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コアラが増えすぎて森が死ぬ? 南オーストラリアのコアラ避妊計画

  • 2026.1.22
コアラが増えすぎて森が死ぬ? 南オーストラリアのコアラ避妊計画
コアラが増えすぎて森が死ぬ? 南オーストラリアのコアラ避妊計画 / Credit:Canva

オーストラリアのシドニー工科大学(UTS)で行われた研究によって、オーストラリア南部のマウントロフティ山地では、コアラが「多すぎて」森を追い詰めている可能性が高いことが示されました。

そのまま何もしなければ、25年ほどでさらに2〜3割ほど増え、もともと少ない森のユーカリを食べ尽くしてしまうおそれがあると予測されています。

そこで研究者たちは、「コアラを減らす」道を探すことになりました。

研究内容の詳細は2026年1月12日に『Ecology and Evolution』にて発表されました。

目次

  • コアラが増えすぎる事態が起きている
  • 増えすぎたコアラを避妊処置で減らせ

コアラが増えすぎる事態が起きている

コアラが増えすぎる事態が起きている
コアラが増えすぎる事態が起きている / Credit:Canva

コアラと聞くと、多くの人は「ユーカリの木にだらんとしがみつく、ふわふわのアイドル」を思い浮かべるのではないでしょうか。

実際、オーストラリア東部では、森林破壊や熱波、病気などの影響でコアラの数が急激に減り、一部の州では法律上「絶滅危惧」に分類されているほどです。

ところが、同じ国の南オーストラリア州マウントロフティ山地では、まったく逆のことが起きています。

ここにはもともとコアラはおらず、ヨーロッパ人が入ってきてから、別の島や動物園から持ち込まれた個体が逃げ出したり放されて増えた「移入コアラ」です。

しかも、この地域は雨が多く、ユーカリの森もまだ残っていて、捕食者による強い圧力も大きな問題にはなっていないと考えられ、「コアラにとっての楽園」でした。

その結果、コアラたちは「ここ、居心地よすぎる」と言わんばかりに増え続け、いまや全国の推定コアラ数の約一割が、この山地だけにぎゅっと詰まっていると見積もられています。

本来なら、野生動物が増えすぎて森を壊している場合、「間引き」が管理の定番です。

しかしコアラは観光の顔でもあり、ぬいぐるみやキャラクターとして世界中に愛されています。

そのため南オーストラリアでは、「コアラを殺す」という選択肢は強い反発を呼び、政治的にもほぼ封じられているのが現実です。

人を殺傷するクマを捕殺すると抗議の電話が止まらなくなるような国が「世界のどこか」にあることを考えると、コアラの捕殺はそれよりも遥かにハードルが高いと言えるでしょう。

理論的には移送して別の場所に移すこともできますが、行き先の森も必要になります。

増えすぎたコアラを避妊処置で減らせ

増えすぎたコアラを避妊処置で減らせ
増えすぎたコアラを避妊処置で減らせ / Credit:Canva

増えすぎたコアラをどうすればいいのか?

研究者たちが目をつけたのが「避妊による管理」です。

撃たずに、移送も最小限にして、「これ以上は増えないようにする」方向でバランスをとれないかを、数理モデルで検証しようとしたのです。

研究者たちはまず「今、マウントロフティ山地にコアラがどれくらいいるか」をできるだけ正確に描き出すところから始めました。

市民が投稿したコアラの目撃地点と、雨量・気温・土壌などの環境データを組み合わせて、「この場所は住みやすい/住みにくい」という地図を作り、さらに1キロ四方ごとのコアラ密度を推定したのです。

次に、森がどのくらいのコアラ密度まで耐えられるかという「目標値」が設定されました。

ここでは、過去の検討をもとに「0.7頭/ヘクタール以下」という値が一つの基準として採用されています。

この基準で見ると、現在すでに推定分布の約7割以上の地域が「高すぎる密度」に達しており、今のままではユーカリ林が長く持たないおそれが高いと考えられます。

では、避妊をするとどうなるのでしょうか。

研究者たちは、成長したメス(繁殖に参加できるメス)のうち、毎年何パーセントを避妊すればよいかを、いろいろな値でシミュレーションしました。

避妊の対象を「コアラ密度の高いホットスポット」にしぼり、25年分の個体数の変化と、手術・捕獲・人件費などを含めた費用を同時に計算しました。

その結果、成メスの約22%を、毎年ホットスポットでホルモン剤の皮下インプラントによる避妊処置をしていくシナリオが、個体数を「森が耐えられる範囲」まで下げつつ、費用も約3,400万豪ドル(30~40億円前後)に抑えられる、費用対効果の高い案として浮かび上がりました。

この研究成果により、これまでは「コアラがかわいそうだから撃つな」「森を守るためコアラを減らせ」という感情レベルの議論になりがちだったところに、「このくらいの避妊率なら、何年後にどれだけ数が変わる」「費用はこれくらい」という具体的なメニュー表を差し出されました。

ただ研究者たちは、どの密度をゴールにするか、どのくらいのお金を投じるかは、科学者ではなく社会全体の判断だと強調しています。

もしかしたら未来のオーストラリアでは、「今年のマウントロフティのコアラ避妊率は何パーセントにするか」というニュースが、選挙や予算案と並んで大きな話題になっているかもしれません。

元論文

Balancing High Densities and Conservation Targets to Optimise Koala Management Strategies
https://doi.org/10.1002/ece3.72470

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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