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ずっと地下を走っているのに…なぜ、東急田園都市線は“地下鉄”と呼ばれない?現役鉄道員が明かす知られざる境界線

  • 2026.4.16
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出典:PIXTA(※画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。現役鉄道会社社員の福本明文です。

「地下鉄」という言葉を聞いて、皆さんはどのような風景を思い浮かべるでしょうか。多くの人は東京メトロやOsaka Metroのように、都会のビル群の地下を走る電車を連想するはずです。

しかし、少し視野を広げてみると不思議なことに気づきます。例えば、東京のJR京葉線や東急田園都市線、大阪のJR東西線なども、かなりの区間を地下で走行しています。それでも、これらを「地下鉄」と呼ぶ人はほとんどいません。一方で、長野県を走る長野電鉄は、市街地の一部区間が地下化されていることから、地元の方々に「地下鉄」と呼ばれることがあります。

文字通り「地下を走る鉄道」と考えれば、これらはすべて地下鉄のはずです。一体、何がその境界線を決めているのでしょうか。知られざる「地下鉄の定義」に迫ります。

法律にも書かれていない「地下鉄」の正体

日本の法律には「地下鉄」という明確な定義が存在しません。日本の鉄道は主に「鉄道事業法」や「軌道法」という法律に基づいて運営されていますが、これらの条文をいくら読み込んでも地下鉄の定義は記されていないのです。

つまり、私たちが日常的に使っている「地下鉄」という言葉は、法的な用語というよりも、行政上の分類や歴史的な経緯、あるいは慣習によって形作られた概念に過ぎないと言えます。

では、公的な文書ではどのように扱われているのでしょうか。一つの基準となるのが、国土交通省が毎年発行している『鉄道統計年報』です。この資料には「地下鉄事業者」という項目があり、以下の団体が明記されています。

  • 東京地下鉄(東京メトロ)
  • 大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)
  • 各都市の交通局(札幌市、仙台市、東京都、横浜市、名古屋市、京都市、神戸市、福岡市)

これらは、かつて「帝都高速度交通営団」であった東京メトロを除き、その多くが自治体によって運営されている(または運営されていた)公営交通の流れを汲むものです。国が統計上「地下鉄」としているのは、これら特定の事業者に限定されています。

「日本地下鉄協会」による定義

しかし、実態はもう少し複雑です。地下鉄事業者などが加盟する「一般社団法人 日本地下鉄協会」という団体があります。この協会が発行する資料『日本の地下鉄』を見ると、先ほどの事業者に加えて、以下の事業者も「地下鉄」として紹介されています。

  • 北総鉄道
  • 埼玉高速鉄道
  • 東葉高速鉄道
  • 横浜高速鉄道(みなとみらい線)
  • 広島高速交通(アストラムライン)

これらは、いわゆる「第三セクター」方式で建設された路線が多く、建設経緯や役割が都市部の公営地下鉄と密接に関わっているため、実質的に地下鉄の仲間として扱われています。このように、どの視点から見るかによって、地下鉄の範囲は微妙に変化するのです。

「お金の流れ」で見えてくる地下鉄の定義

さらに専門的な視点に立つと、別の基準が見えてきます。それが建設時の補助金です。

日本には都市の深刻な交通渋滞を緩和するために地下鉄道を建設する際、国がその費用の一部を支援する「地下高速鉄道整備事業費補助」という制度があります。この補助金を受けて建設された路線こそが「地下鉄」であるという考え方です。

この定義を採用すると面白いことが起こります。大阪市内を通過するJR東西線の施設を保有し、なにわ筋線を建設中の「関西高速鉄道」なども地下鉄の範疇に含まれることになります。普段私たちが「JR」と呼んでいる路線の中にも、その出自を辿れば「地下鉄としての血筋」を引いているものが存在するのです。

なぜJR京葉線や東急田園都市線は「地下鉄」ではないのか

ここで冒頭の疑問に戻ります。なぜ、地下を長く走るJR京葉線や東急田園都市線は地下鉄と呼ばれないのでしょうか。

その理由は、路線の目的にあります。これらの路線は、もともと地上を走る私鉄や国鉄の延伸・改良として建設されました。郊外と都心を結ぶ鉄道としての性格が強く、たまたま都心部や混雑区間を抜けるために「地下線を選択した」という扱いなのです。

対して地下鉄は、都市内の高密度な交通需要を捌くために、最初から地下空間を活用することを前提に計画されました。この目的の違いも、地下鉄と「地下を通るだけの鉄道」を分ける定義の一つになっていると言えるでしょう。

「呼びたいから呼ぶ」も一つの正解

さて、冒頭で触れた長野電鉄の例はどうでしょうか。長野電鉄は、前述した「地下鉄事業者」のリストには入っておらず、地下化の事業自体は、長野市の区画整理と並行して「連続立体交差事業」としておこなわれたため、地下鉄に対する補助金の対象にも含まれていません。しかし、長野駅付近の地下区間には都会の地下鉄と何ら変わらない光景が広がっています。

明確な定義がない以上、利用する人々が「地下鉄」と呼ぶのであれば、それも地下鉄ということで間違いというわけではありません。歴史を紐解けば、線路による地域の分断の解消や都市景観の維持のために地下化を選んだ経緯があり、その志は都会の地下鉄と変わりありません。

地下鉄とは何か

「地下鉄とは何か」という問いに対する答えは、実は一つではありません。

  • 統計上の分類
  • 業界団体の定義
  • 補助金の対象か
  • 実態

調べれば調べるほど、地下鉄の定義は深くなっていきます。私たちが普段何気なく利用している路線が、なぜ地下に作られたのか、なぜ地下鉄と呼ばれているのか(あるいは呼ばれていないのか)。そこに注目してみると、その街がかつて抱えていた交通課題や、建設に挑んだ人々の情熱、そして街の歴史が透けて見えてくるはずです。

次に地下駅のホームに立った際は、駅から続くトンネルにも思いを馳せてみてください。そこには興味深い物語が隠されているかもしれません。


参考:
鉄道統計年報(国土交通省)
日本の地下鉄(日本地下鉄協会)


ライター:福本明文
大学卒業後、鉄道会社に総合職として入社し、鉄道業界を15年以上経験。鉄道部門だけでなく、関連事業部門のタクシーやバス、小売りなどを幅広く経験。現在はWebライターとしても活躍し、広報を担当した経験からコラム記事の執筆からSNSへのコンテンツ提供まで幅広く活躍中。


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