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「父親は子どもの友だちを3人言える?」上野千鶴子が問う“育児のジェンダーギャップ”と、もう我慢しないヒント

  • 2026.4.15

「父親は子どもの友だちを3人言える?」上野千鶴子が問う“育児のジェンダーギャップ”と、もう我慢しないヒント

人と同じでなくていい——その「違い」を力に変え、人生を切り拓いてきた女性たちがいます。華やかな経歴の裏には、誰にも見えない葛藤と、「ガラスの天井」を越えてきた確かな歩みがありました。医師・鎌田實さんが、女性ゲストの人生をあたたかく、軽やかにひもとく新刊『女の“変さ値”』(潮出版社刊)。前回に引き続き、上野千鶴子さんへのインタビューの一部をご紹介します。

上野さんは、2019年の東京大学学部入学式の祝辞で、日本の性差別について言及し、男女問わず幅広い世代に大きな反響を呼んだ。祝辞の中では、次のようなことが語られている。

「フェミニズムはけっして女も男のようにふるまいたいとか、弱者が強者になりたいという思想ではありません。フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です」

「弱者が弱者のままで」の背景にある考え方

上野さんにこの言葉の意味について単刀直入に聞いてみた。

「男女雇用機会均等法が施行された当時の若い女性は、男性と同じように働くことが是(ぜ)とされ、女性活躍という言葉のもとに社会でリーダーシップを発揮することが求められていました。アメリカのフェミニズムにもそういうところがあるんです。男にできることは女にもできる。男にはできないことも女にはできる。すなわち妊娠と出産だ――といった風潮です。

私はずっと、男性と同じように女性が生きることが男女平等であるという考え方に疑問を持っていました。なぜなら、私は男になりたいなんてこれっぽっちも思ったことがないからです」

さすが上野さんだ。ちなみに、「弱者が弱者のままで」という考え方の背景には、沖縄研究や障害者運動の影響があったという。

「沖縄研究をやっている野村浩也(のむらこうや)さんという沖縄生まれの社会学者がいます。彼は、自分たちは沖縄人で、日本人になりたいわけではないと言っています。日本人になるというのは強者・支配者・差別者になることだと。この考え方が私にとても響きました。

障害者運動については、障害者の生きづらさを本人の責任とする『医療モデル』と、社会の責任とする『社会モデル』という対抗概念があります。

例えば、車いす利用者が移動できない理由を、足が不自由だからと考えるのが『医療モデル』であり、移動手段を整えていない社会の側に原因があると考えるのが『社会モデル』です。

女性学が興(おこ)る前には、婦人問題という研究分野がありました。この婦人問題は、女性であることを原因とする『医療モデル』と同じ考え方です。

一方で私たちの女性学は、社会の側に原因があるとする『社会モデル』と同じ考え方です。この変化は大きかった。女性は本来弱者なのではなく、社会によって弱者にされているのだと。障害があることや女性であることで差別される謂(いわ)れはない。こうした考え方を、『弱者が弱者のままで』という言葉で表現しました」

Profile 上野千鶴子さん

うえの・ちづこ●社会学者
1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了。東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。女性学、ジェンダー研究のパイオニアとして活躍。高齢者の介護とケアも研究テーマとしている。著書に『おひとりさまの老後』(文春文庫)など多数。

男女格差が埋まらない要因

世界経済フォーラムが毎年、「ジェンダーギャップ指数」を発表している。2025年の日本は、前年と同様、148カ国のうち118位。日本で男女格差が埋まらない要因はどこにあるのだろうか。

「前よりはよくなってはいるんですが、日本の変化が遅いせいです。なので、その問いは“なぜ日本の変化が遅いのか”という問いにつながります。

私は、諸外国の人々にこう説明しています。格差にはジェンダーの他に人種や階級という要素がある。例えば、アメリカでは白人の同一人種集団内のジェンダーギャップは縮まりましたが、人種間格差が大きい。

他方、アジアでは階級間格差が大きいので、育児や介護を階級が低い人々へアウトソーシング(外部委託)できます。日本ではそのどちらの選択肢もありません。

移民労働者が少ないし、階級格差もそれほど大きくない。したがって、すべてのしわ寄せが女性に集まるんです。ジェンダーだけの問題ではなく、人種と階級も絡んでいる問題です」

我慢しないで生きなさい

上野さんが最近、高校生の親世代に必ずする質問があるという。子どもの友だちの名前を3人以上言えるか――。ほとんどの母親はスラスラと言えるが、大半の父親は詰まりながら答えることになるという。

また、今の高校生たちは自分の進路について父親に相談する人がほとんどいないそうだ。まだまだ、男親は育児に参入できていないのだ。どうすればこのジェンダーギャップを解消できるのだろうか。

「女性には、我慢しないで生きなさいと言いたい。あなたが我慢して被害者であり続けることが、次の世代の被害者を生んでしまうかもしれないからです。

あなたが間接的な加害者になってしまうかもしれない。だから、女性がどこかのタイミングでNOと言わないといけません。セクハラも痴漢もそうです。そして男性には傍観者になってほしくありません」

女性が我慢せずに声をあげる。この勇気が次世代の被害者を守る一歩につながると上野さんは教えてくれた。

Profile 鎌田 實さん

かまた・みのる●医師・作家
1948年東京都生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、諏訪中央病院へ赴任。30代で院長となり、潰れかけた病院を再生させた。「地域包括ケア」の先駆けを作り、長野県を長寿で医療費の安い地域へと導いた。現在、諏訪中央病院名誉院長、地域包括ケア研究所所長。チェルノブイリ原発事故後の1991年より、ベラルーシの放射能汚染地帯へ100回を超える医師団を派遣し、約14億円の医薬品を支援(JCF)。2004年からはイラクの4つの小児病院へ4億円を超える医療支援を実施、難民キャンプでの診察を続けている(JIM-NET)。東北はもとより全国各地の被災地に足を運び、多方面で精力的に活動中。べストセラー『がんばらない』他、著書多数。

※この記事は『女の“変さ値”』鎌田實著(潮出版社刊)の内容をウェブ記事用に再編集したものです。

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