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【佐藤愛子さん】の娘・杉山響子さんが明かす「母の認知症」と施設入居まで、100歳の今を書き残す理由とは?

  • 2026.4.2

【佐藤愛子さん】の娘・杉山響子さんが明かす「母の認知症」と施設入居まで、100歳の今を書き残す理由とは?

母に直木賞作家・佐藤愛子さんを持つ杉山響子さん。長年、母の視点からエッセイで描写されてきた杉山さんが、娘の視点から母をつづったエッセイ『憤怒(ふんぬ)の人 母・佐藤愛子のカケラ』が話題です。これまでずっと「母のことを書くのはいやだった」という杉山さんに、なぜ「母のこと」を書こうと思いたったのかなどを伺いました。

私が知る母のすべてを書き残しておこう

タイトルの『憤怒の人』とは、直木賞作家・佐藤愛子さんのこと。著者の杉山響子さんは佐藤さんの娘である。愛子センセイの「娘と私」シリーズの愛読者には、おなじみの「夢見る娘」響子さんだ。その響子さんが、2025年、雑誌『女性セブン』に、母と自分の現在と過去をつづるエッセイを連載。それが1冊にまとまった。

これまでずっと「母のことを書くのはいやだった」という響子さん。なぜ「母のこと」を書こうと思いたったのか。

「2024年に、娘の桃子が『佐藤愛子の孫は今日も振り回される』という本を出したんですね。それを読むと、同じ家に住んで、同じエピソード、人物に接しても、私の目から見ているものとは違う。私が書かなければ、娘の書いたものが佐藤愛子の家庭像として定着してしまう、私から見た違う側面を書いておかないと、と思ったんです」

本書の第1話では、100歳に近づいた母、佐藤愛子さんの変化がつづられ、その最終行で、変化が「アルツハイマー型認知症の始まりだった」ことが明かされる。100歳になっても、かくしゃくとして元気あふれる愛子先生のイメージをいだいていた読者には、衝撃的な事実だ。

2話以降にも、自宅が認識できず妄想の世界に入っていく母、「なんだかわけがわからなくて不安なんだよ」と半泣きみたいな顔で訴えてくる母、が登場する。「佐藤愛子」の認知症を書くにあたっては、相当の覚悟が必要だったのでは……。

「強くて凛々しい人、佐藤愛子が認知症になって下の世話も必要になって、という現実を書いたら、母のファンにはショックを与えてしまうのでは、という心配はありました。でも、嘘はつけないな、とも。どんなに気が強くても、老いれば弱くなるのは自然であり、みんながたどること。正直に書こうと思ったんです。ただ、読者の方を傷つけないように丁寧に書かなければいけない、という覚悟はありました。それと、これまで母について書く機会は何回かあったんですが、ことごとく母に手直しされてきました。母が気に入る文章を、と思うと不自然になるので、それを振り切ってでも書く、という覚悟もありましたね」

愛子さんが自宅から施設入居へ至る顚末も赤裸々に書かれている。症状が進み、自宅での介護は不可能と理解しながらも、施設に入れることへ罪悪感を抱き、これでよかったのだろうか、と心を痛める響子さん。自らの介護経験と重ねる読者も多いだろう。

愛あふれる、母と娘のかけがえのない時間

『憤怒の人 母・佐藤愛子のカケラ』には、娘としてのさまざまな思いがあふれている。打てば響くような会話を交わしてきた母、強くていつもかなわない人だった母が、認知症によって目の前から消えていく。恐怖、悲しみ、情けなさ、どこにぶつけていいかわからないいら立ち……。だが、響子さんの筆はどこまでもあたたかく、愛情深く、悲しみの底には沈まない。テンポのいい筆運びにユーモアもたっぷり。読みながら、響子さんと一緒に泣いたり笑ったり。

火山の爆発のような怒り、憤怒は母の生きるエネルギーなんです

本書の3分の1を過ぎたあたりから、響子さんの視点は現在から過去へと向かう。母と娘が過ごしたかけがえのない時間へと移っていく。

小学校に入りたての頃、お風呂で響子さんの頭を洗うたびに怒っていた母、15歳から毎夏、過ごした北海道浦河での数々のエピソード、茶の間でテレビを見ながらの幸せなひととき、気ままな散歩の思い出……。怒ったり泣いたり、ゲラゲラ笑い合ったり。活火山のように怒りを爆発させながらも娘をいとおしむ愛子さん、無邪気な子どものように娘との時間を楽しむ愛子さん。あちこちに、響子さんの目を通した素顔の「佐藤愛子」がのぞく。愛あふれる母と娘の濃密な時間に触れ、また胸が熱くなる。

「まぎれもなく母と私にしかない時間でしたね。わが家は小さな頃から父親は帰ってこないし、年中不機嫌な祖母が、われ関せずでいて、おのずと私と母だけのカプセルに入っているような状態でしたから」

加えて「佐藤愛子の娘で、本当はこんな苦労もあったんだよっていうのを書けたのもよかった」と言う。

「読者の方に、その大変さもわかっていただければ嬉しいですね。書き終えて『お母さん、なんだかんだ言いながら楽しかったよ』っていうところに着地できたのは、よかったと思います」

これまで響子さんの文章に厳しく手を入れていた愛子さんが、これを読んだら……。

「『よく書けてる』って言われる自信はあります!」

笑顔で、でもきっぱりと言葉にした。

PROFILE
杉山 響子さん

すぎやま・きょうこ●1960年東京都生まれ。
母は『戦いすんで日が暮れて』『血脈』『九十歳。何がめでたい』などで知られる作家・佐藤愛子。幼少期に両親の離婚を経験。長年、愛子さんとは二世帯住宅で同居。著書に『物の怪と龍神さんが教えてくれた大事なこと』。

取材・文/田﨑佳子

※この記事は「ゆうゆう」2026年5月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

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