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ADHD傾向が強い人は突発的なひらめきで問題を解決する能力が高い

  • 2026.2.22
Credit:Google Gemini

ADHD(注意欠如・多動症)は、集中を保つことや衝動を抑えることが難しく、段取りを立てるなどの「実行機能(executive function)」が低いため、社会的な困難が強調されることよくあります。

しかし一方で、ADHDは「発想が広がりやすい」「思いがけない組み合わせを思いつく」といった、創造性の面で優れた才能があるという指摘もされています。

この話題でよく聞くのが、スティーブ・ジョブズはADHDだったというものです。実際ジョブズがADHDの診断を受けたという記録は見当たりませんが、それを匂わせる逸話は多く、ADHDは実は天才肌という説の実例のように語られています。

ただ、人の創造性を正しく評価して測定することは難しく、この問題については結論は出ていません。

そんな中、米国のドレクセル大学(Drexel University)の心理学者ハンナ・マイサノ(Hannah Maisano)氏ら研究チームは、課題問題の解き方に注目し、筋道を立てて考えているのか、ひらめきで解いているのかを分けて分析するという新しい調査を行いました。

その結果、ADHDの特性は創造的な問題解決において強力な武器になり得ることが示唆されたというのです。

さらに興味深い発見は、ADHD傾向が「高い人」と「低い人」の両方が課題解決に高いパフォーマンスを示した一方で、「中程度の人」が最も成績が低かったという事実です。

この研究の詳細は、2026年1月15日に付けで学術誌『Personality and Individual Differences』に掲載されています。

目次

  • ADHDは創造性が高いのか?
  • なぜADHD傾向が高いと「ひらめき」が起きるのか?
  • 「優劣」ではなく「思考ルート」の違い

ADHDは創造性が高いのか?

「ADHDの特性は創造性と関係するのだろうか」という疑問は以前から研究者の関心を集め、さまざまな実験で確かめられてきました。

ただし、これまで創造性の研究においてADHDとの関連性は「一貫性がない(弱い)」とされてきました

理由の一つは、「創造性」をどう定義し、どう測るかが非常に難しい問題であるという点にあります。

研究チームはこの原因について、既存研究の多くが課題に対して「どれだけ解けたか」という結果に比重を置き、「どのように解いたか」という過程を十分に分析していなかった点に問題があるのではないかと考えました。

創造的な問題解決には、手がかりを順に検討して積み上げる分析(analysis)と、答えがまとまって意識に上がるひらめき(insight)の少なくとも二つの道筋があると考えられています。

ひらめき(insight)とは、解に至る過程を段階的にたどったという自覚が薄いまま、答えが突然意識に浮かぶ体験を指します。

一方の分析(analysis)は、情報を意識的に組み替えたり候補を試したりしながら、非自明な答えに近づく解き方です。

もしADHDの特性が「正解数」そのものよりも、「ひらめき寄りか分析寄りか」という配分に影響するなら、正解数だけを見る研究では関係が見えにくくなる可能性があります。

研究チームは、これが「結果の一貫性のなさ」の一因になっているのではないかと考えたのです。

「分析」の健常者、「ひらめき」のADHD

研究チームが使ったのは、言葉のパズル型の課題です。

大学生301名を対象に、遠隔連想課題(Compound Remote Associates Task; CRA)と呼ばれる言語パズルのテストを行いました。

これは、一見無関係に見える3つの単語(例えば「紙・本・袋」)から、共通してつながる1つの単語(正解は「手」 → 手紙、手本、手袋)を導き出すという、創造性を測る古典的なテストです 。クイズ番組などで見たことがある人も多いかもしれません。

そしてこの実験で研究チームが工夫したのが、正解だけでなく「解き方」もセットで答えてもらった点です。

参加者は、答えが分かった瞬間にキーを押してから答えを入力しました。

その直後に、解き方がひらめき(insight)だったのか分析(analysis)だったのかを選び、問題ごとに記録しました。

つまり研究チームは、同じ課題で「ひらめきで解いた正解」と「分析で解いた正解」を分けて数えられるようにしたのです。

参加者のADHDの傾向は、世界保健機関(World Health Organization)が用いる成人ADHD自己記入式尺度(Adult ADHD Self-Report Scale)で測定されました。(今回の実験では参加者301人中161人(約50%超)が、ASRSで閾値を超えた(診断可能性あり)だった)

その結果、ADHD傾向の強さ(ASRSスコア)によって、問題解決のスタイルが明確に分かれることが判明しました。

つまり、同じ正解にたどり着いても、そこまでの道筋がADHD傾向によって偏りやすい可能性が示されたのです。

なぜADHD傾向が高いと「ひらめき」が起きるのか?

研究者たちは、この結果がADHDに関連する「注意力散漫」に関連すると考えています。通常、脳の実行機能(Executive Function)は、無関係な情報を遮断して目の前のタスクに集中させようとします。

しかし、ADHD傾向が高い脳ではこの抑制機能が弱いため、意識が拡散しやすく、結果として遠く離れた記憶やアイデア同士が結びつきやすくなっていた可能性があるのです。

これが「アハ体験」を生む土壌になっていたのです。

そして、さらに興味深い発見が、ADHD傾向が中程度の位置にある人たちの結果でした。

衝撃の「U字型」曲線: ADHD傾向が”中間の人” の陥る罠

この研究で最も注目すべき発見は、「ADHD傾向と正答数の関係」です。

データを分析したところ、ADHD傾向が「最も低いグループ」と「最も高いグループ」は、どちらも同程度に高い正答数(パフォーマンス)を記録しました。

しかし、その中間に位置する「ADHD傾向が中程度のグループ」は、正答数が有意に低いという結果が出ました。グラフにすると、両端が高く、中央が低くなる「U字型」の曲線を描いたのです。

なぜ「中間層」のパフォーマンスが落ちるのか?

研究チームは、この現象を「認知スタイルの競合(Trade-off)」として説明しています。

今回の実験はADHDの診断を正確に行ったわけではなく、症状の強さを連続的に測る指標を用いて分類しています。

そのため正確な医学的判断で述べられているわけではありませんが、低いADHD傾向は主に定型発達者に近い人たち、高いADHD傾向は診断の可能性が高い人達と考えられます。

そのため中間層の人たちは、弱いADHD症状が見られる人たち、傾向はあるが診断までには至らない人たちと捉えられるかも知れません。

研究結果はこの、中間層の人たちが問題解決においてはもっとも困難が多い可能性を示唆しています。

「優劣」ではなく「思考ルート」の違い

これまで、創造性の研究においてADHDとの関連性は「一貫性がない(弱い)」とされてきました。しかし今回の研究は、その理由を上手く説明しています。

これまでの研究は「ひらめき」と「分析」を区別せずに測定していたため、「分析が得意な層」と「ひらめきが得意な層」の成績が相殺され、全体としての相関が見えなくなっていました

しかし、問題解決の道筋を含めて考えると、ADHD傾向との関連性が見えてきます。

この研究では、分析(analysis)も創造的な問題解決の一つのルートとして扱われています。

「分析」は、答えに向かって候補を意識的に扱い、手がかりを順に検討していく道筋です。この過程では、注意を保ち、途中の情報を頭の中に置いたまま、方針を切り替える力が重要になります。

一方のひらめき(insight)は、本人の感覚として「突然まとまった答えが見える」体験に近いものです。

「ひらめき」は偶然の魔法ではなく、意識の外側で連想や探索が進み、ある瞬間にまとまって意識に上がる現象として説明されます。

研究チームが注目したのは、ADHD症状の強さが、この二つの思考ルートの「使われやすさ」に関係し得る点でした。

ADHD傾向が高いほどひらめき解が増え、分析解が減るという傾向は、回答方法を区別せずに正解数だけ見た場合相殺されてしまい、関係が弱く見える場合があります。

それが、これまでの研究では結果がそろいにくかった理由の一端かもしれません。

「強み」の決め打ちを避けるために

この研究は「ADHDなら創造性が高い」と言い切るものではありません。

研究が扱ったのは主に大学生の参加者で、自己記入式尺度による症状の強さと、特定の言語パズル課題における解き方の関係です。

ひらめきか分析かの区別は参加者の自己報告に基づいています。

そのため、別の年齢層や診断を受けた集団、異なるタイプの創造的課題でも同じ傾向が見られるかは、今後の検討が必要です。

それでもこの研究は、ADHDを単なる「欠点」として語らないための具体的な手がかりを示しました。

最初に述べたスティーブ・ジョブズについても、彼は「市場調査」を行って分析することは意味がないとして、「直感(Intuition)」を重視していたと言われます。

また彼は、スタンフォード大学でスピーチした際、一見無関係だった経験(カリグラフィーの授業など)が、後になってマッキントッシュの開発につながったと話しています。

ジョブズが本当にADHDだったのかは不明ですが、こうした逸話は確かに今回の研究結果と一致しているように見えます。

研究者は今回の結果から「クリエイティブな分野においては、ADHDの特性が強力な利点になり得る」と指摘しています 。

そのためADHD傾向が高い人は、それを欠点と見なさずひらめきを活かせる職場を見つければ活躍の機会が得られるかも知れません。

しかし、現実社会では「素晴らしいアイデア」以上に「事務処理の正確さ」や「納期の遵守」といった遂行能力が求められる場面が多く、単にひらめきがあるだけでは評価されにくいのが実情です。

こうした研究が進むことで、社会が上手く能力に合わせて人材を活用できるようになれば良いですね。

元論文

ADHD symptom magnitude predicts creative problem-solving performance and insight versus analysis solving modes
https://doi.org/10.1016/j.paid.2026.113660

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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