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ハトの脳をハックする「生きたドローン」計画がロシアで進行中

  • 2026.2.20
ハトのドローン化。イメージ / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

ドローン技術はどんどん向上していますが、未だ本物の鳥には及びません。

「であれば、本物の鳥を活用しよう」

そんな発想を現実にしようとしているのが、モスクワとドバイに拠点を置く神経技術企業のNeiry Groupです。

同社はハトの脳に神経インターフェースを埋め込み、飛行方向を誘導する「生きたドローン(バイオドローン)」の実地試験を始めたとプレスリリースで明らかにしました。

目次

  • ハトを“生体ドローン”として使う仕組み
  • ハトのドローン化は技術的に可能?倫理的には?

ハトを“生体ドローン”として使う仕組み

Neiryの説明によると、同社はハトの頭蓋骨に微小な電極を通し、脳の特定の領域に軽い電気刺激を与える装置を取り付けています。(※画像はこちら。プレスリリース)

さらに背中には小さなバックパック型ユニットを装着し、その中にコントローラーや小型カメラ、ソーラーパネルを組み込んでいます。

制御の仕組みは、ラジコンのように直接「右へ行け」「左へ行け」と操縦するわけではありません。

電気刺激によってハトに「左へ曲がりたい」「右へ向かいたい」といった“気持ち”を起こし、その結果としてあらかじめ設定されたルートに沿って飛行させるという形です。

企業側は、「刺激がないときには鳥は自然に行動し、普段通りの暮らしをしている」と説明しています。

では、なぜわざわざハトを使うのでしょうか。

機械式ドローンには、バッテリーの残量や重量制限、悪天候への弱さなど、さまざまな物理的な制約があります。

一方でハトはもともと高い飛行能力を持ち、1日に最大で数百キロメートル飛べるとされています。

エネルギーはエサを食べることで自然に補給され、ソーラーパネルで機器側の電力も補助できます。

頻繁なバッテリー交換や着陸がいらない“長距離プラットフォーム”として期待されているのです。

さらに、ハトは都市部でも当たり前に見かける存在です。

プロペラ音を出す金属製のドローンと比べると、空を飛ぶハト1羽が目立つことはほとんどありません。

この「紛れ込みやすさ」も、インフラ点検や環境観測、海岸線の監視、遠隔地のモニタリング、捜索救助支援などに応用しやすいとされています。

「カメラで撮影する際には、個人を識別できるような細かい情報は機器内でフィルタリングし、各国のプライバシー規制に従う」と会社は説明しています。

NeiryはロシアやCIS諸国で限定的な飛行試験を行い、飛べる距離や飛行の安定性、データ伝送の状態などを確認していると主張。

企業側は、「このシステムはすでに実用段階に達しており、ブラジルやインドのように広大で監視ニーズの大きい地域での活用に可能性がある」とアピールしています。

では、私たちは企業の言葉をそのまま受け入れるべきでしょうか。

ハトのドローン化は技術的に可能?倫理的には?

とはいえ、この技術がどこまで科学的に確立されているのかについては、慎重な見方が必要です。

鳥の脳を電気刺激して行動を誘導する研究自体は、国際的な学術研究として以前から行われてきました。

ただ、多くは実験室レベルの試験であり、長期間・広範囲で実運用するプラットフォームとして確立した例は限られています。

Neiryの取り組みについても、今回参照した報道や同社の発表の範囲では、具体的な査読付き論文や詳細なデータは示されていません。

また、外部の独立機関がどこまで検証しているのかについても情報は限られています。

つまり、企業の発表は技術的な可能性を示すものではあるものの、第三者による裏付けはまだ十分とは言えない段階です。

社会の反応も賛否が分かれています。

批判の中心にあるのは、動物の自律性をどこまで侵害してよいのかという点です。

人間が犬や馬を訓練して指示に従わせることと、電極によって「そちらへ行きたい」という気持ちを脳内に直接作り出すことは同じなのか、という疑問です。

企業は社内のバイオエシシストと協議し、問題はないと判断しているとしていますが、外部の倫理学者からは「生き物を道具のように扱っているのではないか」という懸念も出ています。

また、軍事や監視への転用可能性も無視できません。

ハトは都市環境に溶け込みやすく、金属製ドローンよりも気づかれにくいと指摘されています。

企業は管路や送電線などインフラの点検、環境モニタリングといった民生利用を目的としていると強調していますが、カメラを載せた飛行体が持つ二面性に不安を覚える人も少なくありません。

さらに、Neiryの経営陣は、長期的には生体の脳と人工知能を組み合わせて人間の能力を高める構想にも言及しています。

これは、人間の身体や脳をテクノロジーで拡張しようとする考え方とつながっており、ハトや牛を使った実験はその入り口にすぎないという位置づけです。

このような方向性は、技術的な期待と同時に、「どこまで許されるのか」という問いも投げかけています。

今後の焦点は、この仕組みが本当に安全で、同じ条件で何度も安定して動作することを第三者が確かめられるかどうか、そして社会としてどの範囲まで許容するのかを議論できるかどうかにあります。

生きた鳥をドローンとして使うという発想は、技術の可能性と倫理の境界線を私たちに突きつけています。

空を飛ぶハトが、ただの街の風景であり続けるのか、それとも新しい監視と拡張の時代の象徴になるのかは、これからの検証と議論にかかっているのかもしれません。

参考文献

Company Claims To Have Created “Bio-Drones” After Fitting Pigeon With Brain-Zapping Chip And A Camera
https://www.iflscience.com/company-claims-to-have-created-bio-drones-after-fitting-pigeon-with-brain-zapping-chip-and-a-camera-82536

Neiry announces early testing of bio-drones
https://neiry.ru/en/news/a4it4ohtf1-neiry-announces-early-testing-of-bio-dro

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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