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カカオ農家の経済的自立を目指す「ミニマル」のチョコレートで、生産者も贈り手も笑顔に

  • 2026.1.21

世界中のカカオ産地を訪れて手に入れた良質なカカオ豆を使い、自社工房の職人が手仕事でチョコレートづくりをする日本生まれのスペシャルティチョコレート専門店「Minimal - Bean to Bar Chocolate -(ミニマル)。丁寧にシンプルに、最高の素材を活かしてカカオの香りを最大限に引き出すチョコレートづくりを掲げ、国際品評会で日本初の部門別金賞を受賞したほか、10年連続で数々の賞を受賞しています。

CEDRIC DERADOURIAN

ミニマルでは、現地でカカオの発酵・乾燥作業の研究やレクチャーを行うことで、カカオ農家と一緒に高品質かつ高単価なフレーバーを開発。カカオ産業のサステナブルな経済的自立を目指し、技術支援やフェアでエシカルな取引を行っています。赤道直下のカカオ産地に足を運び、カカオ豆の買付をしながら農家と協力して品質改善に取り組むファウンダーの山下貴嗣さんに話を伺いました。

<Profile>
山下貴嗣(やました たかつぐ)/Minimal - Bean to Bar Chocolate - 代表

1984年岐阜県生まれ。チョコレートを豆から製造するBean to Bar(ビーントゥバー)との出会いをきっかけに、世の中に新しい価値を提供できる可能性=新しいチョコレート体験の提案や農家を巻き込んだエコシステム創りを見出し、2014年に渋谷区・富ヶ谷にクラフトチョコレートブランドの「Minimal -Bean to Bar Chocolate-」を立ち上げる。

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赤道直下のカカオの農園から始まった奥深いカカオの世界

――チョコレートづくりに欠かせないカカオと、生産者にまつわる話を教えてください。

カカオ豆(種)は、赤道直下の北緯と南緯20度以内の地域で生産されます。元々の原産地は中南米といわれていますが、現在では西アフリカが世界最大の生産地になっています。すでに金融商品化しており、先物市場で価格が決まるため、ロンドンやニューヨークで1トンあたり何千ドルという単位で取引されます。2024年に西アフリカで気候変動による壊滅的な不作により価格が高騰しましたが、それまでは数十年1キロあたり3ドル前後かもしくはそれ以下。農家が生活水準を上げるのは非常に厳しいといわれていました。

こうした状況から農家は量をつくらなければ収入にならず、コートジボワールとガーナでは約156万人の子どもが労働に駆り出されるといった悪循環が起きています。また農地はインフラが整っていないことも多く、たとえ大量に収穫しても自分で運搬できず販売にも苦労するといった現実があります。

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―― フェアトレードを始めたきっかけや、理想と現実についてお聞かせください。

創業当初から「安値で買いたたかれる構造」と「量をつくらないと成り立たない構造」以外でビジネスが成立する新しいモデルをつくりたいと決めていました。特別な理由があったわけではありません。関わる人が皆ハッピーである方がいいと考えたからです。

私たちの最低ルールは「市場価格より高く買う」です。良い豆を適正に高く買えば、私たちはより美味しいチョコレートをつくり、お客様に届けることができる。つまり農家も私たちもお客様も “三方良し”の状態を目指しています。

初めはフェアトレードであれば農家に喜んでもらえるだろうと思っていましたが、現実はそう単純ではありませんでした。市場で3ドルの豆を100トン売りたい農家にとって、私が3倍の価格を提示しても1トンも買えないなら魅力がないのです。量が買えなかった創業当初、この現実が大きな壁として立ち塞がりました。

―― 量で売る常識のマインドをどう覆したのでしょうか?

インドネシア・パプア州で出会ったサロモンさんという農家との経験が大きな転機になりました。現地では農家とその家族と一緒にカカオ豆からチョコレートを一緒につくってみることから始めました。カカオ豆の発酵や乾燥を改善すると味がどれほど変わるかを体験し、チョコレートまで仕上げて一緒に食べました。ある時サロモンさんに「なぜ私と取引してくれるのか」と聞いてみると彼はこういいました。

「人生で一度も自分の豆がチョコレートになるところを目の前で見たことがなかった。味の変化も知らなかった。もし自分たちが本当に価値のあるものをつくり、それが正当に評価されるなら誇らしく、子どもにこの仕事を残しても良いと思える。それを初めて教えてくれたのがあなたたちだった」と。

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私は大きな衝撃を受けました。それ以来、“量で売るしか選択肢がない農家”に対して“質で勝負するもう1つの選択肢”を提示することにこそ意味があるのだと考えるようになりました。“良い豆を探す”より“良い農家と組む”という考え方に舵を切り、私たちの基準を提示。農家はそれを選ぶことができます。選択できることこそ、自由の権利なのだと教えてもらいました。仮に選ばれなければ私たちの力不足か、その農家さん自身の選択なのです。その前提により対等な取引を実現することができ、価格交渉も透明化させられました。

日本生まれのチョコレートで世界を変えるサステナブルな循環

―― チョコレートを食べることで繋がる社会貢献とは?

僕らが買う基準は大きく3つあります。

  1. 子どもの強制労働がないこと
  2. トレーサビリティが取れること(誰の豆かちゃんとわかること)
  3. アグロフォレストリーで生産されていること(森林を壊さない栽培方法)

カカオは「シェードツリー」といって基本的に日陰の方がよく育つ植物で、計画的にやれば森林を守りながら生産できます。ただ、その分収量が少し落ちたり、生産効率が悪かったりもします。でも僕らはそういう農園から積極的に買うようにしています。

ニカラグアで案内してくれた生産者組合の青年が、少し悲しそうな顔をしながら「ここは昔、全部森だったんだ」といいました。僕はその景色を見て、綺麗だなと思って写真を撮っていたのですが、彼にとっては無計画に焼いたり切って森がなくなったハゲた土地に見えていたのです。その時に初めて、「あ、カカオって森を再生しながら経済的にも成り立つ作物なんだ」と実感しました。僕らは大きな会社ではないのでやれることは限られていますが、続けていくことが大事だと思っています。

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こうした取り組みの中で強く思うようになったのは、ちゃんと経済が回ることが社会貢献を持続させるためには絶対に必要だということです。お客様が「フェアトレードだから買う」ではなく「美味しいから買う。しかもそれがフェアで持続可能」という状態が一番だと考えます。なぜならチョコレートが美味しいから食べたいと思う純粋な気持ちが、長続きするための一番大事なファクターだと思うからです。寄付や応援や意識だけでは、なかなか続かない。だから僕はずっと「継続的に買っていただけるお客様の市場をつくることが最初だ」と社員にも話しています。チョコレートを食べるという行為を通して、世界にどんな良いことが起きているのか。それを知ることが、お客様にとっても大切なのだと思います。

――カカオの殻を再利用するアップサイクルの取り組みをしていると伺いました

カカオ豆の外側には殻(カカオハスク)がついていて、取り除いてから中身をチョコレートにします。例えば1トン処理すれば、100〜200キロほどのハスクが出るので、なかなかの量です。ゴミにするのが嫌だったのでお茶にしてみたり、紙にして再生紙にしてみたり、いろいろ試しました。ただ、とても手間がかかるうえ採算も取れない。

処理に悩んでいた時に、深谷にある田中農場さんと出会いました。何万羽という鶏が、1日で2トンくらいエサを食べるらしいのです。ふと「カカオハスクを飼料にできませんか?」と提案してみたら、「それ面白いですね、やってみましょう」と話が進みました。卵を配達してもらい、その帰りにハスクを持って帰ってもらう。そのサイクルがもう4〜5年続いています。いまは出るハスクの100%が鶏のエサになっています。

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鶏に食べてもらって、その卵を僕たちが使う。ジェラートにしたり、ガトーショコラにしたり、1月からはイチゴを使った季節限定の商品でも使います。こういう取り組みは力むと続かないですが、日常業務に溶け込むと自然に続く。現場の若いメンバーも「それが当たり前」という感覚になっていて、とてもいいなと思います。田中農場さんにとっても、エサ代はコストが大きいので少しでも助けになればいいし、ビジネスとしてもサステナブルな循環が成立していると感じています。

―― 寄付付きチョコレート「マギーズ東京チャリティ」を続けている理由

マギーズ東京という、がん患者と家族を支えるケア施設をご存知ですか? 英国発祥の「Maggie’s Cancer Caring Centres」の国際ネットワークのひとつです。マギーズは医療機関とは異なり、がんに直面する人が無料で心理的・社会的サポートを受けられる場として世界的に評価されており、英国本部では、その社会的貢献が認められ、長年CEOを務めたローラ・リー氏が英国王室の叙勲(女王誕生日叙勲)を受けています。僕たちはマギーズ東京と一緒に“寄付付きチョコレート”をつくり、売上の一部を半年ごとに寄付しています。

<a href="https://mini-mal.tokyo/products/100000000563?srsltid=AfmBOoqqutG_DBX4-DcdCAERXPvVkxT5VNr1b8MKZyWLPFxV8M4msMDP" target="_blank" rel="nofollow">チョコレート「CLASSIC」(マギーズ東京チャリティ)¥1,580</a> CEDRIC DIRADOURIAN

取り組みを始めたきっかけは、友人である共同代表理事の鈴木 美穂さんが24歳で乳がんを経験したことです。当時、僕はまだ若くて、余命宣告を受けた彼女に何を言っていいか分からなかったのが本当に情けなくて、後悔としてずっと残っていました。彼女は寛解後、「私自身も不安だったから、同じような患者さんのための場所や支援をつくりたい」といって単身で英国に渡り、マギーズの仕組みを学んで日本で立ち上げました。

僕は医療の支援はできませんが「自分にも何かできることがあるなら」と思い、お願いして寄付付きチョコレートの取り組みを始めました。支援は一度より “続くこと” に意味があると思っています

大いなる可能性を秘めたカカオ豆の個性を伝えることで生まれる絆

―― 未来を担う子どもたちへメッセージはありますか?

年に一度くらいの頻度で「食育」に近い形の教室を子ども向けに開いています。夏休みやゴールデンウィークには、子ども向けワークショップも実施しています。チョコレートがどこから来て、どのようにつくられているのかを知ることで、食べ物の背景にある人や環境に目を向けてもらいたいと考えています。

ワークショップを通じて「チョコレートは遠くからやってくる食べ物で、その産地には子どもが働いていることもある」という社会的な側面も少しだけ伝えています。また、チョコレートを食べるときは「つくってくれている人に思いを馳せながら食べようね」という話もしています。もちろん小さい子どもがどこまで理解しているかは分からないのですが、体験を通じて得た気づきは、将来の消費行動にも影響すると感じています。

――今シーズン登場する限定ギフトについても教えてください。

バレンタインに向けて、自分たちの原点である板チョコレートを24種類つくりました。10年以上チョコレートをつくった中で、“生産者や産地よってもこんなに多様なのだ”という背景を見せたいと思っていました。

チョコレート「NEW ARTS & CRAFTS」 各¥500 Hearst Owned

ラインナップも色々で、シングルオリジンのように生産者が見えるものもあれば、紅茶を加えたもの、ホワイトチョコレートを焙煎してキャラメルのような風味に仕上げたものなど、すべて味が違います。

さらに今回はパッケージのテーマを「NEW ARTS & CRAFT」にしました。アーツ&クラフツ運動が個人的にすごく好きで、ウィリアム・モリス(1834–1896)のデザインに基づくパブリックドメイン作品をはじめ、和柄や抽象画、メッセージが描かれたもの、写真家やイラストレーターから作品をお借りしたものなどを展開しています。味わいで選ぶのはもちろん、パッケージデザインから選ぶ楽しさもあるので、ぜひ注目してください。

――今後の展望をお聞かせください。

もうひとつ、大きなニュースとして調布市の仙川に新しいブティックを出します。今回の店舗は「洗練」をテーマにしていて、腰壁まで大きなテラコッタタイルを貼り、上はエメラルドグリーンという2色の構成で非常に雰囲気が良いです。Minimal初のギフト・手土産に特化した専門店で、業態が違うMinimalの全ての商品が揃う予定です。ぜひ楽しみにしていてください。

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「Minimal 富ヶ谷本店(ミニマル トミガヤホンテン)」
所在地/東京都渋谷区富ヶ谷 2-1-9 1F
営業時間:11:30~19:00(L.O 18:30)
定休日/なし
TEL/03-6322-9998
URL/mini-mal.tokyo

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