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なぜ普通の主婦が借金を重ねてしまったのか。「借金300万円」の裏側に潜む心の問題【書評】

  • 2026.3.11

【漫画】本編を読む

借金を作ってしまう理由は、一言で片づけられるものではない。浪費癖、ストレス、見栄、孤独、自己肯定感の低さ。そのどれか一つが原因なのではなく、いくつもの要因が絡み合い、気づいたときには引き返せない場所まで来てしまうのかもしれない。『夫に内緒で借金300万』(涼子:原作、海原こうめ:漫画/KADOKAWA)は、その「なぜ」を感情の奥深くまで掘り下げて描いたコミックエッセイだ。

主人公の涼子は、夫と娘と暮らすごく普通の主婦。家事と育児に追われ、自分の時間も心の余裕も持てない日々の中で、久しぶりにひとりで立ち寄ったコンビニが、彼女にとっての「救い」になる。誰にも気を遣わず、欲しいものを選び、ほんの束の間、自分を甘やかす。その解放感は「ご褒美」という言葉で正当化され、それはやがて、逃れられない習慣へと変わっていく。

コンビニ、美容、ランチ代。「この程度なら大丈夫」――そう自分に言い聞かせて借りたお金は、気づけば300万円に膨れ上がっていた。彼女は、母親との関係の中で自己肯定感をうまく育てられず、人間関係のストレスを「お金で埋める」ことで自分を保ってきた。その心の空白が、借金という形で可視化されていく過程は、あまりにも生々しい。

さらに印象的なのが、義母の存在だ。人付き合いに不器用な彼女は、周囲に物を配ることで関係をつなぎ止めてきた。善意と不安が入り混じったその行為は、年金暮らしになった途端、借金という重荷へと変わる。理由は違えど、コンプレックスや不安から心理的にお金を使ってしまう点では、涼子と重なる部分がある。

家族に内緒での返済、節約、パート、副業としてのチャットレディ。必死の努力もむなしく、義母の借金まで背負ったことで状況は泥沼化し、精神的にも限界まで追い詰められていく。借金は単なる金銭の多寡ではなく、心の問題そのものなのだ。その現実を、本作は痛いほど突きつけてくる。

『夫に内緒で借金300万』は、「どうしてこんなことになったのか」という問いに、簡単な答えを与えない。その代わり、誰の中にも潜んでいる弱さや孤独に、そっと光を当てる。決して他人事ではない物語として、静かに、しかし確実に胸に迫ってくる一作だ。

文=ネゴト / すずかん

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