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『弱冷車』でも暑すぎる?阪急電鉄も設定車両を削減へ…現役社員が明かす、車内エアコン調整の裏側

  • 2026.5.14
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。現役鉄道会社社員の福本明文です。

「外は汗ばむ陽気なのに、車内は冷房が効きすぎていて肌寒い……」
「冬の朝なのに暖房が効きすぎていてのぼせそう……」

通勤や通学で鉄道を利用しているとき、一度はそう感じたことがあるのではないでしょうか。近年、日本の気象環境は劇的に変化しています。3月や4月でも最高気温が30度に迫る季節外れの夏日が珍しくなくなり、かつての「○月になったら冷房を入れる」という単純な調整では済まなくなりました。

今回は、私たちの日常を支える鉄道の車内エアコンにスポットを当て、その進化と調整の舞台裏に迫ります。

冷房は「贅沢品」だった時代

かつての鉄道には、今では当たり前の「冷房」という概念そのものが希薄でした。冬場は機関車の熱やストーブで暖を取る暖房が鉄道の草創期からありました。しかし、冷房は戦前にごく一部の列車に搭載されるにとどまり、戦後も新幹線や特急など一部の列車に限られた設備でした。通勤電車でも冷房が普及し始めたのは1970年代ですが、それでも80年代までは非冷房車が数多く残っていて、夏場は窓を開け、天井で回る扇風機が唯一の救いでした。

当時の扇風機は乗客が自分でスイッチを入れるタイプもありましたが、多くは車掌が一括で制御するものでした。中には走行中のみ稼働するタイプもあり、駅に長時間停車すると扇風機も止まってしまい、車内が蒸し風呂状態になることも珍しくありませんでした。

当時を知る世代にとっては、汗を拭きながら窓から入る風を待つのも、ある種、夏の風物詩だったのかもしれません。しかし、現代の気候では冷房なしは考えられません。

カレンダーによる切り替えの限界

平成に入ると、都市部ではほぼすべての車両にエアコンが標準装備されるようになりました。しかし、初期の頃はエアコンの性能や制御システムが今ほど高度ではなく、多くの鉄道会社では一定の時期が来たら暖房から冷房へ一斉に切り替えるという運用が一般的でした。

この運用で問題になるのが季節の変わり目です。「昨日は寒かったから暖房を入れているが、今日は急に気温が上がった」という日、車内は逃げ場のない熱気に包まれ、まさに蒸し風呂状態。当時の乗客は、窓を少し開けてしのぐしかありませんでした。この切り替え時期のミスマッチは、鉄道会社にとっても長年の課題だったのです。

コンピューターと「人の手」によるハイブリッド制御

現在の鉄道エアコンはかつてと比べ物にならないほどハイテク化されています。今では多くの車両が、車内外の温度をセンサーで検知し、あらかじめ設定された目標温度(会社により異なりますが、おおむね24度〜26度前後)に合わせて、冷房・暖房・送風を自動で切り替えるシステムを採用しています。

しかし、機械任せだけでは解決できないのが鉄道ならではの難しさです。

例えば、始発駅ではすいていても、主要駅で一気に乗客が増えれば、人の熱気で車内温度は急上昇します。また、駅に停まるたびに外気が入り込むため、一定の温度を保つのが非常に困難です。そして、同じ温度でも、スーツを着ているビジネスパーソンと、薄着の学生では感じ方が異なります。

これに対応するため、現在でも車掌による微調整が欠かせません。車掌はモニターで各車両の混雑状況や温度を確認するだけでなく、自ら車内を巡回した際の肌感覚を頼りに、設定温度を調整したり、送風を強めたりしています。

また、冷房が苦手な人や体調への影響を考慮して導入されている「弱冷車」。一般車両よりも1〜2度高く設定されていますが、これも多様なニーズに応えるための鉄道会社ならではの工夫です。

酷暑が生んだ変化

地球温暖化などの環境の変化は長年続いてきたサービス形態さえも変えようとしています。近年の夏場の異常とも言える酷暑により、弱冷車でも暑すぎるという声が増加しました。

象徴的なのが、阪急電鉄の動きです。同社では、これまで8両編成の列車で2両設定していた弱冷車を、2026年4月から1両に削減することを決定しました。

この背景には、地球温暖化による平均気温の上昇があります。もはや弱めの冷房では対応しきれない、あるいは一般車両の冷房効率を優先すべきだという判断が働いた形です。この動きは、今後他の鉄道会社にも波及する可能性もあり、日本の夏がいかに過酷になったかを物語っています。

これからの「快適」を求めて

昭和の頃には贅沢品だった冷房は、今や乗客の健康と安全を守るためになくてはならないものとなりました。

鉄道各社は、AIを活用した混雑予測による先回り制御や、換気性能を損なわない省エネエアコンの導入など、さらなる進化を続けています。家庭やオフィスとは比較にならない過酷な条件下で、数分おきに環境が変わる空間を快適に保つ。その裏側には、高度なテクノロジーと、車掌たちの細やかな気配りが隠されています。

次に電車に乗った際、ふと感じる心地よい風。それは、変わりゆく地球環境と格闘する鉄道マンたちの努力の結晶なのかもしれません。


参考:
車内の冷暖房の調整について教えてください(JR東日本)
電車内の冷暖房の調整について教えてください(東急)
弱冷車の設定変更について(阪急電鉄)



ライター:福本明文
大学卒業後、鉄道会社に総合職として入社し、鉄道業界を15年以上経験。鉄道部門だけでなく、関連事業部門のタクシーやバス、小売りなどを幅広く経験。現在はWebライターとしても活躍し、広報を担当した経験からコラム記事の執筆からSNSへのコンテンツ提供まで幅広く活躍中。


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