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服が紡ぐ自由と個性の物語。2026春夏パリ・ファッションウィークリポート【後編】

  • 2026.2.21
Hearst Owned

世界の見え方や個の表現があらためて問いかけられ、実験的なムードが漂っていたパリ・ファッションウィーク後半。労働や自然、宇宙、女性らしさ、匿名性、旅――多彩なテーマを映すルックがランウェイを彩った。伝統的なテーラリングや職人技も現代的な視点で再解釈され、素材や装飾、シルエットが自由な個性を解き放った。

Victor VIRGILE / Getty Images

観客を巻き込む演出が服の存在感を際立たせ、構築美と詩情、伝統と革新が交錯するランウェイは、“今を生きる感覚”を映し出す舞台に。後編では、そんな感性と創造が響き合った10ブランドのコレクションを振り返る。

ミュウミュウ(MIU MIU)

イエナ宮の多柱式広間で披露された「ミュウミュウ」2026春夏コレクションのテーマは、「AT WORK(働くということ)」。もともと“働く場所”でもあるその空間にカラフルなフォルミカテーブルを並べ、オフィスと家庭が溶け合うような風景を立ち上げた。ケアや家事、肉体労働から専門職まで、これまで十分に評価されてこなかったあらゆる労働を「尊く、称えられるべきもの」として捉え直す視点が、コレクション全体に通底する。労働とは努力のかたちであり、思いやりや愛情の象徴であり、同時に主体性と独立性の表明でもある――そのメッセージは、服のディテールやムードに丁寧に落とし込まれていた。

LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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その象徴としてランウェイに繰り返し登場したのがエプロンだ。さまざまな労働の現場と結びついてきたこのアイテムを、「ミュウミュウ」は気品を帯びた新たなアイコンに再構築。作業用ドリル生地やレザー、コットンポプリンといった産業的なマテリアルにフリルや装飾を重ね、実用性と装飾性、強さと優しさが同時に息づくルックへと昇華させた。

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ドロシア・ラングやヘルガ・パリの写真が描く「働く身体」のリアリティを背景に、しなやかで丈夫なレザーのバッグやシューズが、ユーティリティと美しさを兼ね備える。社会が押しつけてきた女性らしさのイメージへの問いを内包し、フリルさえも“甘さ”ではなく“強さ”の記号に転換した「ミュウミュウ」。日常のユニフォームを通して、働くという行為そのものの尊さと美しさをあらためて問い直すショーとなった。

ジバンシィ(GIVENCHY)

サラ・バートンによる2シーズン目となる「ジバンシィ」。気高い美しさを保ちながら、芸術とリアルの合間を縫うような女性らしいワードローブを届ける。今季、テーマに掲げたのは「パワフルなフェミニニティ」。「私は、フェミニンなアーキタイプを通して、女性の強さを探求したいと考えました。その出発点は、テーラリングの構造を解きほぐし、肌をのぞかせることで生まれる軽やかさと解放感を引き出すこと。そこからさらに、“着ること”と“脱ぐこと”という女性ならではの語彙(ごい)をたどりながら、現代のフェミニニティを再解釈していったのです」とサラ・バートンは語る。

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ファーストルックから始まり、ミニマルなテーラード、ボディースーツいったシャープなカッティングやパターンが際立つルックが立て続く。構築と脱構築を繰り返しながら、肌を見せたり、誇張させたり、タイトに沿わせたりして、テーラードの域を広げる。後半にかけては、創業者ユベール・ド・ジバンシィが好んだというアバランチローズからインスパイアされたシューズや、サラ・バートンが庭で育てていたひまわりの成長過程を落とし込んだプリントなど、花々がシックな姿になってアクセントに差し込まれる。

GIVENCHY

トレンチコートはよりドレッシーに、シャツはパターンを極め、オールレザーで展開されるなど不変的なアイテムに至極のクラフトマンシップを盛り込んだ。しなやかさと強さが共存する、凜(りん)とした女性像はまさにサラ・バートンらしさでもあり、銀幕から街角までのあらゆる女性の本来の姿を引き立てる「ジバンシィ」の在り方そのもの。アーカイブの要素を引用した新作バッグが親密なメッセージと共にコレクションを盛り上げて。

クロエ(CHLOÉ)

ユネスコ内に構えた会議室でショーを行った「クロエ」。ブランドにとっての“クチュール”という概念を新たに見つめ直す。「クチュールは大好きだが、コンセプトは時代遅れ。美しく、質の高いものは女性みんなが身に着けられるべき」という考えのもと、ブランドを設立した「クロエ」の創業者、ギャビー・アギョンが避けていたクチュールにあえてフォーカス。丁寧な手仕事が支えるワードローブはそのままに、クラフトの要素を維持しながら“アントル・ドゥ”(クチュールとプレタポルテの中間)を探る。

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春夏らしい鮮やかな色にあふれるコレクションは、楽観的で軽やか。ファーストルックから繰り返し登場する印象的な花柄は、1950年代と1960年代のアーカイブのフローラルプリントを再描画したものだという。ドレープが作り出すフォルムやボリュームが華やかさを放ちながら、プリーツやノット、ラッピングがアクセントに。色鮮やかなフローラルプリントが、さまざまな技法で表情豊かに花を咲かせる。

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水着やランジェリーをロマンチックを混ぜ込み、ニットはカラーレースとのコンビネーションで鮮やかなコントラストを見せる。風になびくアウター類は、構築的なパターンを軽やかな素材で仕立て、春風をはらみながらさっそうと駆け抜ける。「クロエ」の文脈でクチュールを制作するならどうなるのか? ブランドの定義を広げ、未知の領域へ踏み出しながらも、そのワードローブは知的で軽快な“クロエ・ウーマン”そのもの。

メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)

「メゾン マルジェラ」が今季描いたのは、アーカイブと日常を結び直す「現実的な非現実」。会場には7歳から15歳の若き音楽家によるオーケストラの生演奏が響き、未完成ゆえのみずみずしさを帯びた音色が、緊張感と親密さを同時に生み出した。モデルたちは4本の“白いステッチ”を想起させるマウスピースで口もとを覆い、個々のパーソナリティを超越し、共有された均一性によって、メゾンが追求してきた匿名性の美学をより鮮明に浮かび上がらせた。

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ショーはタキシードベストの前身頃を再構築したカットアウェイで幕を開け、立体的なショルダーや腰ひものディテールによってテーラリングを再定義。マルタン・マルジェラへの敬意を感じさせるデザインをリファレンスとし、今の視点で改めて提案する。股上を深く取ったパンツが縦のシルエットを強調し、その構造はデニムへと波及。クラシックな仕立てと現代的なバランスがせめぎ合いながら、ウエア全体に緊張のリズムが刻まれた。

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はがれかけたフラワー壁紙を思わせるモチーフは、16世紀から17世紀のペインティングから引用。型押しニットやシルクドレスに落とし込まれ、ドレープに沿って揺れるプリントがシワさえも意匠の一部へと昇華する。シルクスカーフをジャケットやコートに組み込んだ“パーマネントイブニング”は、装飾と構造の境界を溶かす試み。オペラを訪れる際のエレガントな装いを、グレン・マーティンスが独自の視点で解釈している。縫い留め、固定し、服と一体化させるというアプローチを反復しながら、その積み重ねが今季の美学を雄弁に物語っていた。マルタン・マルジェラの実験的プロセスを踏襲しながら、高度な技法をウェアラブルに落とし込む。グレン・マーティンスの次なる手腕がさえる、「メゾン マルジェラ」の新章が刻まれる。

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マックイーン(McQUEEN)

「私たちは自然にあらがい、本能を抑え、秩序の名のもとに生きている。では、もしそれを手放し、心の奥にある欲望や衝動に従ったら、何が起こるのか?」――その問いを軸に「マックイーン」は、秩序と衝動、生と本能のあいだで揺れ動く人間の心理をあぶり出した。映画『ウィッカーマン』(1973)に着想を得たランウェイは、その内面の揺らぎを視覚化するように原初的な衝動の解放を描き出し、自然に身を委ねるスリルと緊張が会場を満たした。

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ジャケットやシャツは立体的に再構築され、ローライズのスカートやパンツが身体の輪郭に沿いながら自由な動きを生む。とりわけ目を引いたのはナポレオンジャケットの復活だ。引き締まったウエストと立体的な肩が、「マックイーン」ならではの鋭利なテーラリングを際立たせる。昆虫や炎を抽象化したプリントはシルクガウンやシフォンに配され、身体の動きとともに潜在意識に潜む欲望を映し出す。

McQueen
McQueen

バッグはアーカイブ“デ・マンタ”を再解釈した幾何学的なシルエットに、マザーオブパールや手彫りのタリスマンを組み合わせた。ジュエリーにはウィッシュボーンといった自然由来のモチーフを配し、服の世界観にさらなる奥行きを与える。ランウェイは、人間の本能と欲望がむき出しになる官能的な物語として幕を閉じた。

サカイ(SACAI)

パリの新オフィスでお披露目された「サカイ」。さらに「サカイ」らしさを極め、モダンに進化させた2026年春夏コレクションのテーマは「Coming home」。

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ブランドを象徴するドッキングはさらに大胆かつ細やかにルックに織り込まれ、過去と未来をつなぐ「サカイ」のアイデンティティーとして確固たる存在感を放つ。Tシャツ、シャツ、カットソー、テーラード、トレンチコートやボトムといったあらゆるアイテムが編集され、独自の個性を放つ一方で、濃密な手仕事を感じさせるニットウエアはクチュールのアプローチがさえ、ブランドらしいを物語る進化の象徴として君臨。また、ボトムの広がる裾を上に折り返し、ドレスのように仕立てるルックが多数登場し、コレクションの核を担う存在感を放っていた。

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強いアイデンティティーを放ちながら、着実に進化する「サカイ」の真骨頂。着る人のスタイルを拡張し、個性を形づくるワードローブは、“らしさ”に満ちながらも挑戦心にあふれている。

トム ブラウン(THOM BROWNE)

「トム ブラウン」は“地球を訪れた外星人”というコンセプトのもと、伝統とシュルレアリスムを衝突させるランウェイで再び既成概念を揺さぶった。会場を占めるのは、「We come in peace(私たちは平和のためにやって来た)」の文字とUFOのビジュアル。緑色のクリスタルの巨大ヘッドピースをかぶった“マーシャン”が姿を現したその瞬間、ランウェイは現実と虚構の境界をかき乱した。

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ショルダーが誇張されたブレザー、フリンジをあしらったロングコート、ドロップウエストのプリーツスカート。テーラリングは伝統の枠を超えて再構築され、プロポーションを大胆にずらすことで身体に新たなリズムを生み出す。シグネチャースーツには追加の腕や脚穴が加えられ、まるで異星生命体かのようなフォルムがランウェイを漂った。

Justin Shin / Getty Images

パッチワークのユニフォームやメタリックに輝くドレス、ゆがんだテニスルックへと展開し、ショーは奇妙で愛らしい“宇宙旅行”の趣を帯びる。「トム ブラウン」は、実験精神と高度な職人技を両立させながら、現実の輪郭をずらすことの快楽をあらためて提示した。

コム デ ギャルソン(COMME DES GARÇONS)

スペインのアーティスト、ファティマ・ミランダの歌声をバックに、全24体のルックを発表した「コム デ ギャルソン」。毎度観客を圧倒するショーは、コレクションの内容もほとんどが受け手にゆだねられるが、表現活動における強い覚悟と追求を垣間見る瞬間は、パリ・ファッションウィークの中でも稀有なもの。

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コットンやリネンなどの素材で完成させた服にあえてダメージを与えることで新たな表現を生み出した。その造形はどれも力強く、「衣服」という枠組みを超えたメッセージを投げかける。

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日爪ノブキ手掛ける「ヒヅメ」の帽子が今季もさまざまに登場し、ルックが語りかける言葉の一つとして独創的な存在感を放つ。

クリスチャン ルブタン(CHRISTIAN LOUBOUTIN)

年に一度、パリ・ファッションウィークで新作プレゼンテーションを行う「クリスチャン ルブタン」。そのスペクタクルな演出は毎度圧巻で、パリコレ中の一大エンタメとしても毎度話題に上る。今季もアーティスティック・ディレクターのデヴィッド・ラシャペル、振付師のブランカ・リーとタッグを組み、スタジアムを舞台にアメリカの秋の伝統、ホームカミングゲームのコミュニティーを着想源にした。

Christian Louboutin

5つのシーンからなるショーは、パリ消防音楽隊のマーチングバンドやチアリーディングチームをはじめ、多彩なダンサーやパフォーマーがめくるめく物語のキーに。ランスのシンガー、ミロ・トレトンのパフォーマンスをバックに白熱の試合が繰り広げられ、その足元はエッジィな新作シューズが輝く。

Christian Louboutin

ショー終盤にはクリスチャン・ルブタンのクリエイティブ人生を象徴するアートピースのひとつ、“バレリーナ・ウルティマ”がシンボルに。バレリーナがトウシューズでまっすぐつま先立ちする姿勢にインスパイアされたデザインは、“カッシア”ラインとしてフルコレクションになって登場。レッグウォーマーが一体化したような“カッシア・アンマック”のほか、メンズの“カッシア”ラインとして初のデザインとして“ルーベン”が登場。しなやかで魅惑的なバレエのコアを踏襲しながらも、芸術的な意匠と見る人を惹きつけるオーラをまとった、新星シューズのお披露目となった。

ポロ ラルフ ローレン(POLO RALPH LAUREN)

パリ中心部の光あふれるアパルトマンで発表された2026春夏コレクションは、ローレン夫妻がバカンスで訪れたジャマイカからインスピレーションを得ている。ジャマイカは、ブランドの特色である活気あふれるエネルギー、自然の美しさ、そして洗練された気楽さが形になった場所。そんなジャマイカの空気をまとった今季のラインナップは、旅人のスピリットに伝統と冒険心を重ね、クラシックでありながら自由奔放なスタイルビジョンを描き出す。

Polo Ralph Lauren
Polo Ralph Lauren

今シーズンは、ニュートラルトーンを基調に、ジャマイカの楽観的なスピリットを映すビビッドカラーを差し込んだスタイリングが印象的。控えめなタキシード風ディテールにプロポーションや質感、レイヤリングの遊びを重ねることで、ルックにモダンな表情が生まれた。新しいバランスで解釈したトレンチコートやダブルブレストジャケットに、大胆なカラーや柄をのせたセーター、リネンシャツ、ショートパンツなどを組み合わせ、エフォートレスで都会的なルックを打ち出した。

Polo Ralph Lauren

バッグは、ラフィア、畝織コットン、ビーズ、手編みレザーが今シーズンのシグネチャーテクスチャーに。なかでも“ポロ プレイ”には新作のショルダーバッグとメッセンジャーバッグが仲間入りし、旅の高揚感とデイリーな実用性を軽やかに結びつけている。気取らず、洗練されていて、冒険心がありながらも地に足がついている――どこにいても自分のスタイルを手放さない、そんな「ポロ ラルフ ローレン」の女性像を確かに体現するコレクションとなった。

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