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コーヒーで旅する日本/関西編|イベントを通じて和歌山コーヒーシーンの魅力を発信。動き続ける地元のキーマン。「MARKET WAKAYAMA」

  • 2026.3.10

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

常連には近隣の店主も多く、カウンターの周りでは会話が絶えない
常連には近隣の店主も多く、カウンターの周りでは会話が絶えない

関西編の第107回は、和歌山市の「MARKET WAKAYAMA」。店主の仁尾祥吾さんは、和歌山で数々のイベントを手掛け、地元のカルチャーシーンに欠かせないキーマンの一人。今も毎週のようにイベントを企画し、若い世代の拠り所として支持を得ている。とはいえ、「本業はコーヒー屋」という仁尾さん。10年前にコーヒーの魅力と出合って以来、出張喫茶や間借り営業を経て、自店を開業。同時に、WAKAYAMA COFFEE MARKETを主催し、いまや和歌山最大のコーヒーイベントにまで規模を広げている。地元のコーヒーシーンを盛り上げるべく動き続ける仁尾さんが、新たな店やコミュニティが充実するなかで感じた街の変化とは。

店長の仁尾さん
店長の仁尾さん

Profile|仁尾祥吾(にお・しょうご)

1992年(平成4年)、和歌山市生まれ。高校卒業後、地元企業に就職。仕事の傍ら始めた、和歌山駅前でのファッションスナップが話題となり、地域情報誌LiSMにて6年間、連載を担当。並行して、カフェバーや飲食店でのイベント企画も多数開催。2015年にコーヒーの魅力に出合ったのを機に、喫茶店でのアルバイトやSUISEI COFFEEとして間借り営業を経て、2020年に「MARKET WAKAYAMA」をオープン。同年に和歌山市内で初のコーヒーイベント・WAKAYAMA COFFEE MARKETを開催。毎年、形を変えながら開催を続け、2025年からは県外での出張開催もスタート。

地元を盛り上げる、“多動の人”とコーヒーの出合い

店先の大きなコーヒーカップのオブジェが目印
店先の大きなコーヒーカップのオブジェが目印

「外からはイベントの人と思われるけど、ベースはコーヒー屋。音楽とかいろいろしているからわかりにくいけど、常にコーヒー屋と名乗っています」という店主の仁尾さん。というのも、普段からコーヒーに限らず大小さまざまなイベントを手掛け、いまや和歌山最大のコーヒーイベントとなったWAKAYAMA COFFEE MARKETの主催者の顔も持つがゆえ。遡れば、高校卒業後、会社勤めをしながら、和歌山駅前のファッションスナップをSNSで始めたのをきっかけに、地元タウン誌で街角スナップや飲食店紹介の連載を担当。並行して、独自の音楽イベント企画や、海南市の人気マルシェの実行委員に携わるなど、地元のカルチャーシーンを盛り上げてきた“多動の人”だ。

そんな仁尾さんが、コーヒーと出合ったのは2015年頃のこと。当時はコーヒーを熱心に飲んでいたわけではなく、知識も何もなかったが、「それでも、何となく興味は持っていた」という仁尾さんが、コーヒーの魅力を見出したのは、2つのコーヒー店との縁を得てからだった。最初の入口となったのは、本連載でも紹介したThe Roasters。当時、まだ開店1年目、和歌山でスペシャルティコーヒーをいち早く提案し始めた店だ。

1階はSUISEI COFFEEとして営業。肩肘張らない開放的な雰囲気
1階はSUISEI COFFEEとして営業。肩肘張らない開放的な雰囲気

「興味本位で、ドリップ教室に参加したんですが、参加者は開業希望がほとんどで、コーヒーの話を聞いても全然わからなかった。でも、この仕事はカッコいいと感じて、たびたび通うようになりました。なにより店主の神谷さんが、店をしながらイベント出店、子育てもしたうえで、東京のコーヒーフェスティバルにも参加していると聞いて、県外で活躍しているのに憧れました」と振り返る。

以来、「他の人はどうやってコーヒーを淹れているのか」が気になりはじめて、各地の店を巡り、タウン誌で紹介する飲食店もカフェやコーヒー店を選ぶことが多くなったという。さらには、東京にも足を延ばし、評判の店を訪ね歩いた時に、決定的な転機が待っていた。「吉祥寺のライトアップコーヒーで、初めて浅煎りのスペシャルティコーヒーを飲んでびっくり。味はもちろん、テイクアウト主体で、お客さんが気軽に集まれるスタンドのスタイルも新鮮で。そのころ、和歌山にはまだなかったから、地元にこういう場を作れないかと思ったんです」

それからは、コーヒー店巡りにも拍車がかかり、会社勤めの傍らカフェでのアルバイトも経験。さらには、The Roastersに通ってコーヒーの知識・技術を学びつつ、2018年から、行きつけのパスタ専門店・赤松で間借りして、SUISEI COFFEEの屋号でコーヒーを提供するまでになった。

「コース料理の締めのコーヒーを僕が担当するという条件で、The Roastersのオリジナルブレンドを使って淹れていました。2年ほど続けたら楽しくて。夜のカフェバーイベントでもコーヒーで出店するようになりました」という仁尾さん。イベント出店の好評を受け、2020年から県外に出張喫茶ツアーを計画したが、好事魔多し。その矢先コロナ禍によって、白紙にせざるを得なくなった。

地下はスタジオ兼イベントスペース。イベントは毎週開催している
地下はスタジオ兼イベントスペース。イベントは毎週開催している

和歌山のコーヒーシーンに新しい波を

「今も住んでいる、お堀端の界隈は愛着もあるから盛り上げていきたい」と仁尾さん
「今も住んでいる、お堀端の界隈は愛着もあるから盛り上げていきたい」と仁尾さん

間借りの営業も困難になった時、助け舟を出してくれたのは、地元の仲間や同業の知人だった。「創業50年の老舗・喫茶ピュアの店主・松本さんが“うちに来たらどう?”と声をかけてくれて。店で働きながら、あらためて喫茶の仕事のイロハを学べました。この時、後にロースターとして独立する先輩とも知り合い、3カ月ほどでしたが、中身の濃い時間でした」と振り返る。相前後して、同世代の親友でもある美容師の木村知弘さんから、開業をあと押しする知らせが届く。「木村さんが、美容室を開業するビルの階下が空いているから、カフェをしないかと提案があって。兼ねてから、“一緒に何かできたらいいな”と話していた間柄でもあり、即決しました」と、2020年6月、1階をSUISEI COFFEE、地下をイベントスペースとして、MARKET WAKAYAMAをオープン。自店でも毎週のようにイベントを開催し、若い世代の拠り所として支持を得ていった。

独立を果たした同じ年に始めたのが、和歌山市内で初のコーヒーイベント、WAKAYAMA COFFEE MARKETだ。「和歌山は若手のロースターが少ないと感じていて。先々を考えて新しい店を紹介する場を作って、地元のコーヒーシーンを盛り上げようと。また、コロナ禍でお酒がダメになって、コーヒーも同じようになるのは嫌だった。家で淹れる人は増えたけど、コミュニティとしてのコーヒー屋の楽しさは、街の活気にもつながるのではと思っていました」と振り返る。

ホットコーヒー500円は、ブラジル、雲南など3種から日替りで提供
ホットコーヒー500円は、ブラジル、雲南など3種から日替りで提供

第1回は市内のカフェバーを会場に6店が参加した。和歌山では初の試みで、告知もなしの小さなイベントだったが、フタを開けてみれば予想をはるかに超えるお客が訪れ、入場制限がかかるほどだった。それゆえ、翌年から和歌山県立美術館の敷地を舞台に野外で開催。年々、他県からの参加店も増えスケールは大きくなり、特に第3回では約2万人が来場し、最大規模の動員となった。

「県外からの参加者が、“和歌山のイベントはおもしろかった”と、それぞれの地元で広めてくれる効果は大きい」と仁尾さん。一方で、まだ開店前の間借り営業や移動販売の店主にもオファーを出し、コーヒーシーンのニューフェイスを紹介する場としても注目を集めている。

とはいえ、「イベントの知名度は上がったかもしれないが、街の変化につながっているのかが見えなくて。最初のころは、その点に手応えが得られてなかった」という仁尾さん。土地柄の違いがあるのかと考え、2023年は単身、東京に1年滞在し、現地でイベントを企画して回ったこともあるとか。それでも、「東京なら違うのかと思ったけど、場所による違いはなくて、むしろ和歌山の方がユニークでカッコいいと再認識した。人の数は比べるべくもないけど、盛り上がりの熱は負けてないなと」。この時、仁尾さんはかつて憧れた、東京コーヒーフェスティバルにも出店。好評を得たことで、あらためて自身の“コーヒー屋”としてのスタンスに自信を深めた。

2階のスペースはDJブースも設置。以前は焙煎の場も兼ねていた
2階のスペースはDJブースも設置。以前は焙煎の場も兼ねていた

街の日常の一部になれているのがうれしい

仁尾さんが焙煎を始めた時に使っていた手回しの器具。現在は希望者に貸出している
仁尾さんが焙煎を始めた時に使っていた手回しの器具。現在は希望者に貸出している

これまで、自店でもイベントでも抽出・接客に軸を置いてきた仁尾さんが、焙煎を始めたのは1年ほど前から。「常連さんが定着した一方で、新規で訪れるお客さんが少なかったので、新しいフックを作るという意味合いもあります。ちょうど、木村さんが美容室を移転して2階が空いたタイミングで、焙煎する場所もできた。自分でやってみたら楽しいし、お客さんにもおいしいと言ってもらえた。ほめられると調子が上がるタイプなので(笑)」。最初の3カ月は手回し焙煎機を使い、その後は喫茶ピュアで1キロの焙煎機をシェア。浅煎りでコーヒーのおもしろさに傾倒したが、喫茶店好きの自身の嗜好に合わせて店では深煎りが定番となっている。最近は豆の購入希望も増え、同じ深煎りがメインの珈琲もくれんで、3キロの焙煎機をシェアするまでになった。

店内の壁には常にイベントのポップを貼って情報発信
店内の壁には常にイベントのポップを貼って情報発信

一方で、WAKAYAMA COFFEE MARKETは、4回目以降は小規模で複数回開催にシフト。さらにエリアを広げて、市外、県外での開催も増えつつある。「市内を盛り上げるならイベントは自店で十分にできるから、あえて人が少ないところへイベントが出張する形ですが、各地ともみんなテンションが高い」と好評を得ている。そして、5周年を迎えた今年は、野外の美術館開催を復活。今までの参加店、60軒を集めてのオールスターの出店で盛り上がった。「2025年の和歌山コーヒーシーンはおもしろい。店も充実してきて、注目の若手も多く出てきている。自店でもいろいろやりたいことがあるし、お互いライバルとして競い合いたい。街の人にも認められてきたと思う。ようやく先輩の店と対等なところまできたから」。自家焙煎を始めて以降、自店の客層も広がりはじめ、街の新たなコミュニティも生まれつつある。

2025年11月に開催された、和歌山珈琲市場 WAKAYAMA COFFEE MARKET 2025の会場。2日間で関東、関西、四国、東海から過去最多の約100店舗が出店した
2025年11月に開催された、和歌山珈琲市場 WAKAYAMA COFFEE MARKET 2025の会場。2日間で関東、関西、四国、東海から過去最多の約100店舗が出店した

また2024年からは、和歌山随一の老舗・珈琲るーむ森永で、3カ月に1回の夜喫茶をスタート。「イベントを通してママさんと仲良くなったのがきっかけ。普段は16時まで、土・日休みなので、行きたいけど行けない人が多かったから、そういう人のために夜を開けたいなと。ママさんはいつもお客さんと話すひまもないから、この時だけはゆっくり話してもらって、メニューは僕らが担う。和歌山はいい純喫茶も多いから残していければ」と、新しい形の継承喫茶を実践している。

コーヒーシーンはもちろん、そこから広がる街の変化を盛り上げるべく、動き続ける仁尾さん。開店から5年を迎えて、こんな感慨を抱いている。「新しいコーヒー店が定着したことで、うちに来たお客さんが、“このあと、近所の違う店にも寄ろう”と話しているのを聞くことが増えました。みんなが街で一日を過ごすコースの一部に、自分もなってるんやなと。昔、大阪や東京で見て憧れていたライフスタイルのなかに、この店が含まれているのがうれしい。これからも、今と変わらずコーヒーとイベントは続けます。飽きられないよう、続けながらクオリティも上げていきたい。もう毎日、楽しいですよ(笑)」

仁尾さんレコメンドのコーヒーショップは「SUNDAE」

次回、紹介するのは、和歌山市の「SUNDAE」。

「MARKET WAKAYAMAの階上で美容室をしていた木村知弘さんが移転し、新たに併設されたコーヒースタンド。奥さんの有希さんが切り盛りしていて、同じ和歌山城下エリアで近いこともあり、行き来しているお客さんも多い。2人とは同世代の仲間で、イベントなどで一緒に活動もしてきた同志的な存在。20代のころ、よく集まって話し合っていた夢が形になって、街の人を動かすきっかけになっているのが感慨深いですね」(仁尾さん)

【MARKET WAKAYAMAのコーヒーデータ】

●焙煎機/なし(シェアロースト)

●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)

●焙煎度合い/中深~深煎り

●テイクアウト/あり(500円~)

●豆の販売/シングルオリジン3種、100グラム800円

取材・文=田中慶一

撮影=直江泰治

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