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かけおち・青木マッチョのエッセイ連載「青木マッチョの三十年史」【第10回】「エリートとは/消防署編」

  • 2026.3.28

>>「中学時代①」はこちら

非常に厳しい、いや、厳しすぎる消防学校を無事に卒業できました。

前章で書かせていただいた消防学校での生活は、ほんの一部に過ぎません。

通っている最中、「事実は小説より奇なり」ってこういうことなんだなあと思わず感心していたぐらいでした。かなり記憶に残っています。

そんな中、通っていた高校が進学校だったり、高卒が少し舐められていた反逆心だったりで自分をエリートだと思い込みます。そう思い込んではいたものの、かなり大きなミスを積み重ね、めちゃくちゃ怒られたり、同期からハブられたりしていました。

それでも、気持ちはまだエリートのままでした。

なぜかというと、消防学校を卒業してからが本番だからです。消防学校は給料をもらっているとはいえ、まだ学生です。そこを卒業して、一人前の消防士として各々の消防署に配属されて、ちゃんと町の消防士として働き始めてからが本番です。消防学校でどれだけできようができまいが、その後配属される消防署からしたら知ったこっちゃないんです。全然、エリートになる可能性はある。というか可能性しかない。なぜなら進学校を出ているし、ほぼ早稲田卒だから(第9回連載参考)。

まず、その勤務する消防署についての説明をさせていただきます。

自分が所属していた消防署は、大きく分けて3種類ありました。

まず「消防署」です。

は? と思われた方も多いと思いますが、ここがいわゆる「本署」と呼ばれるところで、分類の中では一番大きい署になります。消防署は人数が多く、隊や車両も多くあります(指揮隊、消防隊、救急隊、救助隊、はしご隊など)。日本でいうところの「都道府県」です。当時の感覚としては、ここに所属しているのが「すごい」みたいな感じでした。人もたくさんいるし、いろんな車両があるからたくさん経験も積めるし、訓練もめちゃくちゃするし。

エリートはみんな本署にいるイメージ(あくまで当時のイメージ)です。

そして「分署」があります。

3種類の中では真ん中の立ち位置で、たいてい消防隊と救急隊があります。日本でいうところの「市・区」です。当時の感覚としては、本署と分署では大きさや人数でかなり差があるように思っていました。

最後に、「出張所」があります。名前でなんとなくわかるかもしれませんが、一番規模感は小さいです。人数も少なく、1隊しか作れません。1隊しか作れない関係で、逆に1年目の職員が配属されることはありませんでした。なぜなら人数が少ないので一人でも使えない奴がいるとフォローしきれないからです。

そんな3種類があって、もちろん自分はエリートなので「本署」に配属されました。

今思っても、この1年目の配属ってどうやって決まっているのか分かりかねます。自分は勝手に、一番優秀だから本署に行ったと思ってました。多分違います。

あ、忘れてましたが出張所は日本でいうところの「町・村」です。

そんな本署も自分の勤務地では4つあったのですが、そのうちの一つに配属され、もうエリート気分でした。

入りたての頃は、「18歳なのにめちゃくちゃ筋肉がある」「下ネタも話せる」「手の大きさが箱ティッシュと同じ」ということもあり、上司や先輩から可愛がられる空気がありました。

ですが、消防署はそれだけで仕事ができるほど甘くはありません。そもそも、手の大きさが箱ティッシュと同じということで仕事ができる職場はありません。

まずは、消防署で訓練を行います。

消防学校で学んだ訓練は全然できます。が、新しく教えてもらうことがことごとくできません。自分でもびっくりします。

だんだん先輩たちから「あれ?」という空気が流れてきます。

そんなこと、これまでの人生で、努力で乗り越えてきたのだから努力すればいいと思うんですけど、ここで自分の新たな特性に気づきます。

「最初から全くできないことに関して、努力ができない」ということです。

今までの人生を振り返ると、たくさん努力してきたつもりでしたが、元々少しできるものばかりでした。

陸上部もなぜかハードルが最初から普通に跳べて先生から褒められた。筋トレに関しては成長が目に見えて楽しかった。ドラムや楽器もピアノを習っていたおかげで最初からある程度できた。

消防に関する訓練は、最初から全くできないんです。

全くできないと、それを周りに見られたり知られたりするのが異常に恥ずかしくて、なかなか努力できません。

とはいえ、仕事ですから努力しようとはします。ですが身につかないんです全く。その時できても次の日には忘れてる。というか、自分で考えて行動するという「アドリブ」的な作業が全くできない。

訓練や現場は目まぐるしく変わるその時の状況を、瞬時に判断して行動に移す連続なのですが、それがあまりにもできない。自信がない。自信をつけるための努力もなぜかできない。詰み。チェックメイト。チェックメイトは勝つ時に言う言葉だから違う。

ただでさえ元々声が小さいのですが、行動に自信がないからさらに声が小さくなって、それでめちゃくちゃ怒られる。怒られまくる毎日。

1年目から期待はされていて、自分がレスキュー隊になるために、優しい上司が仕事がたくさんあるにもかかわらず、夜中にマンツーマンで訓練してくれたりしていました。

その上司はめちゃくちゃ仕事ができて優しくて、上からも下からも尊敬されている人でした。そんな人と毎日のように夜中に訓練しました。訓練した後に真夜中2人だけ事務所に残って事務作業とかしていました。

だけど全然できない! 自分が怖い、できなさすぎて。

そんな優しい上司にいろいろ教えてもらっているのに、普段の訓練や現場で全然できなくて、その上司が何度も落胆する顔を見てきました。落胆する顔って、怒っている顔よりも見ていてしんどいものがあるんですよ。

その上司は「俺の教え方が悪いんだよ」とポロッとこぼしていましたが、本当に自分の出来が悪かったです、すみませんでした。

アドリブ的なことはできませんでしたが、その代わり、もともと動きが決まっている「救助技術訓練」というレスキュー隊の甲子園みたいなものはめちゃくちゃ頑張れました。市の代表として選んでもらったので。むしろここしか頑張れてない気もしますが、これも「最初から少しできた」というのがあるかもしれません。

この救助技術訓練は、5人1チームで行うのですが、自分はいつの間にかキャプテンになっていました。ですが、後輩がとてつもなく苦手で、なかなか指導もできないし怒れないし、なんかそのせいもあってかめちゃくちゃ舐められるし、それを見た上司からは怒られるしで最悪でした。

ただ「自分がやってる背中を見てもらえばわかってもらえるはず」と思いながらやっていましたが、ダメでした。これも向いてない。というかあれ? エリートへの道は?

消防署では24時間勤務するため、若手がみんなの分の食事を作るのですが、それも最初は全然できませんでした。というか消防署をやめる6年目でも、先輩たちのようにはできませんでした。

なんとなく周りを見てそれっぽいことをやって料理を潜り抜けていましたが、後輩たちからも少し邪魔と思われてることを薄々感じてました。

そのぐらい要領が悪くて、同時に色々やろうと思うと頭がパンパンになっちゃうんです。今思うと普通に消防士、というか社会人に向いてなかった気がします。

仕事もちゃんとできませんでした! 正直に言います! できると思ってた方々すみません。

返信しないといけないメールも後回しにして、思い出した頃には色々終わってましたし、重要書類とかもデスクの引き出しにすぐしまってしまい、いろんなものを入れるもんだからミニゴミ屋敷みたいになり、先輩が自分の引き出しを漁って化石みたいになった重要書類を見つけてしまうことも多々ありました。

とにかく仕事が遅いし、ミスも多い。あと最初の頃はナチュラルに仕事というものを舐めすぎていた気がします。

とある休日に訓練があるというのに、直前に旅行の予定を作って休もうとしたりしました。そのことをめちゃくちゃ優しかった先輩に伝えたら怒られて、「生まれて初めて人に怒った」と言われたりもしました。

1年目の新人消防士の教育のために配られる教材みたいなのがあるんです。それをマンツーマンで先輩と書き込んでいくのですが、最後のページが「職場のみんなからメッセージをもらう」みたいなページでして。

自分はやはりめちゃくちゃやばいので、提出締め切り直前まで放置し、なんなら前日、みんなが寝てしまったぐらいの時間にその先輩に「このみんなからのコメントのページ、誰からも書いてもらっていません」と告白し、そしたらその先輩が「大丈夫だから青木くんは寝てていいよ」と言ってくれて、言われた通り寝て起きると、魔法のようにみんなからのコメントがびっしり埋まっていました。

後々聞いたらその先輩が、徹夜して一人で全員分のコメントを書体やペンの太さ、書き方を変えて書いてくれたみたいです。泣けてきます。仕事はできませんでしたが、人には恵まれていました。

火災現場で、一発逆転を狙って炎が燃え盛る部屋に一人で飛び込んだことがあります。ここで一人救出してやる! と思って飛び込んだのですが、中には誰もいませんでした。前回のカラビナ事件とやってることは同じです。それはもうただの自殺行為なので、信じられないぐらい怒られました。

あと、地図も全く覚えられませんでした。消防士はいち早く現場に到着しないといけないため、自分の管轄している地区の道は完全に覚えないといけないのですが、びっくりするぐらい覚えられませんでした。

思い返すと、人生で道を覚えたことがありませんでした。完全に言い訳ですけど。

休みの日に優しい先輩と、一緒に管轄内の道を車で走って道を一緒に覚えさせてもいただきました。その夜には全て忘れていました。

出動で運転手をする時は、コソコソナビを設定してました。ナビって基本使わないんですけどね。自分が運転手で勤務する時の最初の仕事はナビの音声案内の音量をゼロにすることでした。周りにバレないように。

あと、普通に寝坊も多かったです。

寝坊と言っても、家から消防署に行くときの寝坊はなかったんですけど、消防の仕事って24時間あるので途中仮眠時間があるんです。

一応うちの消防署では、22:30〜5:00が仮眠時間で、もちろん若手は5:00ぴったりに急いで起きて、事務所の電気をつけたり、新聞を取り込んだり、コーヒーを作ったりと色々やることがあるのですが、その5:00起きでの寝坊が多かったです。

さらに寝坊して怒られるのが嫌だったので、5:30とかに起きちゃったらバレないように消防署の車庫に行って、ロープとか手袋とかをつけて事務所に入って元気よく挨拶する。

「朝の30分間、車庫で一人自主訓練に勤しんでたやつ」を演じてました。

当時バレてないと思っていましたが、頻繁にそんなことしてるのに全然訓練できるようにならないからバレてたと思います。

書いてて悲しくなってくるんですけど、他には「消防音楽隊」というのもやっていまして、市民のボランティアの方々と消防士たちで、吹奏楽を色々な防災イベントなどで演奏するものだったんですけど、そこでは自分はドラムを担当していて、リズムが合わなすぎて嫌な空気にさせまくっていました。

最終的にめちゃくちゃ練習して、聴けないことはないかなぐらいにはなりましたけど。音楽隊の演奏を見にきた方に「ドラムのやつがデカすぎる」と爆笑されたぐらいです。

そんなこんなで、どう考えてもエリートではないですね。

度重なるミス、失敗、自信のなさから完全にエリートへの道は閉ざされました。

仕事ができなさすぎて、好きな先輩から「青木と職場以外で出会いたかった。青木自身はめちゃくちゃいいやつだし面白いのに、仕事ができないせいで仲良くなれない」と言われたほどです。悲しすぎるだろ。

ではなぜ、エリート街道まっしぐらと思っていた自分が、ここまで落ちぶれてしまったのでしょうか。

それは、「勉強ができる」と「仕事ができる」は全く関係ないからです。めちゃくちゃ当たり前のことをドヤ顔で言ってすみません。

この事実を知りませんでした。というかギリギリまでこれを認めようとしませんでした。なぜなら、それを認めてしまうと自分が今まで勉強してきたことが、意味がないことになってしまうからです。

ですが、どれだけ模試で高得点取ろうが、偏差値が高かろうが、要領が悪かったり、不真面目だったり、行動が遅ければ意味がありません。

その仕事において大事な部分を全く学ばずに就職してしまったのがダメでした。

もちろん、6年間消防士をやって辞める頃にはある程度はできるようになっていましたが、いっても「できる1年目」ぐらいでした、正直。

本来、部活とかバイトとかでその辺りを培わなければいけませんでした。その辺りを知りませんでした。いや、なんで誰も教えてくれなかったの??

というか、この仕事のできなさというか、後回し癖はなかなか治りません。LINEの未読数も3000件を超えてます。このエッセイもいつも締め切りギリギリ、もしくは過ぎてしまいます。

そんな、成績とか勉強だけを見てしまっていて、こういう自分の性質や本質みたいなところを全くわかっていませんでした。

ですが、仕事をしないとそのあたりもわからないままだったと思うので、むしろ高卒ですぐ就職して、それがわかっただけでも良かったのかなと思います。

そして、それがわかったおかげでこうやって転職もできたのかなと思います。

最初についた「仕事ができない」という印象はなかなか取れません。

そんな状況で仕事を続けていても先は見えてますし、やはり消防に関する単語とか用語があまりにも頭に入ってこないことで、自分はこの仕事を退職することに決めました。

「東京で日本一のパーソナルトレーナーになります」と嘘をついて。

最後に、自分が退職する際、お世話になった方々に電話やメールでご挨拶をしたんですが、そのいろんな方からの返事の中で一番印象に残っていて忘れられない、めちゃくちゃ尊敬している大好きな上司からの言葉を皆さんに送ります。

「お前のこの6年間、お前は一人で過ごしてきたわけじゃない。お前のためだけに何人もの職員が、何時間も使われて、いくらの税金が使われたと思ってる? それが全部無駄になったこと忘れるんじゃねえぞ」

なんとかこの消防士の経験を活かして、もっと売れて、勤務していた消防署に還元できるよう頑張ります。無駄にはしません。

あと、日本一のパーソナルトレーナーになるって嘘ついてすみませんでした。

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