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「並んでますよ!」駅での割り込み行為から険悪な空気に…現役鉄道員が明かす、5月に急増する“無意識のトラブル”

  • 2026.5.15
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。現役鉄道会社社員の福本明文です。

新年度がスタートして1ヶ月。真新しいスーツや制服に身を包み、緊張した面持ちで駅を行き交っていた人々も、5月に入る頃にはすっかり新しい環境や通勤ルートに慣れてきます。しかし、この「慣れ」こそが、思わぬトラブルの引き金になることがあります。

実は、5月は駅や車内での乗客同士のトラブルが急増すると現場で実感する時期であり、鉄道各社がとりわけ神経を尖らせる季節でもあるのです。今回は、現場の様子や鉄道会社のユニークな取り組みを交えながら、車内でのマナーについて考えていきましょう。

駅員が見つめる「慣れ」の瞬間

新年度が始まったばかりの4月は慎重に行動する人が多いため、マナーに関するトラブルは多くありません。しかし、大型連休が明けた5月に入ると少し様子が変わります。

ある朝、ホームには通勤・通学客が列をなしています。駅員はホームの端で鋭い視線を送っていました。すると、男性がスマートフォンの画面を凝視したまま、無意識のうちに列に割り込んでしまったのです。「並んでますよ」 と、鋭い声が響きます。謝れば済むはずの些細な出来事ですが、言われた側も連休明けの憂鬱さや、新生活の疲れが溜まっている時期。「そんな言い方しなくてもいいだろう!」と瞬く間に言い争いに発展し、周囲には険悪な空気が流れます。駅員が駆け寄ると二人とも気が付いたように言い合いをやめました。

こうした光景は決して珍しいものではありません。通勤に慣れて、自分のリズムが出来上がってしまう5月こそ、周囲への意識が薄れがちになるのです。

ついやってしまいがちな無意識の行動

私たちが「慣れ」によって、つい無意識にやってしまう行動にはどのようなものがあるでしょうか。代表的な例を挙げてみましょう。

・列への割り込み(横入り)
前の人が乗るのが遅い、早く乗り込んで座りたいなどと考えていて並んでいる列につい割り込んでしまうことがあります。また、前の人と間を空けすぎていたり、本来の列とは違った方向に並んでいたりしないか、並んでいる側も割り込みをされないための注意が必要です。

・リュックサックや大きな荷物
混雑した車内では、リュックサックや大きな荷物の持ち方にも注意したいところです。特に背負ったままだと、知らず知らずのうちに周囲の邪魔になったり、他の人にぶつかったりすることがあるため気をつけましょう。

・ドア横の「居座り」
降りる人のためにできるだけ通路を空けたり、状況によっては一度ホームに出るのがスムーズですが、「自分の場所を確保したい」という思いから、ついドア横などに居座ってしまうことはありませんか。改めて注意をしていきましょう。

5月は新しい環境へのストレスや、連休という非日常から日常へ引き戻されたことによる精神的な負担が重なり、普段なら許せることでも攻撃的な反応を示しやすくなります。こうした心理状態がマナー違反をトラブルへと深刻化させてしまいます。改めて、自分の行動を振り返っていきましょう。

鉄道各社の工夫:ユーモアで伝える「 Goodマナー 」

マナー違反に対して、単なる啓発ではなかなか浸透しません。鉄道各社は乗客の心に届くよう、さまざまな工夫を凝らしたマナー啓発活動を展開しています。

・阪急電鉄の「Goodマナー × Goodライフ」
関西を拠点とする阪急電鉄では、「Goodマナー × Goodライフ」というテーマを掲げています。最大の特徴は押し付けがましくないやわらかさです。啓発するポスターでは、淡く優しい色使いのイラストに思わずクスッとしてしまうようなユーモアを交え、マナーを守ることが「自分自身の質の高い生活(Good Life)」につながるというメッセージを発信しています。「~してはいけません」と禁止するのではなく、「こうすると素敵ですよね」というスタンスで訴えかける手法は反発心を抱かせない巧みな表現です。

・JR西日本の「マナーいきものペディア」
特にユニークで、SNSなどでも話題を呼んでいるのがJR西日本の「マナーいきものペディア」シリーズです。これは、駅や車内での困った行動を「架空の生き物」に見立てて紹介する図鑑風のキャンペーンです。筆者が特に印象に残っているのが、カラスをモチーフにしたキャラクター「よこカラスー」です。乗車待ちの列に横から割り込む習性を持つこの生き物は、「よこからすーっと割り込む」様子と「カラス」を掛け合わせたネーミングで、割り込みの迷惑さをユーモラスに風刺しています。このシリーズには他にも、優先席で席を譲らずに寝たふりをする「寝たふリス」、駆け込み乗車をする「かけこミジンコ」など、多くのキャラクターが存在します。あまりの人気に啓発ポスターの枠を超え、文房具や雑貨などのグッズまで販売されるほどの広がりを見せています。

新年度の「緊張感」を思い出す

「マナーを守りましょう」という言葉を正面から言われると、多くの人は「自分はちゃんとやっている」「そんなこと分かっている」と反発心を感じてしまうかもしれません。しかし、鉄道各社がユーモアを交えて伝えているのは、マナーが単なる「規則」ではなく、公共の場にいる全員が不快な思いをせず、安全に目的地へ着くための知恵だからです。

乗客同士のトラブルが発生すれば、当事者だけでなく周囲の乗客にも大きな不快感を与えます。さらに、言い争いや小競り合いが原因で電車の非常停止ボタンが押されれば、列車の遅延が発生し、数万人という人々の生活に影響を及ぼすことさえあるのです。5月のこの時期、もし自分の心に余裕がないと感じたら、4月の頃の少し緊張した丁寧な自分を思い出してみてください。「自分だけは大丈夫」と思わず、鉄道会社のポスターに描かれたキャラクターを自分事として眺めてみる。そんな少しの心の余白が、駅のホームや車内の空気を穏やかに変えていくはずです。

鉄道は、見ず知らずの人たちが目的地を共にする「動く社会」です。鉄道各社が提供するユーモアあふれるヒントを参考に、自分の行動を少しだけ振り返ってみる。それが、スマートで心地よい通勤・通学ライフへの第一歩となるでしょう。


参考:
マナー啓発運動(阪急電鉄)
駅や車内でのマナー啓発(JR西日本)


ライター:福本明文
大学卒業後、鉄道会社に総合職として入社し、鉄道業界を15年以上経験。鉄道部門だけでなく、関連事業部門のタクシーやバス、小売りなどを幅広く経験。現在はWebライターとしても活動し、広報を担当した経験からコラム記事の執筆からSNSへのコンテンツ提供まで幅広く活躍中。


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