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2023年に“一番の話題作”となった【日曜劇場】作品タイトルに隠されていた“物語の核”

  • 2026.2.24

2023年に日曜劇場(TBS系日曜夜9時枠)で放送された連続ドラマ『VIVANT』は、豪華なキャスト陣と海外ロケを多用したスケールの大きな映像、そして先の展開が読めない謎に満ちたストーリーが大きな話題となった。

※以下本文には放送内容が含まれます。

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堺雅人 (C)SANKEI

スーツを着た日本人の男が広大な砂漠を彷徨う場面という、テレビドラマとは思えないスケール感のある映像から本作はスタートする。
スーツの男は乃木憂助(堺雅人)。大手商社・丸菱商事のエネルギー開発事業部で働く乃木は、取引先のGFL社に1000万ドルの契約金が、なぜか1億ドルで誤送金されてしまい、差額である9000万ドルを回収するため、『バルカ共和国』に向かうことになる。
GFL社に誤送金された1億ドルはすでに下請けの会社に送金されてしまい、お金の行方が追えなくなっていた。だが、乃木が、サム(マーティン・スター)というCIAの友人にバルカの銀行を調べさせた所、1億ドルはダイヤに変えられ、アル=ザイール(エルヘムバヤル・ガンボルド)という謎の男の元に渡っていたことが判明する。
乃木はダイヤを回収するため、砂漠を超えて現地の警察と共にザイールの元にたどり着くが「お前がVIVANT(ヴィヴァン)か?」と乃木を問いつめた後、ザイールは証拠を消すため自爆する。突然現れた日本の警視庁公安部外事第4課・野崎守(阿部寛)に命を助けられた乃木だったが、バルカ警察に爆破事件の犯人だと疑われ、追われる身となってしまう。

乃木は野崎と、野崎の協力者・ドラム(富栄ドラム)、そしてWHI(世界医療機構)の医師としてバルカ共和国で医療活動に従事していた柚木薫(二階堂ふみ)と共に国外に脱出するため、遊牧民を装い日本大使館を目指す。

豪華なキャストと派手な映像

本作は放送前から話題になっていた。理由は豪華キャスト陣。
堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、松坂桃李、役所広司といった主演級の俳優がズラッと並び、『半沢直樹』を筆頭とする数々の日曜劇場のヒット作を手掛けてきた福澤克雄が、原作・演出・プロデュースを務めるため、これはTBSきってのビッグプロジェクトになると興奮した。
だが一方で、ストーリーは完全に伏せられており、キービジュアルには前述した5人の出演者が並ぶ姿に『VIVANT』というタイトルと「敵か味方か、味方か敵かーこの夏、冒険が始まる。」という一文だけ。
そのため、全く内容がわからず『半沢直樹』の堺雅人と『下町ロケット』の阿部寛が出演するため、2010年代に日曜劇場で多数映像化された池井戸潤の原作小説のような企業や銀行を舞台にしたビジネスドラマになるのではないか? あるいは堺雅人の怪演を活かした『ルパン三世』のような怪盗モノになるのではないか?と内容をいろいろと想像した。
タイトルの『VIVANT』も謎に満ちており、後に考察ドラマとして盛り上がりを見せる本作の種は放送前から蒔かれていたと言える。 そして、第1話終盤ではこれまで出演が伏せられていた二宮和也がサプライズ登場し、更に視聴者を驚かせた。

『VIVANT』の魅力は、視聴者を驚かせようという破格のサービス精神だ。

そのためにあえて情報を伏せるという緩急のバランスも実に見事で、本作の宣伝に翻弄されること自体、とても楽しかった。 この視聴者を驚かせようという精神は、もちろんドラマ本編でも健在だ。 まず何より驚いたのが、モンゴルロケで撮影されたバルカ共和国の描写。 広大な砂漠の映像に始まり、銃撃戦、カーチェイスといった派手なアクションシーンや、馬に乗った乃木たちが、遊牧民が引き連れた無数の羊と山羊と共に検問を突破しようとする場面など、超大作映画のようなスケール感のある派手なシーンが盛りだくさんで、こんな贅沢な映像を「テレビドラマで見られるなんて、実にありがたい」とドラマを観ながら感動した。
一方、ストーリーは謎が謎を呼ぶ展開で、当初は野崎も敵か味方かわからない怪しい存在で、主人公の乃木も途中でFという別人格と思われる存在と会話をはじめるため、本当にただのサラリーマンなのか? と怪しくなる。
そんな主人公も含めた登場人物の多くが謎を抱えたまま物語が進むのだが、一方で、役所広司が演じる謎の男がテロ組織・テントのリーダーであること等が少しずつわかってくる。
そういった情報を小出しにしながら視聴者を翻弄していく作劇が最後まで絶妙で、派手な映像と豪華俳優陣というキャッチーなビジュアルだけで終わらず、ちゃんと連続ドラマとして面白かったからこそ本作はこの年一番の話題作となったのだろう。

日曜劇場の世界観をスケールアップした先にあるもの

『VIVANT』はそのスケール感の大きさから、海外でも通用する日本のドラマとして売り出そうという意思が感じられる作品だったが、冒頭で広大な砂漠を歩くスーツを着た日本人サラリーマン・乃木のビジュアルを全面に打ち出したことは、とても象徴的だったと感じる。

やがて、タイトルの『VIVANT』(ヴィヴァン)とは、モンゴル語の発音で別班(ベッパン)だったことが明らかとなる。
そして乃木が日本政府非公認の自衛隊の影の部隊・別班の一人だったことが判明する。

別班の目的は日本国内で起こるテロを未然に防ぐことであり、乃木はテントの情報を掴むために正体を隠して行動していたのだが、普段は冴えないサラリーマンの乃木の裏の顔がテロを防ぐために暗躍するヒーローだったという展開は、まるでスーパーマンのようである。

表と裏の顔を持つ乃木は、日本社会で働くサラリーマンの苦悩を描き続けてきた日曜劇場が、世界に売って出る際に打ち出したヒーロー像として見事にハマっていた。

その意味で『VIVANT』は、日本の会社組織で翻弄されるサラリーマンの現在の気分を、壮大なスケールで展開した神話的な物語だったと言えるだろう。

『VIVANT』は、2026年に続編が放送予定で、すでに情報が小出しにされ始めている。日曜劇場が培ってきた物語を世界レベルに広げた『VIVANT』の続編が、次はどのような壮大な世界を見せてくれるのか、今から楽しみである。


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。