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時計とスタイル:編集者・安藤夏樹のケーススタディ

  • 2026.2.12
〈ショーメ〉「10A」、〈ゾディアック〉「アストログラフィック」のメカデジタイプ、70年代の〈ランバン〉の時計、〈オメガ〉「スピードソニック」

資産的価値ではなく文化的価値。誰も探すことのない一本を求めて

ウィルヘルム・キンツレの工具箱や、棚の上にあるジョージ・ナカシマのメイクボックスに、みっちり詰め込まれた腕時計。持ち主は、編集者の安藤夏樹さん。

以前は、引き出しの中にごちゃっと収納していたが「火事になったときなんかに、一つでも多く持って逃げられるように」と、現在は持ち運びしやすい箱に収納している。時計に興味を持ち35年、売っては買ってを繰り返し、現在は約200本ものコレクションを所有している。

編集者の安藤夏樹さんがコレクションする時計。
編集者の安藤夏樹さんは、時計をジョージ・ナカシマのメイクボックスに収納。右側の大きな仕切りにはF.P.ジュルヌが企画に関わった〈ショーメ〉「10A」(右上)、70年代の〈ゾディアック〉「アストログラフィック」のメカデジタイプ(右下)。赤いベルトは〈イエマ〉(左下)。左側3つの小枠の一番手前には70年代の超稀少な〈ランバン〉が2本と〈オメガ〉「スピードソニック」。

安藤さんの腕時計人生は、中学時代に買った〈カシオ〉の「フォーンダイアラー」から始まった。時計から鳴るプッシュ音を電話のマイクにかざすと相手につながるというものだった。

そこからテレビが付いたもの、音声を録音できるもの、いびきを感知すると電流が流れるものなど、ガジェット系の腕時計を集めるように。

中でも映画『エイリアン2』でシガニー・ウィーバーが着用していたことでも知られる〈セイコー〉のジウジアーロデザインは、すべてコンプリートしたという。ほかにも『007』や『ゴーストバスターズ』に出てくる時計の未来の道具感に惹かれ、熱心に集めていた。

〈IWC〉の「ダ・ヴィンチ」
玄関脇のトレーの中央にあるのは、特に稀少だという70年代の電池式〈IWC〉「ダ・ヴィンチ」。
三原昌平の時計作品、加藤孝志の時計作品
棚の奥にある脚の長い水色の置き時計は、ジャパニーズポストモダンのデザイナー三原昌平のプロダクト。ボーダー柄の時計は同じく80年代に活躍した加藤孝志の作品。

安藤さんの信条は「腕時計に貴賤なし」。資産価値のあるなしにかかわらず、自分自身が価値があると思えるものだけを所有している。たとえ、それが世間的にまったく知られていないモデルでも。ゆえに稀少価値のあるヴィンテージの腕時計よりも、よほど入手困難なモノも多くあり、20年以上も探し続け入手したモデルも中にはあったりする。

今、最も関心があるのはヴィンテージのドレスウォッチ。まだ見ぬものがたくさん眠っており、蒐集欲(しゅうしゅうよく)をかき立てている。

「貴金属や宝石が使われていることが多く、ゴールドを彫金していたり、虎目石やラピスラズリを文字盤に使っていたりするものもあります。ずっと見向きもされていなかった分野ですが、知れば知るほど面白いです。〈ピアジェ〉や〈パテック フィリップ〉のヴィンテージも、最近は気になってますね」

〈ハミルトン〉の「クロノマチック フォンテーヌブロー」、〈セイコー〉の「サーミック」
〈ビソオ〉のビニール袋に入れ、ウィルヘルム・キンツレの箱に収納。手前左は〈ハミルトン〉の「クロノマチック フォンテーヌブロー」、右は温度差で発電する〈セイコー〉「サーミック」。
編集者・安藤夏樹
この日選んだのは〈カルティエ〉「ゴンドーロ」。

膨大なコレクションをどう使い分けるかは、その日に誰と会うかによって決めるという。

「腕時計は、コミュニケーションツールの一つでもあると思っていて。特に初めて会う人のときは、変な時計をしていくことが多いです」

編集者である安藤さんは取材も多く、初対面は日常茶飯事。そんなときにこそ、とびきり変わった時計を着けて、それを会話の糸口にいい取材ができたことも数え切れない。

「突飛なファッションでもいいかもしれないですけど、それよりも変な時計をしていく方が、勇気が少なくて済むんです。お堅い人への取材であっても、派手な服だと怒られるかもしれないけど、時計ならおかしなものでも怒られないでしょ?」

山本多助、北海道・八雲の増田きよたか作の木彫りの熊
棚の上には、アイヌ文化を代表する山本多助、北海道・八雲の増田きよたか作の木彫りの熊が鎮座。中央に写るのは〈セイコー〉のムーブメントが使用されている時計付きの木彫り熊。
書籍『バーゼル時計年鑑1997』、『WATCH』
安藤さんが資料にする2冊。左は1972年から97年までにバーゼルフェアで発表されたモデルが載る『バーゼル時計年鑑1997』。右は、珍しいデザインを集めた、コレクターにとってバイブルのような一冊『WATCH』。
坂巻弓華の絵が目を引く安藤夏樹さんの事務所の一角
自身のレーベルで本を制作するほど親交のある画家・坂巻弓華の絵が目を引く事務所の一角。千葉県で明治時代から続いた佐原張子のお面や、陶器で作られた〈ハワードミラー〉のクロックなども飾られる。手前には、鎌倉時代の珠洲焼(すずやき)や内田鋼一の瓶子、数々の名作を生み出した倉俣史朗のテラゾー(人工大理石)などが並ぶ。奥に見えるのは、木彫り熊や招き猫のコレクション。

profile

安藤夏樹(編集者)

あんどう・なつき/〈プレコグ・スタヂオ〉の代表。書籍の出版やギャラリー運営を行う傍ら、北海道・八雲の木彫り熊を広める〈東京903会〉を主宰。26年1月には伊勢丹新宿店 本館「ザ・ステージ」でイベントを開催。

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