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【BTS連載vol.3 SUGA】アーティスト兼ヒットメーカー。SUGA/Agust Dが音楽に託す物語

  • 2026.2.21
<strong>SUGA(シュガ)/1993年3月9日生まれ、韓国・大邱出身</strong> Kevork Djansezian / Getty Images

2022年6月に活動休止を発表してから約4年、2026年3月20日リリースの5thアルバム『ARIRANG』でBTSがついに再始動を果たす。4月からはソウルを皮切りに世界23ヶ国・地域を巡る大規模ワールドツアーを控え、7人揃った“完全体”の復活を世界が心待ちにしている。

これに合わせ、オフィシャルブックの翻訳も手掛けた“BTSのプロ”桑畑優香さんが、全7回の特別連載でメンバーの魅力を紐解いていく。第3回は、RMとともにBTSの音楽の中核を担うSUGA。別名義Agust D、プロデューサーSUGAとしての一面から世界を惹きつけるツンデレなキャラクターまで、彼の“沼的”魅力を掘り下げる。

上京してRMと意気投合。BTS、Agust D、プロデューサーとしての顔

BTSの音楽において、RMと絶妙なコントラストをなす、もうひとりの核心的メンバー、SUGA。青春の惑いと成長を描くBTSのストーリーテリング。その骨格を支えているのが、ソングライターとしての設計力と、ラッパーとしての鋭利な言葉だ。

左からJung Kook、RM、SUGA。 Frazer Harrison / Getty Images

原点は故郷・大邱。11〜12歳の頃、STONYSKUNKの「Ragga Muffin」をテレビで偶然目にし、レゲエとヒップホップが交差する自由な音楽に心を奪われた。(Apple Music「SUGA|Agust D RADIO」EP.1より)。EPIK HIGHやDynamic Duo、Drunken Tigerらに影響を受け、高校時代にはスタジオで作曲やエンジニア業務まで経験。ソウル上京後、RMと意気投合し、初期から曲作りの軸を担うようになった。

象徴的なのが「Tomorrow」(2014)。未来への不安をすくい上げ、「日が昇る前の夜明けが一番暗い」と歌うその姿勢は、BTSの音楽が持つ切実さの源流でもある。

一方、別名義Agust Dでは、より個人的で鋭い物語を描く。このペルソナを通じて、彼はミン・ユンギという個人の物語を、より荒々しく、より複雑にあぶり出す。初期作「Agust D」(2016)では、アイドルとしての葛藤や対抗心を鋭利なラップに変え、「The Last」(2016)では、隠れた弱さに対する自己嫌悪まで言葉にする。自身のメンタルヘルスについてのストレートな告白は、リスナーが心を寄せるきっかけにもなった。

成功したラッパーとしての視点や社会に対する問いかけなどを表現した『D-2』(2020)を経て、三部作の完結編『D-DAY』(2023)で、彼はついに“解放”へとたどり着く。韓国の伝統楽器を取り入れた「Haegeum」は、固定概念からの自由を問いかけた。

もうひとつの顔が、外部プロデューサーだ。IUの「eight(Prod.&Feat. SUGA of BTS)」(2020)やPSYの「That That」(2022)。多くのヒット曲を手がけてきたSUGAが外部アーティストに提供する曲は、メロディアスで華やか。本人は、「外部作業では徹底して商業的な音楽を作る」と明言している。自己表現としてのAgust Dと、依頼主の成功を優先するプロデューサーSUGA。その両立こそが、彼を唯一無二の存在にしている。

アーティストとしての軌跡を詰め込んだソロワールドツアー

JINが入隊し、BTSがソロ活動期に移行する中、ワールドツアーの先陣を切ったのがSUGAだった。2023年にアジアと北米10都市28公演が開催された『SUGA | Agust D TOUR 'D-DAY'』で見せつけたのは、巨大なアリーナをたった一人で掌握するパワーと構成力。「Haegeum」で幕を開け、たたみかける高速ラップ。中盤では一転して、BTSメンバーのサインとメッセージが書かれたアコースティックギターを手にし、「Trivia 轉 : Seesaw」を弾き語る姿も。怒りを抱えて走り抜けた過去から、『D-DAY』で辿り着いた境地までを一本の線で提示する構成は、SUGAというアーティストの軌跡そのものだった。

Courtesy of X @bts_bighit

さらに、その音楽的アイデンティティを裏側から照らしたのが、ドキュメンタリー『SUGA: Road to D-DAY』だ。冒頭で「語りたかったことがいっぱいあったのに、たくさんの夢を叶えてしまったから忘れてしまったのか。それが悲しい」と明かすSUGA。カメラが捉えたのは、旅先でスティーヴ・アオキやホールジーとの対話を通じて制作への思いを取り戻していく過程。なかでも幼い頃に故郷の大邱で映画『ラストエンペラー』を観て以来憧れていたという坂本龍一との邂逅、そして「Snooze (feat. Ryuichi Sakamoto, WOOSUNG of The Rose)」へと続く物語は、ステージの説得力をさらに高めた。

愛称は“ミンシェフ”。世界を惹きつけるツンデレなキャラクター

SUGAという人物を語る上で欠かせないのが、一見ぶっきらぼうでクールな「塩」と愛らしい「砂糖(シュガー)」が絶妙に混ざり合う、ユニークなキャラクターだ。

「BEYOND THE STORY ビヨンド・ザ・ストーリー:10-YEAR RECORD OF BTS」では、練習生時代に生きるためだけに鶏肉とバナナをミキサーにかけて飲み干すという、効率重視で大胆な一面があったことをJINが暴露。

Johnny Nunez / Getty Images

しかし、その無機質な態度の裏には、繊細で温かな配慮も。同書でジミンが「話し方はぶっきらぼうだけど、(練習生時代に)僕のところに来て『君が努力して本当にうまくいくことを願っている』と言ってくれて」と明かすように、SUGAは背中で語るタイプ。その包容力は、料理の場面でも発揮される。実は料理は得意分野で、『In the SOOP』では、メンバーのために手際よくヒレカツサンドやテンジャンチゲを作って振る舞い、年下メンバーが美味しそうに食べる姿を満足げに見守ったことも。迷いのない包丁さばきでフォローに回る姿は、ファンたちから「ミンシェフ」と呼ばれている。

何より彼の情の深さを象徴するのが、2018年のグループの危機を救ったエピソードだ。バーンアウト(燃え尽き症候群)に苦しむVとJUNG KOOKに対し、SUGAは「愛してる」と長文のメールを送った。後に彼は、「シュチタ」EP.18で、「Tear」は、実はつらい思いをしているメンバーを想って書いた曲だったと告白している。普段は照れ屋な彼が、仲間のために絞り出した「愛してる」の言葉は、BTSという家族の絆を再び結び直す決定打となった。

そんな甘辛でツンデレなSUGAを、ファンは親愛を込めて「猫」に例える。兵役を経て久々に姿を見せた配信では、新たに迎えた黒猫の「タン(韓国語で「砂糖」の意味)」を膝に乗せて「すごくかわいいでしょ」「この子ふみふみマシンなんです。お腹や脇をふみふみします」と、約25分間も愛猫トークを展開。旧正月にも、SNSにカメラ目線のタンの写真をシェアし、ファンを悶絶させている。

鋭い刃のようなラッパー、冷静なプロデューサー、そして愛猫を慈しむ優しい青年。この多層的な“ツンデレ”こそが、世界中の人々がSUGAに惹きつけられる理由かもしれない。

「次に日本で公演をするときは、7人でやります」音楽の外側へも向けられた視点

BTSが再びグループとしての歩みを本格化させる中、SUGAの視線は音楽の外側へも向けられている。キーワードは「心理学」だ。「BEYOND THE STORY ビヨンド・ザ・ストーリー:10-YEAR RECORD OF BTS」のインタビューでは、心理学を学んでいると明かし、こう語っている。「理由は、音楽にとても役立つからです。感情というものに対する定義を学んで得たものも多いです。(中略)夢は相談心理士の資格を取ることです。僕たちと同じような仕事をしている、後輩たちの役に立ちたくて」

その精神は、具体的な行動としても現れている。2025年にはソウルのセブランス病院に50億ウォンの寄付を行い、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちのための「ミン・ユンギ療育センター」を設立。自らの成功を社会へ還元する姿勢は、彼が単なるスターではなく、次世代の未来を設計するリーダーの一人であることを証明している。

Marc Piasecki / Getty Images

「次に日本で公演をするときは、7人でやります」

かつてソロツアーのステージで誓った約束を果たす日は、もうすぐ。ソロアーティストとして、プロデューサーとして、そしてBTSの一員として。2026年、ミン・ユンギの物語は、次のフェーズへと進んでいる。

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