1. トップ
  2. 森七菜が単独初主演作『炎上』で“じゅじゅ”を生きた日々を振り返る「『ほかの誰にもわからない、自分だけの一本』だと思ってくれたら」

森七菜が単独初主演作『炎上』で“じゅじゅ”を生きた日々を振り返る「『ほかの誰にもわからない、自分だけの一本』だと思ってくれたら」

  • 2026.4.11

『国宝』(25)や『秒速 5センチメートル』(25)、ドラマ「ひらやすみ」など近年の話題作に数多く出演し、注目を集めている森七菜が主演し、『そうして私たちはプールに金魚を、』(16)、『WE ARE LITTLE ZOMBIES』(19)の長久允が脚本、監督を務めた映画『炎上』が4月10日より公開中だ。本作で描かれるのは、カルト宗教信者である両親との関係に耐え切れず、家を飛び出した少女の小林樹理恵が、SNSを頼りに歌舞伎町の“トー横”にたどり着く物語。少女はそこで、同じような生きづらさや傷を抱えた若者たちと出会い、“じゅじゅ”という新しい名前を得る。新しい名前、眠る場所、食べ物、スマホ、そして仕事をもらい、初めて知る世界で様々な人たちとの出会いを経て、ようやく自分の意思を保つことができるようになり、家に置いてきた妹を救い出して一緒に暮らすという夢を抱くが…。本作で単独初主演を飾った森が、壮絶な物語の裏側にある想いを語ってくれた。

【写真を見る】家を飛び出した少女“じゅじゅ”が、SNSを頼りに歌舞伎町の“トー横”にたどり着く物語

【写真を見る】家を飛び出した少女“じゅじゅ”が、SNSを頼りに歌舞伎町の“トー横”にたどり着く物語 [c]2026映画「炎上」製作委員会
【写真を見る】家を飛び出した少女“じゅじゅ”が、SNSを頼りに歌舞伎町の“トー横”にたどり着く物語 [c]2026映画「炎上」製作委員会

「じゅじゅに『普通の10代の子』という感じを持たせることが、自分にとっての課題だった」

主人公の“じゅじゅ”こと小林樹理恵を演じた森は、脚本を読んだ時に「縁」のようなものを感じたのだそう。「これが自分の未来になっていくんだろうな、という予感がしました。その『未来』というのはキャリア的なことではなく、これから自分が過ごしていく日々。そういったものが書かれている感じがして、すごくご縁を感じたし、撮影がとても楽しみでした」と笑顔を見せる。

映画撮影時、森は新宿に泊まり込み、場の空気や気配までをも身体に染み込ませた役作りを行った [c]2026映画「炎上」製作委員会
映画撮影時、森は新宿に泊まり込み、場の空気や気配までをも身体に染み込ませた役作りを行った [c]2026映画「炎上」製作委員会

本作は長久監督のオリジナル脚本。監督が5年間温めた企画の映画化で、取材を重ねながら物語を作り上げた。じゅじゅを演じるうえで、長久監督とはたくさん会話を積み重ねたと振り返る。

「じゅじゅのようにハードなバックグラウンドを持っている子は、悲劇のヒロインにしたくなりがち。そういう感覚が自分にもあったけれど、彼女のなかにある『普通の10代の子』という感じを持たせることが、自分にとっての課題だと監督と話しながら思うようになりました。ナレーションでは友だちと話す時のように『ちげぇだろ!』みたいな喋り方もするし、実際に友だちに肩パンして戯れ合ったりもする(笑)。そういった彼女のキャラクターとしての“遊び”みたいなものを表現することが、自分のなかでの課題でした」と“じゅじゅ”の役作りの軸となるものへの気づきの過程に触れた。

「監督からも『じゅじゅをかわいそうな子にはしたくない』というニュアンスが伝わってきたので、いろいろなシーンで普通の10代の女の子らしさみたいなものをどうやって表現できるかを考えながらやっていきました」と、長久監督と話すなかでヒントをもらったことも明かした。

「この映画において、『悲しむ』という表現はある意味すごく簡単だった」

徹底したリサーチを重ねたうえで歌舞伎町に生きる若者たちの“強さ”を物語に落とし込んだ [c]2026映画「炎上」製作委員会
徹底したリサーチを重ねたうえで歌舞伎町に生きる若者たちの“強さ”を物語に落とし込んだ [c]2026映画「炎上」製作委員会

本作は実際に歌舞伎町で撮影された。撮影中に興味深い光景を目にすることもあったと、森は微笑みながら話す。「喋りかけてくれる人がすごく多くて。実際に歌舞伎町にいる方に『オレが本物だ!』と言われたり。どの声がけにも、そこにいる人たちが、そこにいることにすごく誇りを持っていることを一貫して感じました。『興味深い』という意味でのおもしろさをすごく感じたし、マインドの勉強にもなりました。プライドを持っている感じや独特の強さみたいなものは、実際にお会いしたほうが言葉で説明されるよりずっと説得力があったし、すごくありがたかったです」。

森は脚本を読み、「これが自分の未来になっていく予感がした」と語る 撮影/河内彩
森は脚本を読み、「これが自分の未来になっていく予感がした」と語る 撮影/河内彩

撮影を通して、歌舞伎町という町の印象に変化はあったのだろうか。「歌舞伎町についていろいろな形で自分から発信している方も多いので、『思っていたのと違う!』みたいなことはあまりなかったです。ただ、いままで第三者としてニュースなどを観ていた時と現場に行ったあとでは、『守られる』ことに対しての基準が変わったように感じています。映画に出てくる、俗にいう“大人”が思う『守る』ということと、彼女たちが思う『守られる』ということは、全然違っていて。お互いが幸せな、すごくちょうどいい場所がいつか見つかったらいいな、と思いながら演じていました。実際の歌舞伎町は、ニュースなどで観るよりもディテールがわかるから、いて楽しいというか。すごくエンタメな感じがして楽しませてもらった気がします。キラキラした目で見ている自分がいました」。

シリアスなテーマを扱っているが、映像はポップで明るい雰囲気が漂う [c]2026映画「炎上」製作委員会
シリアスなテーマを扱っているが、映像はポップで明るい雰囲気が漂う [c]2026映画「炎上」製作委員会

登場人物が抱えているものは重いが、そのなかでも鮮やかな色彩が絶妙なバランスで描かれ、ポップな映像も印象的だ。「悲劇を悲劇として受け取っていない部分がある感じが、ある意味での『強さ』なのではないかと思います。それが正しいとか正しくないとかじゃなくて、強さであり、弱さであるみたいな。多分、いろいろな演出を省いてそのまま映しだせば、ただただ悲劇として受け取れるのだろうけれど、音楽や映像といったギミックのおかげで、彼女たちのフィルターを通した世界を観られているような気がして。私がじゅじゅを演じていた時の目線が、そのまま投影されている感じがして、『監督すごい!』と思いながら観ていました。優しさともまた違う、監督ならでは“寄り添い力”というか。監督にしかないフィルターが私は大好きだし、この映画でさらに大好きになりました」とできあがった映画の感想を、自分の言葉で素直に紡いでいく。

⻑久監督は「過去を振り返った樹理恵の心に焼き付いた写真のような映画にしたい」と語る [c]2026映画「炎上」製作委員会
⻑久監督は「過去を振り返った樹理恵の心に焼き付いた写真のような映画にしたい」と語る [c]2026映画「炎上」製作委員会

長久監督と参加したサンダンス映画祭で、海外の観客の反応を直に受け取ることができたのも貴重な経験だったと笑顔を見せた森は、本作で初めて味わう感覚があったと説明する。「初めて観た時は自分の反省点がバーっと出てくる感じだったのですが、サンダンス映画祭で2回目を観た時には泣いてしまったんです。自分のお芝居に泣いたのではなく、『この時辛かったなぁ』みたいなことを思って、涙が止まらなくなりました。撮影当時はまったくそんなことを感じていなかったのに、いまさらという感じで(笑)。感情がたかぶっていくにつれて、『あの時はこういう感じだったな』みたいなことを次々と思い出したんです」

「この映画においては、変な言い方かもしれないけれど、『悲しむ』という表現はある意味すごく簡単でした。逆に、楽しくしたり、笑ったりすることにはちょっと努力が必要だったような気がして。そういうシーンのほうが観ていて切なくなりました。第三者としての自分と、じゅじゅを演じた自分の視線が混ざったうえで正常な心に戻った時に、じゅじゅとして受け取ってきた影響や言葉にちゃんと悲しくなっちゃうみたいな。演じている時は役として笑いながら受け流しちゃうところもあったから、なんか不思議な感じでした。初めての感覚です」。

「『ほかの誰にもわからない、自分だけの一本』だと思ってくれたら」

歌舞伎町という街のありのままの姿と、そこで生きる若者たちの日常を描く [c]2026映画「炎上」製作委員会
歌舞伎町という街のありのままの姿と、そこで生きる若者たちの日常を描く [c]2026映画「炎上」製作委員会

印象に残っているのは「ただただ、チワワを見る時間」と繰り返すシーンだと楽しそうに話す森。「『意味わかんないなぁ』って思いながらやっていたのですが、それがめちゃくちゃ楽しくて。何回もやりたくて、カットがかかると『もう終わり?』みたいな気持ちになっていました(笑)。サンダンス映画祭でもたくさんの方が笑ってくれていたシーンで、その反応を直接見ることができてうれしかったし、隣で一緒に映画を観ていた監督もうれしそうにしていたのでやってよかったと思いました」と海外の観客の反応にも触れた。「この映画には皮肉みたいなものが結構あるのですが、そこでちゃんと笑ってくれていたのがうれしかったし、自分ごととして感じてくれている実感がわきました。日本だと声を出して映画を観ることはなかなか少ないから、そのバロメーターを直で感じることができたのもよかったです」。

撮影を振り返り、当時の心境や作品の感想をありのままの言葉で語ってくれた森 撮影/河内彩
撮影を振り返り、当時の心境や作品の感想をありのままの言葉で語ってくれた森 撮影/河内彩

長久監督の“寄り添い力”を感じた森が、本作で伝わってほしいと思うこととは。「正直、なにを受け取ってほしいとか、どう受け取ってほしいとかは全然なくて。自分としてメッセージみたいなものは込めていないんです。でも、誰かにとって『ほかの誰にもわからない、自分だけの一本』だと思ってくれたら、そこがこの映画のすごくいい“居場所”のような気もしています。じゅじゅのような言い方なら『クソ気持ち悪いな、この映画』みたいな感想でもいい(笑)。それもこの映画にとって正解な気がするし、褒め言葉な感じもするので、好きなように受け取って、好きなように伝えてほしいと私自身は思っています」。

初めての感覚を味わうことが多かった本作は、森にとってどのような作品になったのだろうか。「普通に生きている時のほうが、悲しみを感じづらい部分があるというか。役で受ける悲しみや感情のほうが大きかったりするんですよね。すごく情報が整理されているので。でも、それよりももっと、いつもの自分に近い状態でその感情を受けたような気もするので、ちょっと特別だった気がします。本当に不思議な感覚でした」。

少女“じゅじゅ”の150日間の物語に待ち受ける結末とは…? [c]2026映画「炎上」製作委員会
少女“じゅじゅ”の150日間の物語に待ち受ける結末とは…? [c]2026映画「炎上」製作委員会

脚本を読んだ時に“未来”を感じた森は、物語のその後を想像したりしたのだろうか。「以前にもこの質問をされた時に初めて、物語の“その後”を全然想像していなかったことに気づいて。想像するという発想がなかったです。お芝居をしている時も“いま”を生きていたし、監督からも結末のその先の未来は想像していなかったとあとから聞いて、すごく不思議な共通点でした。監督と私が同じことを思っていた理由は、じゅじゅという存在がそうさせていたのか、なにがそうさせていたのかはまだちょっと解明できていないのですが、すごくおもしろいなって。映画を観て想像できる人がいたら、ぜひその未来を聞いてみたい気がしています」と話した森。撮影当時「役を生きた」感触が、撮影後にわいてきたとも語る。「いま考えてみればじゅじゅとして生きたことが幸せだったし、じゅじゅを演じるうえでは、振り返ってみて『生きた』と感じるくらいの感覚でよかったのかなと思っています」。

取材・文/タナカシノブ

元記事で読む
の記事をもっとみる