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「ママもやっているよ」と娘に言いたい!地下鉄女性運転士が「私にもできるかも」のきっかけではじめた一歩

  • 2026.4.4

まっすぐ前を見つめる表情は真剣そのもの。「出発進行」のかけ声とともに、車両がゆっくりと動き出すと、速度計の針はあっという間に「時速70キロ」を表しました。

「意外とスピードが出るので、最初は怖かったですね」

そう話してくれたのは、紺野美紅さん。先ほどの引き締まった表情とは打って変わり、やわらかな笑顔が印象的です。
札幌市営地下鉄ではまだめずしい女性運転士でありながら、2歳の娘を育てるママでもあります。

日々、多くの人を運び、日常を支える紺野さんに、今の仕事を選んだきっかけや、やりがい、そしてこれからを聞きました。

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連載|私のきっかけ

はじめのきっかけは「なりゆき」だった

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札幌市出身の紺野さんは、市内の大学を卒業後、札幌市営地下鉄の駅員として働き始めました。
電車や乗り物が好きでこの道に進んだのかと思いきや、ご本人いわくそのきっかけは「なりゆき」だったそう。

「もともとは公務員を目指していたんですが、試験に落ちてしまって…。それなら近い仕事は何だろうと考えたときに、駅員の募集を見つけて応募したんです」

だけど「鉄道」には実は縁もあったのだとか。

「祖父がJRで働いていたので、鉄道はどこか身近な存在ではありましたね」

配属された地下鉄白石駅とさっぽろ駅では、およそ3年半にわたり勤務。
窓口での道案内や改札機のトラブル対応など、駅を利用する人たちを支える仕事を担ってきました。

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駅員時代の紺野さん。休憩中はみんなでお寿司を食べるなど、和気あいあいとした雰囲気も自慢だそうです

そんな紺野さんが運転士を目指した理由も、「特別なきっかけがあったわけではないんです」と話します。

「たまたま運転士募集の張り紙を見つけたんです。ちょうど周りの友人たちが転職する時期でもあって、『私も挑戦するなら今かも』と思いました」

運転士は駅員より休憩時間が少し長くて、給与面の待遇も上がります。そのため「自分の中では、ステップアップのような感覚」だったのだそうです。

「あとは、先輩の女性運転士の姿を見ていて『私にもできるかも』と思えたことも大きかったですね」

物理に電気…苦労した研修期間

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試験に合格!といっても、地下鉄の運転士になるには、長い研修期間を乗り越える必要があります。
一般採用の場合は、まず札幌市交通局の採用試験に合格し、駅業務などの1年間の実務経験を積んでから、大谷地にある教習所で約1年間の教習を受けます。

学科試験と実務試験の両方に合格して、ようやく運転士としてデビューできるのです。

駅員の経験があった紺野さんは実務期間は短縮されたものの、それでも教習期間が1年ほど。
特に苦戦したのが最初の3か月に行われた「学科」でした。

「電気や物理、信号の仕組み、運転法規など、高校や大学でもあまり触れてこなかった分野ばかりで…。中間試験では一度落ちてしまいました」

学科を終えると、次は運転教習がはじまります。
まずシミュレーターで基本操作を学び、その後は指導員と一緒に実際の車両へ。
最初は先輩の運転を見て覚え、少しずつハンドルを握る機会が増えていきました。

難しいのは?点検で汗だくに!

「難しかったのは、朝のラッシュ時のドアの開閉タイミングと、出庫前の点検ですね」

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ラッシュ時は、かけこんで来る人を見ながら遅延しないように見計らってドアを閉めなければなりません。
さらに出庫前の点検はなんと項目が100以上あるというから驚き。
20分以内にすべて確認しなければいけないんです。

「東西線は7両編成なので、全車両を回っていると毎回汗だくでした(笑)」

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こうした研修を乗り越え、一人立ちしたのは2022年3月ごろのことでした。
初運行の日には、父親がかけつけ乗車してくれるという、うれしいサプライズもあったそうです。

「自動運転」とはいっても、常に訓練

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札幌市営地下鉄の運転はコンピューター制御されていて、ボタンを押せば発車し、次の駅で自動で停車する「自動運転」です。

だからといって運転士の仕事が減っているわけではありません。

地震といった自然災害や、北朝鮮のミサイル発射などの有事の際は停止や減速走行になるので手動運転に切り替えます。
そのほかにも乗客のトラブルや急病の時にも、すぐさま手動運転に切り替えるのだとか。

こうした「万が一」の事態に備えて、日ごろから訓練を欠かさず行っているそうです。

「月に3回は必ず手動運転の訓練を行うことが義務付けられています。といっても、手動運転の切り替わりは乗客の皆さまは気づかないことがほとんど。むしろお客様に分からないようスムーズに運転するのが、プロの仕事。誰にも気付かれないのが正解なんです(笑)」

ちなみに、今までで一番大変だったトラブルは乗客同士のケンカだったそう。

地下鉄は基本的にワンマン運転のため、トラブルがある=女性の紺野さん1人で解決する…というのは確かに大変そうです…!

だけどこんなときにも、駅員時代の経験が生きていると紺野さんは教えてくれます。

「幸い地下鉄は2分間隔で次の駅に着くのでそこまで不安はありません。それに急病人が出た際や忘れ物を発見した時の対応は駅員時代の経験で、対処法もバッチリ。なので、本当に困るようなトラブルは今のところなかったかもしれないですね」

転機…働き方と向き合ったきっかけの「子育て」

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1児のママでもある紺野さん。2023年春に長女を出産してからは約1年間、育児休業も取得していました。

運転士の仕事は、日勤と夜勤の2パターン。
夜勤の場合は正午ごろに出勤して終電から朝4時半までは仮眠し、始発から昼までを運転して「2日分働く」シフトです。

紺野さんはまだまだ子どもが小さいため現在は日勤のみの勤務。

朝は8時に出勤して事務作業などを済ますと9時ごろから実務へ。
新さっぽろ~宮の沢間の往復を3回、休憩をはさみながら運転します。

「退勤はだいたい毎日16時半ごろ。運転していた地下鉄に今度は乗客として乗って、保育園にお迎えに行っています(笑)」

ちなみに女性運転士は東西線に4名、東豊線に3名が在籍しているそうですが、ママ運転士の登場は紺野さんが初めて。

退勤後も、食事やお風呂や寝かしつけ…怒涛の時間が過ぎていき、リズムを作るのも苦労しているといいます。両立の苦労や葛藤はほかにも。

「子どもを保育園に入れたら、今度は急な体調不良で休まなきゃいけなかったり、保育園から何度も呼び出しがあったりして…。そんなこんなで、実は復職後の研修も1か月以上長延びてしまいました」

前例のない子育てしながらの運転業務。

育児と両立しやすい環境づくりは、札幌市交通局としても「まだまだ手探り」とのことですが、それでも常に紺野さんとコミュニケーションをとりながら、積極的に進めているそう。そのあたたかさに紺野さんは感謝しているといいます。

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息抜きや自分の楽しみも大事にしています。
夏にはお子さんも一緒に野外フェスに参加したり、家族で旅行したり…
こういったリフレッシュや切り替えが次の仕事につながっています。

乗り物好きの娘…「ママ運転士やってるよ」って言いたい

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市民の足として欠かせない地下鉄。特に冬の季節の札幌にとってなくてはならない存在です。
そのやりがいを日々、実感するなかで紺野さんが特にうれしくなる時間があります。

「子どもから人気の職業なので、ときどき小さなお客さんが手を振ってくれるのがやっぱりうれしいですね」

そして、娘さんもだんだんと「乗り物」に興味をもつようになってきているのだとか。

「乗り物をみて笑顔になる娘をみると『ママも運転士をやってるんだよ』と伝えています。今はまだ理解しているわけではないですけど、いつか喜んでもらえるかなって、日々のモチベーションに繋がっています」

これからも、もっと運転したい

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そんなモチベーションはこれからの働き方を考えるきっかけにもなっています。

「夜勤ありきの仕事なので、いつまでも日勤だけというわけにはいきません。でも娘がまだ2歳なので、いつ夜勤に戻るかが最近の悩みです。実家がすごく近いので、お願いできるかもしれませんが、子どもとの時間も大事にしたいので…」

職場の協力を得て、相談しながら決めていきたいと話してくれました。

きっかけをつかんだ「直感」女性運転士のロールモデルへ

駅員から運転士、そして産休・育休を経てママ運転士へ…
最後に、きっかけをつかむために大切なことを紺野さんに聞くと、「直感です!」と笑顔。

「自分のテンションが上がる方に決めています。当初はなりゆきで選んだ道でしたが、駅員時代の経験も活かせているし、仕事にもやりがいを感じています」

そして今の生き方、働き方を「精いっぱいがんばりたい」と話します。

「育児と仕事の両立は大変なときもありますが、私のがんばりがきっと、後に続く女性運転士たちの背中を押してくれるはず。そんなロールモデルを目指していきたいです!」

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文:太野垣陽介(シーズ)
編集:Sitakke編集部あい

※掲載の内容は取材時(2026年2月)の情報に基づきます。

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