1. トップ
  2. “朝の顔”として存在感を残した人物に再び注目「やっぱ演技上手い」「印象的だった」“オーラを消す”俳優という強み

“朝の顔”として存在感を残した人物に再び注目「やっぱ演技上手い」「印象的だった」“オーラを消す”俳優という強み

  • 2026.2.26

朝ドラ『あんぱん』で、ヒロイン・朝田のぶ(今田美桜)の実家・朝田石材店の若き石工・原豪(通称“豪ちゃん”)を演じていたことも記憶に新しい細田佳央太。無骨で実直すぎる青年像を丁寧に体現し、朝の顔としての存在感を確実に刻んでいた。そんな彼が、今度はドラマ『冬のなんかさ、春のなんかね』で“優しすぎる元カレ”を演じた。その振り幅と深度に、あらためて注目したい。

※以下本文には放送内容が含まれます。

優しすぎる元カレが残した、消えない体温

undefined
細田佳央太 (C)SANKEI

杉咲花主演、今泉力哉監督による『冬のなんかさ、春のなんかね』は、人のことをまっすぐに“好きだ”と思えたあのころに想いを馳せる、誰にでも覚えのある問いを静かに差し出すラブストーリー。

杉咲演じる主人公・土田文菜は、過去の恋愛を振り返りながら、現在の恋人・佐伯ゆきお(成田凌)と向き合おうとする。その過程で描かれたのが、大学時代の元カレ・佃武(細田佳央太)という存在である。杉咲と細田は『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』でも共演しており、ふたたびのタッグにSNS上でも「この組み合わせ好き」と評判を呼んだ。

「やっぱ演技上手い」「印象的だった」と定評の多い細田が演じた佃は、とにかく“優しすぎる”人。大学で小説を読みながら泣いている文菜を見て、決定的に惹かれてしまう青年である。休講の教室に彼女を呼び出し、ぎこちなく辿々しい告白をするシーンは、なんとも微笑ましい。

その後、無事に付き合うことになったふたりの動物園デートでは、幸せが込み上げて思わず涙してしまう不器用さも併せ持つ佃。そのすべてが、どこまでもまっすぐだ。

しかし、彼の一番の持ち味である優しさこそが、文菜の“大切な人、好きな人とは付き合わないほうがいいのではないか”という葛藤へと繋がっていく。佃との恋の成就、そして破局の経験こそが、彼女の恋愛観の土台になっている気がしてならない。

細田はその“過去の記憶”としての存在を、過不足なく、しかし確実に残る温度で演じきった。

オーラを消す俳優という強み

細田の最大の武器は、普通で等身大な青年を、一ミリの嫌味もなく演じきれること。映画『町田くんの世界』で見せた純粋すぎる少年の佇まい。『ドラゴン桜』での原健太役では丸刈りにし、体重を増やして役に臨んだ徹底ぶり。さらに『ドロップ』では尖った不良役にも挑み、印象を大きく更新してきた。

共通しているのは、過度に誇張しないことだ。どの役でも、声のトーンや歩き方、目線の動かし方まで細やかに変えながら、“そこに生きてきた人”の生活感をまとわせる。オーラを自在に消し、その人物の呼吸に自分を合わせる憑依型のスタイルである。

佃もまた、特別な青年ではない。大学の同級生に一人はいそうな、少し不器用で真面目で、優しい青年。いつだって隣にいそうな感じを、意図的に成立させるのは難しい。少しでも作為が見えれば嘘っぽくなるからだ。

しかし、細田の瞳は濁らない。動物園のシーンで溢れる涙も、大仰な演出ではなく、静かにこぼれ落ちる。唇のわずかな震えや、目の泳ぎ。激しく叫ばなくても、感情は十分に伝わる。彼は“静”で勝負する俳優だ。

繊細さを演じるのではなく、生きる

細田の演技を語るとき、映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』を思い出す。そこで彼が演じた七森剛志は、誰かを傷つけることを極端に恐れる青年だった。周囲の言葉を受け止め、飲み込み、傷つきながらも誠実であろうとする。その受けの芝居の強度は圧巻だった。

佃にも通じるのは、繊細さを“記号”としてではなく、人格として立ち上げる力だ。優しさは、ときに重さになる。大切だからこそ怖くなる。そのニュアンスを、細田は決して説明的に演じない。ただ佇み、相手を見つめ、間を置く。その“間”こそが、彼の真骨頂である。

観終わったあとにこそ、じわじわと効いてくる。時間差で胸に残る余韻のように、彼の演技はあとから深く響く。俳優・細田佳央太は今、確実にその領域へと確実に歩みを進めている。

佃武という優しすぎる元カレもまた、きっと文菜の心のどこかに残り続けるだろう。そして視聴者のなかにも、“ああいう人、いたな”と思い出させる存在として。細田は、物語の表舞台で叫ばなくても、静かに、確実に、記憶に残る俳優なのである。


ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_