ戻ることなく保管期限を迎えているのです。この数字は他の鉄道会社でも同程度と考えられ、鉄道業界全体の課題といえます。

「なぜこれを?」現場を困惑させる意外な品々

ランキング上位の常連以外にも、駅の保管庫には驚くようなものが届けられます。

入れ歯
「なぜ外したのか、そしてなぜ忘れたのか」と、駅員たちが最も首をかしげる品の一つです。私も実際に保管されているのを見たことがあり、件数が少なくないのも謎です。

弓道の矢
趣味や部活動の道具もよく忘れられます。弓道の矢は長さがあるため目立ちそうなものですが、慣れとは恐ろしいもので、壁に立てかけて手を放した瞬間に意識から消えてしまうようです。


近年、高齢化に伴って増加しているのが杖の忘れ物です。駅員たちが心配するのは、杖なしで家まで辿り着けたのだろうかということ。目的地に着いた安心感や、降車時の慌ただしさが、身体の一部であるはずの道具を忘れさせてしまうのかもしれません。

また、対応に最も苦慮するのが食品です。食品は衛生上の理由から長期間の保管ができません。しかも、これらは警察で引き取ってもらうことができないため、鉄道会社側で処分せざるを得ないことが多く、担当者の心を痛める要因となっています。

忘れ物に対する鉄道会社の対応

忘れ物が一つ見つかると、鉄道会社では少なくない業務が発生します。

記録と保管
駅や車内で拾得した日時や場所、特徴をシステムに入力し、現品にタグを付けます。

集約と輸送
各駅から忘れ物センターなどの集約拠点へ運び、品物によってはさらにそこから警察署へと輸送します。

警察への届け出
法令に基づき、警察への届け出書類を作成して手続きを行います。

これらすべての工程には、多くの人の手と時間が費やされています。しかし、前述のように70%もの忘れ物に引き取り手がなく、最終的に処分されてしまい、業務上の大きな負担となっています。

AIが救世主に? 進化する問い合わせシステム

この返却率の低さと管理の手間という大きな課題を解決するため、最新技術の導入が始まっています。

2024年、Osaka Metro(大阪メトロ)は全国で初めて、AIを使った画像解析による忘れ物問い合わせシステムを導入しました。これは、落とし物クラウド「find」を活用したもので、ユーザーがLINEから「何をなくしたか」を入力すると、AIが保管されている物品の画像や特徴と照合し、瞬時に候補を表示してくれる仕組みです。

同様の動きは東京都交通局などにも広がっています。これまでのように電話をかけて、駅員が台帳をめくったりシステムで検索したりして確認するという作業をAIが代替することで、問い合わせのハードルが下がり、返却率の大幅な向上が期待されています。

一番の対策は「余裕」と「確認」

システムがどれほど便利になっても、最も大切なのは「忘れないこと」です。

「振り返り」を習慣にする
電車を降りる際、自分が座っていた席や網棚を一度だけ振り返ってみてください。わずか1秒の動作ですが、これだけで忘れ物の大半は防げます。

心に余裕を持つ
駆け込み乗車や、降車駅のホームに滑り込む直前に慌てて席を立つのは危険です。到着の少し前から荷物をまとめ、落ち着いて立ち上がる心の余裕が、うっかりによる忘れ物を防ぎます。

もし、何かを忘れてしまった時は、「安物だからいいや」「手続きが面倒そう」と諦めないでください。現在はLINEなどで手軽に問い合わせができる環境が整いつつあります。

あなたが忘れ物を取りに戻ることは、自分の財産を守るだけでなく、廃棄物を減らすという環境保護、そして何より、日々忘れ物の管理に奔走している鉄道係員の負担軽減にも直結します。物を大切にする気持ちが、鉄道という公共インフラをより円滑に動かす力になるのです。

次回の降車時、電車のドアが開くその前に、ぜひ一度自分が座っていた座席を振り返ってみてください。


参考:
2024 年度の忘れ物件数が 4.5%増加(相鉄グループ)
都営交通にAIを活用したお忘れ物検索サービスを導入(東京都交通局)
全国初!Osaka Metro が落とし物問い合わせに画像解析AIを導入~LINEアプリを利用した落とし物検索サービス「落とし物クラウドfind」を導入します~(Osaka Metro)


ライター:福本明文
大学卒業後、鉄道会社に総合職として入社し、鉄道業界を15年以上経験。鉄道部門だけでなく、関連事業部門のタクシーやバス、小売りなどを幅広く経験。現在はWebライターとしても活躍し、広報を担当した経験からコラム記事の執筆からSNSへのコンテンツ提供まで幅広く活躍中。


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