1. トップ
  2. グルメ
  3. 酒場、酔っ払いのための防災プロジェクトが始動!

酒場、酔っ払いのための防災プロジェクトが始動!

  • 2025.12.24

外でお酒を飲んでいる時、大災害が起きたとしたら・・・ビール会社が問題提起

年末年始は宴席が増える季節です。店で仲間と杯を傾け、いい気分になっているところに大震災が起きたらーー。こんな場面を想定し、「お酒好きのための防災プロジェクト」が2025年12月、スタートしました。企画したのは、クラフトビール「よなよなエール」などで知られるビール製造・販売会社「ヤッホーブルーイング」(長野県軽井沢町)。第1弾として、酒場向けの「地震防災ガイドライン」と、酔っ払いの耳にも届きやすい「防災用電子メガホン」を作りました。どんなプロジェクトなのか、取材しました。

発案したのは、同社の30代男性社員。「店で飲んでいる時、大災害が起きたらどうなるんだろう」。そんな不安がわき上がり、プロジェクトチームの発足につながったと言います。

7割以上の酒場に防災マニュアルがない!

日常的に店で飲酒をしている20~60代の男女300人を対象にインターネット調査をしたところ、半数以上が「店で飲酒中に災害が起こることを想像したことがない」、「酩酊状態になると、館内放送などは聞こえない可能性がある」と答えました。
一方で、酒を提供する飲食店のオーナーや店長200人を対象にしたインターネット調査では、72・5%が「防災マニュアルを用意していない」と回答。酔っている客への声かけで難しいと感じる点については、「指示に従わない、動かない」、「指示が理解されない、伝わらない」、「適切な声掛け、避難誘導がわからない」の順で多いことがわかりました。

ネットで手軽に作成可能 2432通りの中から最適な防災ガイドラインが示される

そこでプロジェクトチームは専門家らと共に、「酒場のための地震防災ガイドライン」を策定しました。店舗の環境や設備、顧客特性などを選択肢から選ぶだけで、2432通りの中からその店に合ったガイドラインが示されます。

ガイドラインでは、「緊急地震速報が鳴ったら」、「揺れが収まったら」など場面に応じて店側が行うべき行動や客への声の掛け方が示されていて、避難誘導のヒントになります。お酒を飲んでいる客は、判断力や身体能力が低下している場合もあることから、「ゆっくり話す」、「繰り返し指示」、「動こうとしない人には命令口調で指示」など、具体的なアドバイスが盛り込まれています。

騒がしい酒場でも避難誘導の声が届く電子メガホン「キコエール」を開発

酒場ならではの課題もあります。店内が騒々しく、避難誘導などの声掛けが飲酒者の耳に届きにくいという点です。プロジェクトに協力した「日本音響研究所」所長の鈴木創さんによると、酒場はBGMやざわめき、食器の音のこすれ、換気扇音などが重なって、走行中の電車内と同じくらいの騒がしさだといいます。

実際に酒場の騒音帯域を調べたところ、3500~5000Hzの周波数成分が最も耳に届きやすいことがわかりました。そこで、声の高さを4段階に調整できる 電子メガホン「キコエール」を、専門企業の協力を得て制作しました。「1・25倍」「1・3倍」などのボタンを押してから発声すると、ヘリウムガスを吸った時のような、ユニークな高い声に変換されます。鈴木さんは「少し違和感のある高い声の方が、皆の関心を得やすく、聞き取りやすいのです」と教えてくれました。

「キコエール」は平常時、ランタンとして使えるようデザインされていて、見た目もすっきり。機能的で、しまい込む心配もなさそうです。希望する飲食店には2026年1月から無償で貸し出し、避難訓練などに活用してもらう狙いです。

プロジェクトリーダーで防災士の河津愛美さんは、「飲食店への啓発を通じて、より安心してお酒を飲んで頂けるように、今後もプロジェクトを広げていきたい」と意欲を見せていました。

酒場従業者向けの防災セミナーも開催

記者向けの発表会の後は、「よなよなビアワークス新宿東口店」を会場に、酒場のオーナーや店長ら14人を招いて「酒場従事者向け防災セミナー」が開かれました。酒場における防災対策の大事さや意義などと共に、ガイドラインやキコエールが紹介され、全員が参加する避難訓練も実施されました。

参加者のひとりで、東京都中野区で2016年からビアバー「麦酒大学」を経営する山本祥三さんは、「自宅には水などの備蓄をしているが、なぜか店での防災対策は今まで考えたことがなかったのでとても勉強になりました。今度、常連の人たちに声をかけて、避難訓練をしてみたいです」と笑顔で話していました。

飲み歩くのが好きな人が、自分を守るためにできることとは?

ところで、飲みに行くのが大好きな人が、飲酒時の大震災から身を守る方法はあるのでしょうか?

プロジェクトを監修した防災アドバイザーの高荷智也さんは、「死なないためにやることは二つです。一つは揺れによって即死しないこと、二つ目は津波や火災などの二次災害に遭わないこと。そのためには、事前準備がとても大事です」と説明。命を守るために最も大事なのは安全な建物、環境を選んで飲酒することだといいます。「揺れによって倒壊するような建物にいたのでは、飲酒の有無にかかわらず、命を落とすことになります」。

店内環境のチェックも欠かせません。建物が無事でも、家具や器具などが転倒し、避難経路をふさいでしまうと、火事や津波、土砂災害などの二次災害に巻き込まれる可能性が出てきます。

二次災害から素早く逃れるためには、店側からの避難誘導や声によるアナウンスも欠かせません。高荷さんは、「ビール製造会社がこうした取り組みに踏み込んだことは社会的にも意義がある」と話していました。

お酒好きのための防災活動が今後、社会全体に広がっていくきっかけになりそうです。

<防災ニッポン編集長 板東玲子>

元記事で読む
の記事をもっとみる