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【2026年本屋大賞発表会レポート】「信仰かビジネスか、救済か依存か。」朝井リョウ『イン・ザ・メガチャーチ』が書店員の支持を受けて大賞に

  • 2026.4.11

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4月9日、「全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本 2026年本屋大賞」の発表会が東京・明治記念館で開催され、朝井リョウさんの『イン・ザ・メガチャーチ』(日経BP 日本経済新聞出版)が大賞に選ばれた。新刊書店に勤務するすべての書店員が投票資格を有する同賞は、二次投票でノミネート作品をすべて読んだ書店員による投票結果で、大賞、順位が決定する。第23回となる今回の本屋大賞では、一次投票で全国の490書店より書店員698人、二次投票では345書店、書店員470人もの投票があった。明治記念館には書店員、作家、出版関係者らが多数来場。「翻訳小説部門」「発掘部門」の1位も発表され、会場はお祝いムード一色となった。

【大賞】生きる推進力についての物語——朝井リョウさんの『イン・ザ・メガチャーチ』

朝井リョウさんの『イン・ザ・メガチャーチ』は、「推し活」文化、「ファンダム経済」と呼ばれる現代の熱狂を、マイナス面も含め冷静に描く作品である。物語は「推し活を仕掛ける側」である中年男性の久保田慶彦、「のめり込む側」である大学生の武藤澄香、「かつてのめり込んでいた側」である契約社員の隅川絢子という3つの視点で進んでゆく。三人には共通して、日々の暮らしの中での空虚さ、理想とのギャップがある。そこを埋めてゆく「推し」という存在は、果たして健全なものなのか。現代社会で人の心を動かす「物語」の功罪をあぶりだす一冊だ。大賞は、丸善雄松堂 広島支店・河野寛子さんが発表。

『本屋大賞2026(本の雑誌増刊)』には、本作に対し書店員さんから多くの推薦コメントが寄せられている。

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「読む前と後とでは、世の中に対する自分のものの見方に少し変化を与えてくれる、そんな作品でした。流行りとは、何者かによって作り出されたものなのではないかと考えさせられます」

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「自分の意志で誰かを好きになって誰かを応援しているつもりなのに、実は精巧に計算された戦略に踊らされていたとしたら…。今、現実の社会でも様々な推し活がなされているけれど、どんどんのめり込んで視野が狭くなっていく様子はあまりにリアル」

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「まさに救いの物語だった。生きるのが苦しかったり、人とかかわることを面倒に思うくせに一人でいることをさみしいと感じたり、自分のふがいなさに落ち込んだ時、この本を手にしたいと思った」

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「作られた「物語」に飲み込まれていく恐ろしさ。孤独や不安、共感、様々なものをきっかけに追い込まれ、ハマり、堕ちていく「幸福」の先に見えるものは何なのか。今この時代だからこそ問われるものがここにある」

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(『本屋大賞2026(本の雑誌増刊)』から一部抜粋)

朝井さんはラベンダー色の髪色で登場。昨年『生殖記』のノミネートの際に明治記念館のカフェで声を掛けられ、きちんとした格好でいたものだから大賞を受賞したのかと勘違いされてしまった、というエピソードを語り、会場は笑いに包まれた。

続けて、本作についてのテーマが語られた。過去本屋大賞にノミネートした『正欲』『生殖記』、そして今回の『イン・ザ・メガチャーチ』には共通のテーマとして「生きる推進力」を描いているのだという。生と死の選択肢が並んでいた時に、“生”の方を選ぶ理由や、そのきっかけを探りたくてこれらの作品を著した。それを書き記すにあたり、ポジティブな感情を見つめるのではなく、共同体の仕組みや構造について考える作業が増えていったという。この感情を紙の上に引きずり出してもよいのか? という葛藤もあったというが、自分の極端な部分が出てこそ小説なのだとも考えていると語る。

「作品における自分の中の偏りや、これを書いていいのかなっていう気持ちがすごく大きいんです。ですが、本屋大賞のノミネート作品が並んでいる棚を見た時に、自分が絶対に書けない作品が隣に並んでいて。そういう多様な作品があるからこそ、自分の中で抱えるものを大切にできるんだなと感じました。極端な偏りが詰まった本というものが並ぶ本棚、そしてその本棚の並ぶ書店という場所を守ってくださっている皆様に改めて感謝を申し上げたいと思います」

昨年『カフネ』(講談社)で本屋大賞を受賞した阿部暁子さんがゲストプレゼンターとして登壇し、朝井さんに花束を贈呈。阿部さん自身もひそかに「推し」ている方がいらっしゃるとのことで、『イン・ザ・メガチャーチ』の212ページで「わかる…」264ページで「身に覚えがありすぎる…」と感じたとのこと。後半は時間を忘れて読みふけってしまったと語る。

また、本屋大賞の盛り上がりは、忙しい仕事の合間をぬってたくさんの本を読み素晴らしいものを見出してきた書店員への信頼があってのものだと語った。

「100羽の鳩がバッと飛び立つように、売れて売れまくってほしい。本当に今は書店さんを取り巻く現象は厳しいし、正直未来も不安になってくるような現状なんですが、その中でも本が大切っていう気持ちを抱いて、一生懸命頑張っている書店員さんたちがとびきりの笑顔になってくれることを願っています」(阿部さん)

■2026年ノミネート作品 最終順位

1位『イン・ザ・メガチャーチ』(朝井リョウ/日経BP 日本経済新聞出版)

2位『熟柿』(佐藤正午/KADOKAWA)

3位『PRIZEープライズー』(村山由佳/文藝春秋)

4位『エピクロスの処方箋』(夏川草介/水鈴社)

5位『暁星』(湊かなえ/双葉社)

6位『殺し屋の営業術』(野宮有/講談社)

7位『ありか』(瀬尾まいこ/水鈴社)

8位『探偵小石は恋しない』(森バジル/小学館)

9位『失われた貌』(櫻田智也/新潮社)

10位『さよならジャバウォック』(伊坂幸太郎/双葉社)

【翻訳小説部門】『空、はてしない青』——フランス国内で200万部を売り上げた若年性アルツハイマーの少年の再生の物語

また、今年1年に日本で翻訳された小説(新訳も含む)の中から「これぞ!」という本を選出する「翻訳小説部門」の第1位には、『空、はてしない青』(メリッサ・ダ・コスタ:著、山本知子:翻訳/講談社)が選ばれた。本賞の発表は、芳林堂書店 高田馬場店・飯田和之さんが担当した。

本書は、メリッサ・ダ・コスタさんのデビュー作。 若年性アルツハイマーに侵された青年・エミルが余命2年と宣告され、家族に内緒でピレネー山脈を旅しようと決意するところから物語は始まる。ネットの掲示板で旅の同行者を募集したところ、思いがけず、若い女性から連絡が。そのちょっと変わった女性と一緒にキャンピングカーで旅をするという物語だ。大自然の中を主人公たちが旅するロードノベルであることはもちろん、いかに死ぬかを描きながらも、いかに生きるかに気づかせてくれる再生の物語である。

訳者の山本知子さんはメリッサ・ダ・コスタさんの等身大パネルと共に登場。この作品の原著を初めて手に取った際には、あまりのページの多さに少しひるんだという。だが、読んでみると映像が次々と頭に浮かんで、まるで映画を見ているようで、気がつくと、その主人公たちと一緒に旅をしている自分がいた。最後の何章かは涙で文字がかすんでいたが、終わった時には悲しみとか切なさというよりも、むしろすがすがしい気分に包まれていたという。この小説はきっと日本でも年代や性別を超えて、幅広い人たちに受け入れられるのだろうなという思いを強くした。

「『フランスの小説は苦手だと思っていたけれど、この作品を読んでイメージが変わり、今後は外国の小説も少し読んでみようと思いました』など、書店の方々や読者の方々の感想を拝読するたびに、私自身もこの小説の魅力を再発見し、本当に翻訳に携われて幸せだと思う日々です。改めまして、書店の方々、そして読者の方々に御礼を申し上げます。本当にありがとうございました」(山本さん)

【「超発掘本」】原田宗典さん著『旅の短篇集 春夏』——「自分の心と世界中の人たちとの距離が縮まった」

『発掘部門』は、ジャンルを問わず、2024年11月30日以前に刊行された作品のなかで、時代を超えて残る本や、今読み返しても面白いと思う本を書店員がひとり1冊セレクト。「これは!」と共感した1冊を実行委員会が「超発掘本!」として選出する。選考の結果、『旅の短篇集 春夏(角川文庫)』(原田宗典/KADOKAWA)が2026年発掘部門「超発掘本!」に選ばれた。

『旅の短篇集 春夏』は、ロンドン、ボストン、イスタンブール、世界のあらゆる都市へ、空想の旅にいざなう幻想的で不可思議な物語だ。

この本を推薦した、明屋書店 下関長府店・南隆大さんは、「外国の方へのマイナスなイメージが増えてきていると、僕自身は感じていて。この本を読んでくれた方が一人でも多く、悪い人ばかりじゃないということを感じ取ってもらえたらと祈っております」と語る。

また、著者の原田宗典さんは「二十世紀の地層から発掘された者です」と自己紹介し、会場は笑いに包まれた。本作は、当初TOKYO FMで城達也さんがパーソナリティをつとめていた『JET STREAM』の金曜日の「ミッドナイトオデッセイ」というコーナーのために書いていたものなのだそうだ。城さんに会い「いつもありがとう。とっても楽しみにしてますよ。すごく面白いです」とおっしゃっていただいたことが、三年間のコーナーを続けられたきっかけだったと語る。そして「この作品は声に出して読むことを想定して書いたものなので、皆さんも朗読してみると全く違う物語に聞こえるはずです」と朗読を提案していた。

さらに今回は、本屋大賞に協賛する株式会社日本能率協会マネジメントセンターから『本屋大賞 公式ファンブック』が発売された。本作は、過去の本屋大賞を一挙に振り返ることのできる読書好きなら必見の一冊。「本屋大賞はどのように生まれたの?」「受賞作品ってどうやって選ばれているの?」など様々な疑問に回答し、山崎怜奈さんや池澤春奈さんのスペシャルインタビューも収録。本屋大賞にかかわる人々を深く掘り下げているので、ぜひこちらも読んでみてはいかがだろうか。

今年で23回目を迎えた本屋大賞。その熱量は年々高まりを見せ、今やSNSでも大きな反響を呼ぶ一大イベントとなった。この盛り上がりは、日々現場で本を守り続ける書店員の皆さんの情熱があってこそ。ぜひ書店に足を運んで、趣向の異なる種々の作品を眺めながら、気になる作品を手に取ってみてほしい。その際、ポップにも注目してみてほしい。そこには、その本を愛する人からの、熱いメッセージが込められているはずだから。

取材・文=岩﨑彩乃 撮影=ダ・ヴィンチWeb編集部

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