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湯舟から10分で旅支度、着陸後ビザカウンターへ全力疾走! 旅ガール清水みさと【インド】へ。

  • 2026.4.17

訪れた国は約40カ国。サウナと旅をこよなく愛するタレント・モデル・俳優の清水みさとさんの連載エッセイ。今回はピンク色で統一された世界遺産の街、インドは【ジャイプール】でのお話。

【連載】清水みさと「旅をせずにはいられない」vol.7 人生を動かしたのは、どっち?

「インドに行けば人生が変わる」という言葉を、これまで何度も耳にしてきた。たしかにあの国は、人も音も匂いもすべてが過剰で、むき出しの生命があちこちでうごめいている。あんな場所、ほかではなかなか出会えない。それでも振り返ると、人生を動かしたのはインドじゃなくて、インドに向かった自分のほうなんじゃないかと思ってしまう。
 
少なくとも、わたしの場合はそうだったから。

2年前、初めてインドに行った。きっかけは、雑誌の撮影で出会ったヘアメイクの加藤恵さんだった。旅好き同士ということもあり、わたしたちは撮影の合間、自然と旅の話になった。
 
「今、どこの国に行きたい?」と聞かれ、「インド!」と答えたら「わたしも!」と返ってきて、「インドのどこ?」「ジャイプール」「わたしも!」「いく?」「いく!」という感じで、本当にそのままインド集合、インド解散をすることになった。
 
こんなにリズミカルに決まったインドだったのに、肝心な出発はまったく軽やかではなかった(やっぱりわたし!)。インドに入るにはe-VISAが必要で、それがなぜかわたしだけなかなかおりず、気づけば出発当日になっていた。10時半ごろ、羽田発の飛行機に乗らなければいけないのに、8時半、半ば諦め気味にわたしは自宅の湯船にいた。
 
現地でもビザを入手することはできるけど、調べるとどのサイトにも、空港で2〜3時間待つことになるから必ずネットでe-VISAを取るべきだと、当然のように書いてある。今回の旅でわたしがインドにいられるのは、たったの4泊5日で、行き先はデリー経由のジャイプール、しかも乗り換え時間は60分しかない。もしe-VISAが間に合わなければ、空港で時間を取られて乗り継ぎもできず、どう考えてもまともにインドを楽しめるのは二日程度になってしまう。
 
前夜から、どうにかビザがおりてくれないかと淡い期待を抱いていたけれど、そんな奇跡が起きる気配もなく、もう今回はやめた方がいいのかもしれない、という考えがじわじわ現実味を帯びてきて、泣く泣くわたしは、先にインド入りしていた恵さんに、「やっぱり行けなくなってしまいました」とLINEを送った。

もともとわたしは、旅も出会いもすべてタイミングだと思って生きてきた。うまくいかないときはそのときじゃなくて、無理も期待もせず、流れに身を任せて、なるようにならないときは、さらっと諦める。それが自分らしい選び方だと思っていたし、今回もきっとそういうことなんだろうと、どこかで納得しようとしていた。
 
それでも、なぜかまったく諦めがつかなかった。お風呂に浸かりながら、体は温まって緩んでいくのに、頭の中だけは妙に冴えていて、同じことを何度も考え続けているうちに、血が全身をめぐるみたいに、思考がぐるぐる駆けめぐり、なんだかタイミングとか考えてるのがバカらしくなってきた。
 
なんとかなるかもしれないし、ならないかもしれないけれど、一か八かでとにかく行って、行ってダメならしょうがない、くらいの少し乱暴で出鱈目な感情がわたしの背中をバチコーンと押し出した。
 
わたしは恵さんに送ったLINEを送信取り消しして、水浸しのスッポンポンで部屋中を走り回り、10分でインドへ支度を済ませ、眠っているしげおさん(旦那さん)に向かって「やっぱりインド行ってくる!」と叫んだ。こんな嫁、たまったもんじゃないはずなのに、眠気まなこのまま状況を飲みきれない顔で、羽田空港まで車をだしてくれた。
 
そうして、チェックインカウンター締め切り数分前に汗だくで滑り込み、心拍数がはち切れそうなままインドへと向かった。インドに向かう飛行機の中で、ビザのカウンターへ行く道順を頭の中で何度もなぞった。とにかく今できることはやっておかなくちゃという一心。繰り返しシュミレーションしているうちに、頭の中にうっすらと地図みたいなものが出来上がってきて、もうこれ以上できる準備はないと思えた途端、ホッとして、そのままスコーンと眠りに落ちた。

そして着陸、準備万端。飛行機を降りた瞬間、わたしはほとんど反射みたいに走り出した。バックパックを背負って、全力疾走しているわたしをインド人がめちゃくちゃ見ていたけど、そんなことまったく気にならなくて、さっきまで頭の中でなぞっていた通りに景色がひとつずつ現れるたびに「合ってる!」と確信するのが気持ちよかった。
 
準備って大事だよね、と思いながら、写真付きで道順をブログに書いてくれていたどこかの几帳面なおじさんに感謝しながら、大勢をごぼう抜きして、一番乗りでカウンターに到着。中学生のころ、適当に入部した陸上部は今日この日のためだったのかもしれないと本気で思った。
 
そして、拍子抜けするぐらいあっさりと入国が許可されて、まだゼーゼーと息が上がったまま振り返ると長蛇の列ができていた。

ジャイプールの空港に着いたのは21時。恵さんが待つホテルへタクシーで向かった。
 
窓の外には、牛が当たり前のように歩いていたり、何人乗っているかわからないバイクが走り抜けていく。さっきまで風呂に浸かってうだうだ言っていたのに、ほんとうにインドにいるなんてと、もうそれだけで胸の奥がじんわり熱くなって、込み上げた涙で視界が滲んだ。

翌日から、恵さんとジャイプールの街をあちこち回った。前日に恵さんが仲良くなっていたオートリキシャのお兄さんが、滞在中案内してくれることになり、さすが旅慣れた恵さん、こういう素敵な流れをさらっと引き寄せてしまう。

ピンクシティと呼ばれるジャイプールの観光名所をいくつか巡り、ローカルのカレー屋さんに行き、ラッシーを飲み、車が行き交う止まりのないカオスな道を渡り、少しずつインドの日常に混ざっていく感じが楽しかった。

ジャイプールの「ハワー・マハル(風の宮殿)」

ジャイプール「シティ・パレス」

ジャイプール「シティ・パレス」内部

オートリキシャニキの知人がやっているローカルなブロックプリントのファブリック店にも行った。店の奥まで色とりどりのブロックプリントの布が積み重なり、どれもこれも可愛くて目移りする。

それらの生地で作られていたパジャマも、シルクとコットンで肌触りがよく、見た目の可愛さにも惹かれて、わたしは3着購入した。恵さんは「ちょっと売ってみようかな」と、多めに注文していて、その軽やかな決断もなんだかインドらしかった。

ブロックプリントに一目惚れして、雑貨からパジャマまでいろんなファブリックのお店で爆買い!

そんなふうに全てが順調に進んでいるように見えて、うまくいかないこともあった。いろんな場所に案内したいニキと、行きたい場所があるわたしたちという構図で、文化の違いもありながら、ちょっとした言い合いになったり、「アノーキ」というおしゃれなファブリックのお店に行きたいと伝えたのに、連れて行かれたのはなぜか「アナーキー」という店だった。
 
たぶん知り合いの店なんだろうけど、明らかに店は廃れていて、それなのに、ものはちゃんと可愛くて、結局あれこれ買ってしまうあたり、見事なアナーキーというか、なんだか小さな無秩序に巻き込まれているみたいだった。

インドにいると、当たり前がひとつずつ剥がれていった。蛇口からきれいな水が出て、普通に歯磨きができることも、道を渡る時に車が止まってくれることも、時間通りに進むことも、どれも当たり前なんかじゃなくて、そのたびに小さく戸惑い、そのぶん、小さなありがとうが増えていった。
 
そんなインドに嫌気がさすどころか、いちいち心が動いてしまったわたしは、どこか理解しきれないまま本能に引っ張られるみたいに、気づけばインドのことが大好きになっていた(翌年もまたインドへ行った!)。

帰国後、恵さんは、あのとき立ち寄ったファブリックのお店とのやりとりをきっかけに、パジャマ屋さん「KiNAARA(キナーラ)」を始めることになった。

わたしは、ずっと愛読していた雑誌「TRANSIT」でインドの取材をしてもらうことになり、その流れで、憧れていた連載が始まり、なんやかんやとありながら、自らスポンサーを集め、最終的に丸ごと一冊コラボして「清水みさとの世界のサウナをめぐる冒険」という本を作ることになった。

お互いに、あのときインドに行っていなければ生まれていなかった流れが、思いがけず訪れて、インドに行けば人生が変わるという言葉は、たしかにどこかでほんとうだった。
 
でもそれと同時に、人生を動かしたのはインドそのものではなく、そこへ行こうとした自分のほうだったんじゃないかと思ってしまう。あのとき迷いながらも一歩踏み出したその選び方が今につながっているのだから、たまには流れに逆らった自分の選択も、もっと信じてみてもいいのかもしれない(実はインドでパスポートもなくしたのに)。
 
それがうまくいくかはわからないけど、わたしは正しさよりも面白さを選びたいと思っているし、少なくともその先にしかない景色があることを知っているから、揺さぶられながらも素知らぬふりして、流れにない方もちょこちょこ選んでみようと思う。
 
そのときの自分に託す信頼は、この旅のおかげでもう万全だから。

photograph & text:MISATO SHIMIZU

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