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【更年期エピソード】「漠然と何かが足りない感じ」

  • 2025.12.25

閉経前後で心や体が大きく変化する「更年期」。
英語では更年期を「The change of life」と表現します。
その言葉通り、また新たなステージへ進むこの時期をどう過ごしていったらいいのか—。
聞き手にキュレーターの石田紀佳さんを迎え、さまざまな女性が歩んだ「それぞれの更年期」のエピソードを伺います。

今回お話を伺ったのは・・・
堀口博子さん
1954年小田原生まれ。フリーランスのエディターを経て、一般社団法人「エディブル・スクールヤード・ジャパン」代表に。現在は湯河原在住。
https://www.edibleschoolyard-japan.org/

ライフワークにつながる40代での出合い

「アートシーンやファッション業界のエディターをしていたので、農業とはまったく無縁でした。でも、40代の半ばからの変化の途上で、八重山の『ぐんぼう(芭蕉や苧麻、絹、木綿などを合わせて織った織物)』の生まれる場所を訪れ、その世界の美しさに心打たれました。その根源をもっともっと知りたいと思うようになりました」

西表島の染織作家の畑で風にそよぐ糸芭蕉の葉、大木の根元に置かれたかめで発酵する藍、土から生まれた布は海で洗われ、豊作を祝う祭りではその布で仕立てられた衣をまとう……。
この一連の美しい出合いが、堀口博子さんの現在のライフワークである「エディブル・スクールヤード」への扉を開く一つの鍵となった。

筆者が堀口博子さんと出会ったのもその頃。
まさに前述の西表島の布に関わる仕事でご一緒したのだが、それが博子さんと農の世界との僥倖の只中だったとはまったく知らなかった。

今年71歳になる博子さんのチェンジオブライフの背景に何があったのか。
20数年ぶりに再会してお聞きすることになった。

漠然と、何かが足りない感じ

43歳の頃にいわゆる更年期のほてりを感じ、体調もよくないし、これまでと同じように食べていても太ってしまうという経験がありました。なんか自分の見た目が変わっていくので憂鬱になったりして……。

そういう身体的な違和感のほかに、精神的に、漠然と、何かが足りない感じがしていました」広告業界のコピーライターをやめ、自分のプロジェクトを起こしていこうと、ミュージシャンであるパートナーの仕事をプロデュースした。

その流れで訪れたアメリカでネイティブアメリカンの「スリーシスターズ」という混植農法を知り、共生する植物の世界に魅了された。

「音楽業界を知っているわけではなかったので、パートナーとのプロジェクトは一旦保留し、と同時に農への興味が芽生えはじめていました。一時期はスリーシスターズの翻訳本を手がけようとしていたんですよ」

その後、博子さんは八重山の布作りの現場や、稲作文化を追うようになった。

「30代の時に子宮頸がんになり、食べ物や暮らしを変えることで癒しました。これは、人生の中でとても大きな出来事でしたね。でも、40代になってわかったのは、あのときに、カラダのガン細胞は出したけど、まだココロのガンがあったというか、魂の問題があったんだと」

この気づきと行き交うように、「毎年同じことを辛抱強くやっていく、地道で美しい農の世界」に入っていった。農業関連の書籍の編集や染織作家らのキュレーションなどをする中でいつの間にか憂鬱さは消えていき、体調も安定していった。
「47歳の時に、あ、終わった、って感じました」

育んで繋いでいくクリエーション

博子さんは「何も決めなかったから続いたんでしょうね」というパートナーと入籍はせずに長らく暮らしているが、子どもはいない。

「自分の子がすごくほしかったわけでもなかったのですが、出産できなくなる時期にさしかかった頃から、ふと、このままでいいのかと思うようになりました。これはもう、自分の中にあるクリエイティビティーを追いかけていかないと、なんとも不都合なわけなんですよ」

コピーライターをやめ、いわば本能的に追い求めた農業には、育み繋いでいくという生命の営みがあった。植物同士が協力して育っていくスリーシスターズや、古代米や在来野菜の種子を未来に残していくこと、古来から受け継がれる祭りに象徴される衣食住の祝い。

それらを編集して紹介していく仕事は博子さんのごくごく自然なクリエーションとなった。そしてついに、2003年、博子さん49歳の時に、アメリカのバークレーで
「エディブル・スクールヤード」の活動を知る。

「学校の校庭に菜園を作り、子どもたちと食べ物を育て、料理を作り、ともに食卓を囲みながら学び、生きる力を身につけていく教育のやり方がエディブル・スクールヤードにありました。それを肌で感じて、深く心を揺さぶられました」

翌年に取材を申し込み、2006年、書籍『食育菜園エディブル・スクールヤード:マーティン・ルーサー・キングJr.中学校の挑戦』(家の光協会)を翻訳出版。並行して、少しずつコミュニティーガーデンでの実践も始めた。

博子さんは書籍を通じて、「エディブル・スクールヤード(食育菜園)」の考え方を日本に紹介。

自らも、毎年4か月にわたる食育プログラム「アーススコーレ」を開催している。

子どもたちが相手だからあきらめられない

「ところがこの本がなかなか売れなかったんですよ。エディブル・スクールヤードの理念と実践を広めたくて本を出したので、これは問題でした。エディブルの中心人物であり、アメリカで最初のオーガニックレストランのオーナーシェフであるアリス・ウォータースの知名度が、当時日本で低かったのが要因でもありました。
だからオーガニック料理のバイブルと注目されていた彼女の料理本が出たというので、この日本語訳を出版することにしたのです」

ちょうど両親の介助が必要になって、実家にしばしば滞在することになったのも翻訳作業に集中する理由になった。

「親といるとクリエーティブなことってできないんですよね。翻訳ならば籠ってできるし、訳しながらアリスのことも学べると思ったんです」

2011年の震災を経て、2012年にアリスのレシピ本『アート・オブ・シンプルフード』(小学館)を共同翻訳で出版。2014年、60歳になった年に「エディブル・スクールヤード・ジャパン」の設立となった。フリーランスが心地よかった博子さんは、まさか自分が団体を運営することになるとは思ってもみなかったが、

「これからの人生をどうやって生きていくかを考えると、子どもたちとエディブル・スクールヤードを日本に根付かせてみたい、という興味がわいてきました。アリスたちが育んできたこの活動のピュアな精神を、日本でもそのままに大切に育てなければ、と強く突き動かされました」

経済格差や生まれの違いに関係なく、子どもたちが土から育つ健やかな生き物を自分の血と心にする一連の学び。これを理想だけでなく実践していくこと。

「アリスに、『困難が伴う活動だったと思いますが、なぜあなたは成功できたのですか?』と聞いた時に『あきらめないことよ』と言われました。それが最近わかるようになってきました。子どもたちを裏切れない。あきらめられないんですよね」

あきらめず続けていくと、次が見えてくるのだという。

「すぐに冷めて、嫌になっちゃっていた私こそが、エディブル・スクールヤードで成長しました。もちろん年齢を重ねて、身体的に衰えてきて落ち込んだりもしますが、自分のエンドが見えるからこそエンジンがかかるエネルギーが出てくる。次のステージがきていることがわかります」

都市のど真ん中、日本橋茅場町での挑戦となった食育菜園の舞台「Edible KAYABAEN」は、なんと証券会館の屋上という立地。

2022年のオープン以来、近隣の小学校と連携し、子どもたちに食べることの大切さを伝えている。

〜私を支えるもの〜

幼少期の家族写真と、小学校で菜園授業をしていた頃の写真。
「家族写真は父が撮ったもので、母の葬儀のときに添えました。母は花を育てるのがとても上手な人でした。
幼少期はよく一人で母の庭で過ごしたのですが、当時、私自身には植物を育てるチャンネルはなかった。でも、彼女の庭を絵に描いたり、詩に書いたりしていましたね」

「ハーブを束ねるのって楽しいですよね。大好きです。エディブルの庭はとても美しいんです」。
子どもの頃に好きだったものがエディブル・スクールヤードにはある。
「私が通った中学は2年生のときに、受験の準備で美術の授業がなくなりました。とても残念でした。だからエディブル・スクールヤードにこんなに夢中になるんでしょうね」

原子力発電所の見える場所で、死の直前まで庭を育て続けた映像作家の写真と言葉。
「ガーデンという場を感覚的に教えてくれた一冊です。
庭は単なる花壇ではなくて、いのちが発露するところ、哲学する場だということを。自然の中で自分を知る、自分を存在させているものを知る、美の場所でもあります」

聞き手:石田紀佳さん
手仕事と自然に関わる人の営みを探求するキュレーター。朝日カルチャーセンターなどで季節の手仕事講座を開催。池尻にオープンしたホームワークヴィレッジにて植栽管理。
村の庭ブログ:https://homeworkvillagegarden.blogspot.com/

撮影/白井裕介 聞き手・文/石田紀佳 編集/鈴木香里

※大人のおしゃれ手帖2025年12月号から抜粋
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

この記事を書いた人

大人のおしゃれ手帖編集部

大人のおしゃれ手帖編集部

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