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産婦人科医が語る女性医療とSRHRの今——HPVワクチン、プレコンセプションケア、更年期

  • 2026.3.27
Getty Images

話を聞いたのは……
柴田綾子(AYAKO SHIBATA):
産婦人科医。淀川キリスト教病院 医長。SRHRの概念の普及などにも熱心に取り組んでいる。世界遺産15カ国ほど旅をし、その経験から母子保健に関心を持ち産婦人科医になったというユニークな経歴を持つ。

医療の力で女性たちの困りごとを支援

医療というと、病院で診察を受けてというプロセスがないと受けられないものという印象を持っている人も多いだろう。しかし、SRHR(性と生殖に関する権利)の視点で医師がサポートする、という仕組み作りが進んでいると話すのは産婦人科医で淀川キリスト教病院医長の柴田綾子医師。

「一般社団法人日本女性財団『フェムシップドクターズ』は、全国の医療従事者と地域の支援団体および行政との連携に取り組んでいく新しい試みです。治療のほかに、女性の体と健康に関する正しい知識と支援情報の提供、自己決定に関わるリテラシーの向上を助ける活動。パートナーなどからのDV、子どもへの性的虐待、性暴力(望まない性行為)による肉体的、精神的外傷、望まない妊娠などによる社会的困窮、心身の不調を抱えて困っている女性たちへの支援の輪です。日本では、女性へのSRHR支援が薄いという現状があります。

生理の貧困から更年期障害に関する偏見もそうですし、望まない妊娠をして中絶をしたくても、自費のため選ぶことができないケースもあります。実際に治療現場にいても、女性のSRHRや経済的な不平等を感じることは少なくありません。避妊、中絶、妊娠へ国からの経済的支援政策が必要だと感じています」

また、もうひとつ日本でもユースクリニックについてもみんなで考えていこうという動きが出てきているという。

「ユースクリニックは、北欧などにある若年者が利用できる保健室のようなものです。日本でも取り組みを希望する声が高まり、女性医療ネットワーク主催で今後の展開を考えるイベントを開催することになりました。ほんの少しずつですが、日本でも変化が生まれてきています」

なかなか上昇しないHPV ワクチン接種と検診率

2013年から2022年まではHPVワクチンを積極的に勧めることを控えていた。副反応に関する正しい情報が出てきて伸びてきたものの、依然として接種率は世界レベルからみるととても低い。出典:ワクチンJAPAN(厚生労働省協力)HPVワクチン接種データ 2025 Hearst Owned

「子宮頸がんはセックスで感染するがんであり、ワクチンで防ぐことができる数少ないがんです」と柴田先生。子宮頸がんは、HPV(ヒト・パピローマウイルス)への感染が主な原因だ。HPVは性交渉によって感染する。

日本では副反応に関する報道が過熱し、2013年~2022年までの約9年間、積極的な接種勧奨の差し控えが起きてしまった。その後、副反応に関しては安全性が認められ、2022年4月から定期接種が再開し、打ち逃した世代に対してもキャッチアップ接種という措置が取られた。現在は、悪性度が高いHPVハイリスク型9つをカバーする「9価ワクチン」の接種が進んでいる。

「キャッチアップ接種の報道が増えたことでHPVワクチンの接種率が伸びたと私自身も感じていたのですが、実際の接種データをみると、2025年時点の高校1年相当女子の初回接種率は50%程度」。世界では80%近い接種率のところもあり、オーストラリアでは子宮頸がんの撲滅宣言をしている。しかし、日本はG7の中でHPV由来の子宮頸がんの罹患率が最も高くなっている。

さらに、国民生活基礎調査による2022年のデータによると、子宮頸がん検診受診率(2年間の受診率)は約43.6%。過去10年間を見ても40%台の横ばいだ。

「がんは不治の病ではなくなっていますが、それは定期的に検診を行ってこそ。特に子宮頸がんは、感染症なので誰もがかかる可能性がある。定期接種できる世代はワクチン接種を。そして、がん検診と両輪で行うことが大事です。また、世界的には女子生徒だけでなく、男子生徒にもHPVワクチン接種が進んでいます。女子と同じように男子も公費で打てるように進んでほしいと願っています」

すべての人に届く婦人科医療を。プレコンセプションケアとSRHR的観点

Hearst Owned



婦人科領域の中で、広がりを見せているのが、プレコンセプションケア(通称プレコン)だ。こども家庭庁は、2024年度補正予算でプレコンセプションケア事業に5億円を計上したと報道された。

プレコンセプションケアとは簡単にいえば「妊娠前の健康管理」という意味にあたる。WHOも2012年に「妊娠前の女性とカップルに医学的・行動学的・社会的な保健介入を行うこと」と定義している。しかし、「プレコンだけに多額な公費を使うのは不公平」「少子化の名のもとに、産むことだけが優位という思想になるのでは」「SRHRに反するのでは」という声もある。

「確かに、産みたい人だけの支援と感じられてしまう点に注意が必要です。女性医療SRHRの概念にあるように、産む・産まないはその人自身が決めることであるのは大前提。婦人科医としてお伝えしたいのは、プレコンは今と将来の健康を保つために重要であり、将来妊娠を選択してもしなくても、自分自身の婦人科領域の健康を考えることは大事だと考えています。プレコンの範囲は、思春期前~更年期までの全世代の女性の健康支援です。月経や更年期障害による不調は、就労問題にも影響し、経済損失が大きい。ですが実際には、治療に結び付いていない人が多いのです」

更年期に関しては、下のグラフのように症状を自覚しても病院を受診しない人が圧倒的に多く、世代関係なく7~8割を超えている。月経の不調に関しては、情報発信が多くされるようになり、婦人科で治療する人は増えてきているというが、更年期障害に関しては「年齢のせい」「仕方ない」と我慢している人も多い。柴田医師は、婦人科治療は女性の一生を支える医療だという。

「日本は他国に比べてSRHRの部分で遅れている点も多い。婦人科医としてSRHRを尊重した情報発信をしていかねばと思っています」

更年期症状が一つでもある回答者(女性:2,409人)を対象。更年期症状を感じながらも医療機関を受診しない女性がすべての世代で7~8割もいる。出典:厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」2022 Hearst Owned



From Harper's BAZAAR April 2026 Issue

 

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