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朝ドラの“巧妙すぎる伏線”に絶賛の声「ずっと観てたからこそ」「脚本の上手さエグい」全く同じ構造が示す“静かな布石”

  • 2026.2.28
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『ばけばけ』第21週(C)NHK

朝ドラ『ばけばけ』第21週「カク、ノ、ヒト。」は、高等中学校廃止の報により英語教師の職をなくしそうなヘブン(トミー・バストウ)が、作家として仕切り直しを図るような週。しかし、安寧な空気の流れる熊本ではなかなか書きたいテーマが見つからない。トキ(髙石あかり)を含め、ネタ探しに奔走する日々。お地蔵様の前でたまたま知り合った女性・イセ(芋生悠)を自宅に呼び出し、彼女が“呪われている”という噂の所以を聞き出そうとするが……。

※以下本文には放送内容が含まれます。

重い“呪い”を背負う謎の女性

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『ばけばけ』第21週(C)NHK

どこか負のオーラをまとった女性・イセが淡々と語った“人形の墓の話”は、なんとまあ、重たい。両親と兄を立て続けに失い、まさに天涯孤独の身で生きてきた彼女は、とある言い伝えについて語った。

同じ家のなか、一年のうちに立て続けて二人が命を落とすと、三人目もすぐに同じ道をたどり、やがて四人目はたとえ生き残ったとしても重い呪いを背負うことになる……という言い伝え。藁人形を拵え墓を作れば難を逃れられるそうだが、イセの場合は間に合わなかった。そんな半生を抱えた女性を前に、トキは直前まで彼女が座っていた、温もりの残る座布団に躊躇なく座る。

不幸せは私に乗り移った、だから、これからは良いことがあるはず……。一見すると、トキの行動は荒唐無稽で、あまりにも自己犠牲的に見える。しかし、本質はそこではない。トキが心から呪いを楽しみ、信じているのは大前提だが、イセの抱える孤独を軽くするためにこそ、“優しい嘘”を選んでみせたのだ。

言い伝えや怪談は、その背景に理由があってこそ信憑性を増すもの。音を立てて襖を閉めたら寿命が縮まる、その理由は? 嘘をついたら来世はヘビになる、じゃあ本当にヘビになった人は? ヘブンは作家であるがゆえに理屈を求めてしまう。

トキの姿勢は、少し違った。いや、話を聞く夫婦ともに、怪談を愛する二人だからこそ、イセの抱える苦労と寂しさにこそ共鳴したのだ。この態度こそが、今週の核心である。

蛇足に思えた“焼き網事件”の意味

ここで思い出されるのが、熊本編に入ってすぐ描かれた“焼き網事件”だ。朝食トースト用の網が消え、盗んだ犯人はこの中にいる! と騒ぎになった一件。あの時点ではどこかコミカルで、本筋から外れた蛇足というか、閑話休題のようにも思えた。

しかし、あの騒動で描かれたのは何だったか。居候の丈(杉田雷麟)や正木(日高由起刀)がついた“優しい嘘”。疑われて傷つく女中のクマ(夏目透羽)。そして、結局は誰も盗んでいなかったという結末。あれは、事実を追う物語ではなく、心の動きをとらえる物語だった。

今回のトキの行動と、構造がまったく同じなのである。呪いが本当かどうかは問題ではない。真実がどこにあるかは本質的ではない。大切なのは、誰のためにその物語が存在するのか。“焼き網事件”は、トキの“優しい嘘”への伏線だったのだ。

SNS上で「ずっと観てたからこそわかる」と言われるのも頷ける。熊本編に入ってからの一見些細な出来事が、ここへ向けて静かに積み重なっていたのだ。

“優しい嘘”へ収斂していく過程

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『ばけばけ』第21週(C)NHK

SNS上でも「脚本の上手さエグい」という声が上がった理由は明確だ。本作は、怪談を単なるホラー演出に落とし込まない。

高等中学校廃止という現実的な不安、司之介(岡部たかし)の投資失敗、ヘブンの創作スランプ、原稿報酬80円の為替という希望。これらすべてが、物語とは何を意味するかという問いへと収束していく。

怪談を“怖がらせる装置”ではなく、“人間の心の機微を描く装置”へと昇華させる。その脚本設計の巧みさが光る。ヘブンが最終的に筆を走らせるきっかけとなったのは、呪いや言い伝えの力ではなく、トキの行動だった。

怪談や呪いを心から信じきったうえで、他者への優しさと“嘘”に変換する。“焼き網事件”も、イセの呪いも、すべては“優しい嘘”をどう扱うかというテーマに収斂していく。その一貫性が、これまで物語を見守っていた視聴者の心を撃ち抜いた。

トキが口にした、呪いに対する“楽しい”という言葉は、軽やかでありながら何よりも強い。それはいわば、不幸せをひとりで抱えこむ必要はないという、ある種の宣言だったから。

熊本編は、派手な怪異が起きない代わりに、人の心の揺れを丁寧に積み重ねてきた。その積層が今回、一気に回収された。“蛇足”に見えた焼き網事件は、決して無駄ではなく、優しい嘘を描くための、静かな布石だったのである。


連続テレビ小説『ばけばけ』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_