1. トップ
  2. 「NHKさんどうかお願いします」放送から5年、止まない“切実な訴え” 「全国民観るべき」と語られる至高ドラマ

「NHKさんどうかお願いします」放送から5年、止まない“切実な訴え” 「全国民観るべき」と語られる至高ドラマ

  • 2026.1.22

民放ドラマの話題作が注目を集める一方で、静かに、しかし確かな完成度で視聴者の心を掴んできたのがNHKドラマです。派手な宣伝や視聴率競争とは距離を置き、時代や社会、人間の内面に丁寧に向き合った作品が数多く生み出されてきました。

なかには放送当時は大きな話題にならなかったものの、後年になって再評価されている作品も少なくありません。脚本の緻密さ、役者の抑制された演技、余白を活かした演出──それらが重なり合い、観る者の心に静かな余韻を残します。

今回は、そんな“NHKの隠れた名作ドラマ”から、『ペペロンチーノ』(NHK総合)を紹介します。

※本記事は、筆者個人の感想をもとに作品選定・制作された記事です
※一部、ストーリーや役柄に関するネタバレを含みます

あらすじ

undefined
「怖い絵」展記者発表 吉田羊さん(C)SANKEI
  • 作品名(放送局):宮城発地域ドラマ『ペペロンチーノ』(NHK総合)
  • 放送日:2021年3月6日

2021年3月11日。東日本大震災から10年が経った宮城県女川町。海を臨むイタリアンレストラン「PARADISO」では、オーナーシェフの小野寺潔(草彅剛)と妻の灯里(吉田羊)が、親しい友人たちを招いて食卓を囲んでいました。

潔はこの日を「震災の打ち上げ」にしようと呼びかけます。それは祝祭ではなく、失ったものや立ち止まった時間、そして歩いてきた10年を静かに振り返るための集まりでした。

物語は、震災から間もない2013年へと遡ります。

仮設住宅で暮らしていた潔は、仕事も定まらず、酒に溺れる日々を送っていました。そんな中、バイク事故を起こして入院した潔は、主治医の佐々木春文(国村隼)と出会います。春文もまた、アルコール依存症を経験し、断酒を続けている人物でした。

彼は潔に、「震災から10年、酒を辛抱できたら打ち上げをしよう」と語りかけます。二人は、その言葉を小さな約束として胸に刻みます。

2014年春。潔は故郷を離れて働くことを考え始めます。そんな折、仮設住宅の隣室に、高校時代の同級生で美容師の阿部より子(矢田亜希子)が住んでいることを知ります。より子は震災で夫を亡くし、娘と二人で暮らしていました。

ある日、口論になった親子のために、潔はアーリオ・オリオ・ペペロンチーノを振る舞います。二人の無邪気な笑顔を目にした潔は、もう一度料理と向き合い、レストランをやり直す決意を固めていくのでした。

2015年冬。かつて店を構えていた“PARADISO”の跡地を訪れた潔は、幼馴染で漁師の高橋友作(一色洋平)が求婚する場面に立ち会います。その後、潔は夫婦二人とともに養殖の仕事を手伝いながら、地元の魚の魅力や、土地とともに生きる感覚を少しずつ取り戻していきます。

さらに1年後。復興住宅へ移った潔は、灯里とともに地元の食材を使った料理の試作を重ねます。商工会の補助金や銀行からの融資、親戚の援助を受けながら、少しずつ開業資金を集めていきました。

そして2018年春。海のそばに、イタリアンレストラン“PARADISO”は再建されます。震災から立ち直った被災者の店としてマスコミにも取り上げられ、店は次第に活気を取り戻していきました。

ところが――。世界を震撼させたあの出来事が、潔たちをも飲み込んでいくのでした。

“震災を描く”のではなく、“震災後を生きる”物語

『ペペロンチーノ』が特別な理由は、震災という出来事そのものを直接的に描いていない点にあります。ここで描かれるのは、災害の瞬間ではなく、その後、何年も続いていく“生活”です。

時間が経てば、世間では“過去の出来事”になる。しかし当事者にとって、喪失は終わらないまま、今も現在進行形で存在し続けます。

その現実を、本作は決して大げさにせず、かといって目を逸らすこともなく、真正面から描いています。この誠実さこそが、「秀逸すぎるNHKドラマ」と語られる理由なのでしょう。

吉田羊が体現した、沈黙の重さ

本作の感情的な重心を担っているのが、潔の妻・灯里を演じる吉田羊さんです。

彼女が演じる灯里は、決して多くを語りません。感情を爆発させる場面も、ほとんどありません。それでも、わずかな視線の揺れや、言葉を探すような間、沈黙の長さそのものが、言葉にできない感情を雄弁に語ります。

吉田羊さんの演技は、悲しみを説明するのではなく、悲しみがそこに存在している状態を、ただ成立させるものです。だからこそこのドラマは、気軽に消費されることを拒み、観る側にも覚悟を求めてくるのかもしれません。

視聴者からの切実な訴え

放送後、SNSでは「再放送してほしい」「秀逸すぎるNHKドラマ」「隠れた名作」「全国民観るべき」といった声が見られます。特に「円盤化して欲しい」という声は今なお見受けられ、「NHKさんどうかお願いします」などの声からは、その切実さがうかがえます。

震災を扱うという題材の性質上、どうしても気軽には語られにくく、再放送の機会も限られてきました。それでも本作は、多くの人から称賛を集め、放送から5年経た今もなお評価され続けています。

真の希望はひそやかに語られる

『ペペロンチーノ』は、希望を声高に叫ぶドラマではありません。けれど、誰かと同じ食卓を囲むこと、言葉を交わすこと、同じ時間を共有すること。そうしたごく小さな行為が、人が生きていくための力になり得るのだと、静かに、しかし確かに教えてくれます。

“NHKの隠れた名作ドラマ”第3弾として、重く、苦しく、それでも確かな意味を残した一作です。


※執筆時点の情報です