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カンヌ国際映画祭グランプリ受賞『センチメンタル・バリュー』はじめ、今月の注目作4選。

  • 2026.2.1

第78回カンヌ国際映画祭で19分間に及ぶスタンディングオベーションで会場を沸かせ、堂々のグランプリ受賞。世界が唸った家族ドラマ『センチメンタル・バリュー』はじめ、エドガー・ライト監督による30日間の"イカれた鬼ごっこ"の大逆転劇『ランニング・マン』、新しいミュージカル映画『両親が決めたこと』、そして、元特殊部隊員がイラク戦争での実体験を極限まで再現し話題となった『ウォーフェア 戦地最前線』。話題作が続々公開の今期、ぜひ劇場で鑑賞してみては?

01.『センチメンタル・バリュー』

文:五所純子作家・文筆家

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父娘の確執と再出発の物語が主旋律なら、合わせ鏡のような姉妹の関係など幾重もの副旋律が響きに厚みをもたらす。ノーラの少女期の作文が生家の"生い立ち"を擬人化して案内する冒頭から出色な家族の交響詩。カンヌ国際映画祭グランプリ受賞。©2025 MER FILM / EYE EYE PICTURES / LUMEN / MK PRODUCTIONS / ZENTROPA ENTERTAINMENTS5 APS / ZENTROPA SWEDEN AB / KOMPLIZEN FILM / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / ARTE FRANCE CINÉMA / FILM I VÄST / OSLO FILM FUND / MEDIEFONDET ZEFYR / ZDF / ARTE

家族の音や声を封印して、記憶を受け継ぐ家の気配。

黒い背景に3つの顔がオーバーラップする。父とふたりの娘、よく似ている。それは遺伝のためではない。親子とは、悲しみの相貌によって似通うものだ。そして家とは、そこに棲息した人びとの悲しみを無言のうちに受け継いでいく器である。悲しみは家に残留する。

母の葬儀がおこなわれる家。長らく音信不通だった父が現れ、娘姉妹はとまどう。映画監督の父は、復帰作の主役を舞台女優である姉につとめてほしいという。姉にとって、家族を捨てた父は人生最大の敵だ。けれど俳優の姉にとって、映画監督の父は類まれな理解者である。近づくのも遠ざけるのももどかしい関係。ふたりの蝶番役をはたすのが歴史学者の妹であるのが示唆的だ。

本作はファミリードラマである。けれど真の主役は「家」であり、影の主役が「祖母」であることがあらわになる。一族の記憶、あるいはレジスタンスの女が受けた拷問の痕。それはかつて親や子のあいだで語られたことがなく、けれど家じゅうに匂い立ち、子孫たちを包みこむ気配のようなもの。たとえば祖母が閉じた扉の音、大叔母が音量を上げたダンスミュージック、父が娘にしたためた脚本の文字のように。妹が史料庫で探しあてた文書とはべつのしかたで、「家」は「祖母」を記憶し継承してきたのだった。そのことに子や孫がはじめて気づく。その驚きを映画が描く。

ふたりの対話場面が多い。対話のすべてに和解の種がある。父と娘、姉と妹、映画監督と撮影監督、舞台女優と映画女優。登場のたび新鮮な風を吹きこむエル・ファニングと、作を重ねるごとに円熟味を増していくレナーテ・レインスヴェがみえる。

白く塗り替えられた家。それは過去の輪郭と未完の余白。閉じた扉と再来するひとの呼び声。

『センチメンタル・バリュー』●監督・共同脚本/ヨアキム・トリアー●出演/レナーテ・レインスヴェ、ステラン・スカルスガルド、インガ・イブスドッテル・リッレオースほか●2025年、ノルウェー映画●133分●配給/NOROSHI ギャガ●2月20日より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて順次公開https://gaga.ne.jp/sentvalue_NOROSHI/

文:五所純子作家・文筆家文芸・映画を中心に多数執筆。単著に『薬を食う女たち』(河出書房新社刊)、共著に『本に出会ってしまった。私の世界を変えた一冊』(ele-king books刊)ほか。無類のお米好き。

02.『ランニング・マン』

©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

大逆転劇も利用する逃走迷路の戦慄のからくり。

失職して子育てに窮したグレン・パウエル扮するベンは、メディア王が仕切る逃走ゲーム――内実は炎上必至のヒール役として一般市民を敵に回す視聴者参加型リアリティショーに巻き込まれる。奇しくも2025年に設定されたスティーヴン・キングの近未来小説の予見性を、ニュースも娯楽もリアルとフェイクの曖昧さにつけ込んでゲームショー化される新時代アクションスリラーとして描く。1982年に別名義で出版されたキングの原作はデスゲームジャンル隆盛の先駆けとなったが、近年の安易な類型化をひっくり返す力業が鬼才エドガー・ライトならでは。ゴールディ・ホーン似の70年代型ヒロインを絡めてスピルバーグの最初期作へ目配せを送るなど、映画的引用の数々も楽しい。

『ランニング・マン』●監督・共同脚本/エドガー・ライト●2025年、イギリス・アメリカ映画●133分●配給/東和ピクチャーズ●1月30日より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて順次公開https://the-runningman-movie.jp/

text: Takashi Goto

03.『両親(ふたり)が決めたこと』

© 2024.LASTOR MEDIA, KINO PRODUZIONI, ALINA FILM ALL RIGHTS RESERVED.

スパニッシュミュージカルが紡ぐ愛の最終章。

80歳になるバルセロナの舞台女優クラウディアは、病魔による錯乱を自覚してある決意を固める。彼女への思慕を長く失わない夫フラビオも決断を全面支援。そのスイスへの出立、"デュオ安楽死"の道行きが、エレクトロヒップホップからバズビー・バークレー様式まで多彩な新旧ミュージカル調に。特に、散りぢりの子らの家族を招いた結婚記念パーティのステージは、クラウディア役の名女優アンヘラ・モリーナ自身の、黒ドレスを纏った惜別の歌みたいで心震える。スイスでの終章もふたりの愛の幕引きを美化して歌い上げたりせず、生死の迷いを帯びて雪のように沁みてくる。米アカデミー賞の前哨戦として存在感を増すトロント国際映画祭のプラットフォーム部門で作品賞を受賞。

『両親が決めたこと』●監督・共同脚本/カルロス・マルセット●2024年、スペイン・イタリア・スイス映画●106分●配給/百道浜ピクチャーズ●2月6日より、シネマート新宿ほか全国にて順次公開https://www.m-pictures.net/futarigakimeta/

text: Takashi Goto

04.『ウォーフェア 戦地最前線』

© 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.

五感を駆使し、さなかから戦場の本質を掴む。

米軍特殊部隊ネイビー・シールズの小編成チームがイラクの危険地帯に潜伏してターゲットを監視中、前触れもなく機先を制されて集中砲火を浴び、孤立無援と化す。か細い息の盟友を引きづって脱出を図る。血と硝煙のパニック状態の中、音が遠のき気が遠のく静けさの漂流感は、戦場体験のPTSDにおける記憶の空洞化を連想させる。サウンドデザインを含めて大胆・緻密な描写力というほかない。メインの監督アレックス・ガーランドは、分断昂じて南北戦争さながらの内戦に陥るアメリカを女性報道写真家の眼で描いた『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(2024年)の旬の人。泥沼化したイラク戦争の一市街戦に肉薄し、驚くべき肌感覚とともに戦場そのものの核心部を照らし出す。

『ウォーフェア 戦地最前線』●監督・脚本/アレックス・ガーランド、レイ・メンドーサ●2025年、アメリカ映画●95分●配給/ハピネットファントム・スタジオ●TOHOシネマズ 日本橋ほか全国にて公開中https://a24jp.com/films/warfare/

text: Takashi Goto

*「フィガロジャポン」2026年3月号より抜粋

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