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「本を読んできた脳」は、話し言葉を”聞く”能力が高い

  • 2026.2.12
本を読んできた脳は、「読む」だけでなく「聞く」能力も高める / Credit:Canva

多くの国では、「文字を読むこと」「本を読むこと」を小さな頃から教えられ、それが身についていきます。

学校の教科書を読み、物語を読み、説明文を読むことは、ごく自然な日常の一部です。

では、こうした「読む」教育や習慣によって、私たちの脳は実際にどのように変化しているのでしょうか。

この問いに正面から向き合ったのが、ブラジルのサンパウロ大学(USP)の研究チームです。

研究者たちは、文字を読む能力が、「話し言葉」を聞く場面でも脳の働き方を変えている可能性を調べました。

この研究成果は、2026年1月22日付の『Cortex』に掲載されています。

目次

  • 「本を読んできた脳」は、話し言葉を分析する能力が高い
  • 読字経験によって「話し言葉を聞く脳」へ変わっていく

「本を読んできた脳」は、話し言葉を分析する能力が高い

これまでの脳科学研究では、「読み書きを学ぶことで、文字を見るときの脳活動が変化する」ことがよく知られてきました。

特に左半球の言語関連領域が、文字に対して選択的に反応するようになることが報告されています。

しかし、研究者たちが注目したのは、もう一歩踏み込んだ点でした。

文字を読む経験は、文字が一切関与しない話し言葉の処理にも影響しているのではないか、という疑問です。

この問いを検証するため、研究チームはブラジル・サンパウロに住む高齢者と若年成人を対象に実験を行いました。

参加者は大きく三つのグループに分けられています。

一つ目は、幼少期に十分な学校教育を受けられず、文章を読んで理解することが難しい「機能的非識字」の高齢者です。

彼らは人生の後半になってようやく読み書きを学び始めたため、アルファベットや簡単な単語は知っていても、読書経験が乏しい人々でした。

二つ目は、子どもの頃から読み書きを学び、長年にわたって読書を続けてきた同年代の高学歴高齢者です。

三つ目は、比較対象として設定された若年の高学歴成人です。

実験では、参加者に物語の音声を聞かせ、あらかじめ指定された単語が聞こえたらボタンを押す課題を行いました。

音声は母語のポルトガル語と、参加者にとって意味が全く分からない日本語の二種類が用意されました。

加えて、単純な音だけを検出する基準課題も実施され、言語処理特有の活動を切り分けています。

重要なのは、日本語の条件では意味理解が不可能な点です。

この課題では、文の内容ではなく、音の連なりから特定の音声パターンを聞き取れるかどうかが問われます。

つまり、話し言葉を「意味」ではなく「音の構造」として処理できるかを調べているのです。

その結果、母語ではどのグループも比較的良好な成績を示しましたが、日本語条件では明確な差が現れました。

文章を読める参加者のほうが、意味の分からない言語でも特定の単語を見つけやすかったのです。

より詳細な違いは、脳画像データから明らかになりました。次項で確認しましょう。

読字経験によって「話し言葉を聞く脳」へ変わっていく

脳活動を調べるため、研究チームは機能的磁気共鳴画像法を用いました。

その結果、特に注目されたのが「右下前頭回」と呼ばれる領域です。

この部位は、左半球にある有名なブローカ野と対応する位置にあり、言語の処理が難しい状況でより強く働くとされています。

そして”意味の分からない日本語”を聞いているとき、幼少期から読み書きを学んできた参加者では、この右下前頭回が強く活動していました。

一方で、機能的非識字の高齢者では、この領域の活動がほとんど見られませんでした。

つまり、意味が頼れない状況で音声を細かく分析する際、読字経験のある人は右半球の言語関連ネットワークを動員できるのに対し、その経験が乏しい人では同じ処理が行われにくかったのです。

また、年齢という観点では、読み書きができる高齢者は、同じく高学歴の若年成人と比べて、感覚運動ネットワークをより広く使っていることも分かりました。

これは、高齢者が長年の経験を生かして、音の聞き取りに関わるさまざまな脳領域を総動員している可能性を示しています。

研究者たちは、この違いが、長年の読字教育によって育ってきた能力と関係している可能性を指摘しています。

読むことを学ぶ過程では、言葉を音の単位に分解して意識的に扱う「音韻認識」という能力が育まれます。

この能力は日常会話ではあまり意識されませんが、意味が頼れない状況や認知的負荷が高い場面では重要な役割を果たします。

本研究は、読字が単に文字を理解するための技術ではなく、話し言葉そのものを分析的に処理する脳の回路を形づくっていることを示しています。

その影響は高齢期になっても残り、聞き取りが難しい状況での言語処理を支えている可能性があります。

今後は、こうした音の聞き取り能力や脳の使い方が、高齢期の脳機能の保ちやすさとどのように関係しているのかを、さらに詳しく調べていくことが期待されます。

本を読むという行為は、特に目立たない普通の習慣に思えることでしょう。

しかし、その積み重ねが、「言葉を聞く脳」を形づくっているのかもしれません。

参考文献

The brain on books: How reading reshapes language processing
https://medicalxpress.com/news/2026-02-brain-reshapes-language.html

The brain on books: Baycrest study reveals how reading reshapes language processing
https://www.eurekalert.org/news-releases/1115847

元論文

Literacy modulates engagement of the right inferior frontal gyrus in phonological processing of spoken language
https://doi.org/10.1016/j.cortex.2025.12.007

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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