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生涯で150種以上の虫に刺されてきた男

  • 2026.2.25
ジャスティン・オーベル・シュミット/ Credit: en.wikipedia

「撃たれたような痛み」と聞いて、あなたは何を想像するでしょうか。

それを比喩ではなく、本気で体験し続けた科学者がいます。

アメリカの昆虫学者、ジャスティン・オーベル・シュミット(1947〜2023)です。

彼は研究人生の中で、150種以上の昆虫に刺されてきました。

しかもその多くは、科学のためでした。

目次

  • 7歳の“実験”から始まった痛みの研究
  • 自らの身体で作られた「痛みの地図」

7歳の“実験”から始まった痛みの研究

シュミットが初めて「刺し傷の実験」を行ったのは7歳のときです。

タンポポに止まっていたセイヨウミツバチをつまみ上げ、近くにいた担任教師の腕に乗せました。

「刺すかもしれない」という仮説は見事に的中します。

もちろん、先生にとっては迷惑な結果でした。

そこから彼は自分自身の体を実験台にします。

アメリカ北東部のアパラチア地方で育った彼は、子ども時代に数多くのハチやスズメバチに刺されました。

その経験から、あることに気づきます。

どの刺し傷も痛いが、痛みの「質」が微妙に違うということです。

決定的だったのは、クロナガアリ(Harvester ant)の群れに偶然遭遇したときでした。

それまでの刺し傷とは明らかに違う、予想外の激痛だったのです。

彼はその痛みを「大胆で容赦ない。誰かが巻き爪をドリルで掘り進めているようだ」と描写しました。

この違いはなぜ生まれるのか。

刺し方はどのように進化したのか。

その疑問が、彼を昆虫学、そして化学生態学の道へと進ませました。

自らの身体で作られた「痛みの地図」

野外調査でさまざまな昆虫を採集するうちに、刺される機会は自然と増えていきました。

毒の化学成分は分析できます。

しかし「どんな痛みか」という体験の質は、数値化されていませんでした。

そこで彼は「シュミット刺傷痛指数」を考案します。

痛みを1から4までの段階で評価し、さらに文章で詳細に記録する方法です。

レベル1はコハナバチという小さな蜂です。

「軽く、はかなく、ほのかにフルーティー。腕の一本の毛が小さな火花で焦げたようだ」と表現しました。

レベル2は英語圏で「イエロージャケット」と称されるスズメバチです。

「熱く、煙のようで、どこか不遜な感じ」です。

レベル3は先ほど言ったクロナガアリで、「巻き爪をドリルで掘られているようだ」と記しました。

そして最高ランクの4がサシハリアリです。

ブラジルの調査中に刺されたとき、痛みは「貨物列車のように」彼を直撃しました。

指数にはこう残されています。

「純粋で、強烈で、まばゆい……燃え盛る炭火の上を歩きながら、3インチのさびた釘がかかとに食い込むようだ」。

サシハリアリ/ Credit: ja.wikipedia

タランチュラやウォリアーワスプも激痛をもたらしますが、持続時間はそれぞれ約2分と約1時間です。

サシハリアリの痛みは24時間続くといいます。

撃たれたようだと形容される理由も理解できます。

それでも彼は、刺された直後にノートとストップウォッチを取り出し、冷静に記録しました。

まず悪態をつき、その後に科学者に戻るのです。

35年にわたり指数を更新し続け、彼は150種以上の昆虫に刺されました。

痛みを恐れず、理解しようとした男

シュミットはその後、2023年に75歳で亡くなりました。

しかし彼が残した「痛みの地図」は、今も昆虫の防御進化を理解する手がかりになっています。

痛みはただの苦痛ではありません。

生物が生き延びるために磨き上げてきた、強力なメッセージなのです。

参考文献

Justin Schmidt Was Stung By Over 150 Species In His Career. Weirdest Of All, It Was On Purpose
https://www.iflscience.com/justin-schmidt-was-stung-by-over-150-species-in-his-career-weirdest-of-all-it-was-on-purpose-82604

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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