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8000万年前の「ウミガメの大移動」をイタリアで発見

  • 2026.1.28
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

イタリアの海を見下ろす断崖で、約8000万年前の“緊急避難”の痕跡が見つかりました。

岩の表面に無数に刻まれた溝は、太古の深海を生きていた海生爬虫類が一斉に動いた証拠だと考えられています。

ノルウェー科学技術大学(NTNU)の研究者たちは、その正体として「地震に驚いて逃げ出したウミガメの群れ」という、驚くべきシナリオを提示しました。

研究の詳細は2025年11月28日付で科学雑誌『Cretaceous Research』に掲載されています。

目次

  • ロッククライマーが見つけた「異様な溝」
  • 地震と海底なだれが刻んだ「逃走の瞬間」

ロッククライマーが見つけた「異様な溝」

発見された大移動の痕跡/ Credit: Paolo Sandroni et al., Cretaceous Research(2025)

この発見のきっかけは、専門家ではなくロッククライマーでした。

イタリア中部、アドリア海を望むモンテ・コーネロの岩壁を登っていた彼らは、広い石灰岩の表面に無数の溝が刻まれていることに気づきます。

溝は同じ方向に伸びるものが多く、しかも数が異常に多いものでした。

クライマーたちは、同じ地域公園内で以前に報告された「白亜紀の海生爬虫類による痕跡」を思い出し、地質学者に連絡を取ります。

その後、地質学者と研究チームによる本格的な調査が始まりました。

ドローンを使った空撮や詳細な地層調査の結果、この岩盤だけでも数百から千本近い痕跡が密集していることが判明します。

痕跡が残されていたのは、スカリア・ロッサと呼ばれる石灰岩層で、かつては水深数百メートルの深海の海底だった場所です。

現在は地殻変動によって隆起し、山の一部となっています。

地震と海底なだれが刻んだ「逃走の瞬間」

チームは、痕跡のすぐ上に重なる地層を詳しく分析しました。

すると、通常のゆっくりとした深海堆積とは異なる、急激に堆積した痕跡が見つかります。

これは地震によって引き起こされた「海底の泥流」の痕跡と解釈されました。

重要なのは、この泥流が痕跡の形成直後に起きたと考えられる点です。

深海では、動物が残した痕跡は海流や底生生物の活動によってすぐに消されてしまいます。

しかし今回は、溝が刻まれてから短時間のうちに泥流が覆いかぶさり、痕跡を“封印”したことで、8000万年後まで残ったと考えられます。

では、誰がこの痕跡を残したのでしょうか。

当時、この環境でこれほど大きな溝を作れた脊椎動物は、ウミガメや首長竜、モササウルスといった海生爬虫類に限られます。

その中で研究者たちは、群れで行動する可能性があり、海底近くを移動することもあるウミガメが最も有力だと考えています。

地震によって海底が揺れ、混乱したウミガメたちが一斉に動き出した。その直後、海底なだれが起き、逃げる途中の痕跡がそのまま保存された。

今回の研究は、そんな劇的な一瞬を地質記録から読み解いたものです。

ウミガメの大避難のイメージ図/ Credit: Paolo Sandroni et al., Cretaceous Research(2025)

8000万年前の「パニック」が語るもの

この研究は、ウミガメの行動を断定するものではありません。

痕跡の詳細な生痕学的解析は今後の課題とされています。

それでも、地震による海底なだれが起きたこと、そしてその直前に多数の大型海生爬虫類が一斉に移動したことは、地質学的に強く支持されています。

静かな深海にも、突発的な災害と生き物たちの必死の行動が刻まれている。

8000万年前の岩盤は、そんな“緊急事態の瞬間”を私たちに伝えているのです。

参考文献

Rock climbers in Italy accidentally discovered evidence of an 80 million-year-old sea turtle stampede
https://www.livescience.com/animals/extinct-species/rock-climbers-in-italy-accidentally-discovered-evidence-of-an-80-million-year-old-sea-turtle-stampede

元論文

Reptile footprints on a pelagic seafloor as a vestige of a synsedimentary seismic event in the lower Campanian Scaglia Rossa basin of the Umbria-Marche Apennines (Italy)
https://doi.org/10.1016/j.cretres.2025.106268

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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