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圧倒的なものに惹かれていく。竹内涼真と町田啓太が話す、Netflix映画『10DANCE』を生み出すまで。

  • 2025.12.24

主演の竹内涼真と町田啓太へ取材を行ったのは、2025年12月18日の世界独占配信を控えた前日のこと。圧倒的なパフォーマンスで作品を作り上げた後の軽やかさと、まだ冷めない闘志が同居する空気を纏ってあらわれた"戦友"のふたりに話を聞いた。

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視線が交差し、身体がリズムに合わせて物語を語り始める──。Netflix映画『10DANCE』は、社交ダンスという親密な表現を通して、ふたりが互いに惹かれ、ぶつかり合い、やがて不可分な存在になっていく過程を描く。原作は、井上佐藤による超人気同名漫画『10DANCE』(講談社「ヤングマガジン」連載)。実写化は不可能とも思われた原作のライブな世界観を体現するのが、竹内涼真と町田啓太。約8年ぶりの共演でありながらも、阿吽の呼吸で演じたふたりが、肉体と精神の限界に身を置きながら挑んだ本作。覚悟の先にあった創作の記録の舞台裏を両名の言葉からのぞき見する。

なぜ、人は圧倒的なものに魅了されてしまうのか。

『10DANCE』の軸のひとつ、社交ダンスはテクニックや美しさだけでなく、相手と呼吸を合わせ身体を預け合うことで完成する極めて濃密な表現だ。今作が描くのは、その関係性が競技の枠を超え、嫉妬や欲望といった感情を交錯させながら、やがて愛へと変わっていく過程。物語の主人公は、ラテンダンスで世界に通用する実力を持ちながらも国内に留まる鈴木信也(竹内涼真)と、スタンダードダンスで世界2位の実績を誇る杉木信也(町田啓太)。同じ「信也」という名を持ちながら、生きてきた世界も価値観も180度異なるふたりが、〈10ダンス〉という未知の領域で交差する。

この難役に挑む決断は、ふたりにとって簡単なものではなかった。町田啓太は、自身の過去と真摯に向き合い掘り下げる必要があったと語る。「20歳の頃まで、本気でプロダンサーを目指していたけれど、それを諦めた過去があるんです。ダンスに対して消化しきれていないものがずっと自分の中に残っていて、この作品で何かの形で昇華できたらと考え抜いて、出演を決めました」。 世界トップクラスのダンサーを演じるための準備期間は、決して十分ではない。それでも「この役はやるべきだと思ったんです。迷いよりもワクワクする気持ちに背中を押されました」。

一方、竹内涼真にとって社交ダンスは初挑戦。「31歳になるタイミングで、『今年、本気で情熱を注げる作品に出合いたい』と思っていたときに、このお話をいただいたんです。難しい挑戦だとは思いましたけど、リスクを負ってみようと」。

ふたりは口を揃えて笑う。「リスクは負いまくったよね」。

覚悟を決めたからこそ、早い段階で現実の厳しさも目の当たりにした。町田は、撮影前に目にした世界トップダンサーのステージに圧倒されたという。「世界レベルのダンスを自分の目で見て、体感しておかなければと思い観に行ったのですが、ものすごく興奮した反面、同じくらいの絶望が一気に押し寄せてきました。これをやるのか、と。その感情が、撮影の最初から最後までずっと続いていました」。

憧れと絶望。その両極を抱えたまま、ふたりは役とダンスに没頭していく。だからこそ竹内が真っ先に挙げた"観てほしいシーン"は、華やかな大会のシーンよりも、ぶつかり合う練習の場面だった。

「あそこにすべてが詰まっている気がするんです。練習のシーンの撮影中は、いまやっているのが練習なのか本番なのかも分からなくなるくらい入り込んでいました」(竹内) 

「あの過程がすべてだったよね。練習をしていたはずが、いつの間にか本番になっている感覚が多かった」(町田)

距離感がミリ単位で変化する社交ダンス。その揺らぎは、役柄を越えて、ふたりの感情そのものにも影響を与えていった。「シーンごとに心も身体も、距離感がどんどん変わっていくんです。特に、鈴木が杉木にリードされ、フォローをやらされるシーンの、あの鈴木の表情がめちゃくちゃ良かった。そこから、それまでとは違うスイッチが入っていくのが見ていて楽しかったです」(町田)

「この人が必要だ、という、体の中で起こる爆発があった」(竹内涼真)

『10DANCE』のストーリーは「愛」と表現されることが多いけれど、鈴木と杉木の感情は、「愛」でありつつ、そこには「憧れ」「尊敬」「情熱」「衝動」「本能」など、たくさんの言葉が含まれるのではないか? そう、竹内に質問をぶつけてみた。

「『愛』って、とんでもなく大きな言葉じゃないですか。そこを説明しようとすると、僕らが体感していた感覚から少し遠ざかってしまう気がしていて。愛でもあり、情熱でもあるんですけど、その瞬間に『この人が必要だ』『いま、この人が欲しい』っていう、体の中で起こる爆発みたいなものがあった。ダンスを通じて、すごく高次元なところでお互いが爆発して、認め合っていた。それを愛とか好きという言葉で表現することもできると思うんですけど、僕の中で一番しっくりくるのは、『彼が必要だった』という感覚でした」(竹内)。

「人間って強欲で、どうしても自分にないものを欲しがる」(町田啓太)

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撮影中にカメラマンが竹内に渡したカメラで撮影。気心が知れている仲だからこそ引き出せた表情なのかもしれない。

言葉を超えて、身体が先に反応する瞬間がある。町田もまた、ふたりの関係を「ないものねだり」に近いものだったと語る。「人間って強欲で、どうしても自分にないものを欲しがる。お互い真逆のところに行き着いているからこそ、ないものが羨ましくなるし、欲しくなる。バトルしながら、いろんなものを交換し合っている関係だったと思います」。

「竹内君のそのエネルギーが本当に羨ましいし、見ていて気持ちがいい」(町田啓太)

鈴木信也と竹内涼真、杉木信也と町田啓太には、どこか共通する部分があった。だからこそ、ふたりの俳優の間には、尊敬と嫉妬が入り混じった感情が自然と生まれていったのだろう。

「町田君は、ギリギリまで自分を追い込んだ先で、とんでもない表情をする。その孤独な瞬間が、すごく愛おしいんです」(竹内)

「竹内君は、感情や楽しさを全部外に出せる。そのエネルギーが本当に羨ましいし、見ていて気持ちいい」(町田)

「さっきも話していたんですけど、今回の配役はどんぴしゃだと思っています。もしも逆の配役だったら、うまくいっていなかったんじゃないかな(笑)」(竹内)

「それは分かる。お互いの性質が、すごく役に合っていたよね。僕から見ると、竹内君は周りを巻き込むエネルギーを常に発していて、それを与えられる人。今回のキャラクターは、それをあえて内側に閉じ込めている印象がある。一方で僕は、内側にはすごくあるけど外に出せないタイプだから、性質的には役に近かった気がします」(町田)

「それがリンクした感じはあるよね」(竹内)

ふたりの本音は、インタビューを進める中で隠すことなく語られた。「ありますよ、町田君への嫉妬」と竹内は話す。「あんなに自分を追い込むことができるんだ、と思わされた部分とか」。

「いや、竹内くんも十分追い込んでいるけどね」(町田)

「やり方が違うんですよね。町田君は、僕にはできないくらいギリギリのところまで自分を追い込む。あと一本糸が切れたら、どこかに消えてしまいそうなラインまで行くんです。そうやって追い込んだ先でとんでもない表情をする。多分、本人はまだ気づいてないけど」(竹内)

「町田啓太にしか出せないとんでもない表情がある。絶対に見落とさないでほしい」(竹内涼真)

その"とんでもなさ"について問われると、竹内はこう続ける。「映画の中にも要所要所にその表情が映っていて、見るとこちらがキュンとしてしまうんです。人って、自分を追い込めば追い込むほど周りに理解されなくなって、孤独になる。その本当に孤独になった瞬間の表情が、すごく愛おしくて、同時に苦しくもなる。あれは町田啓太にしか出せない。だから、絶対に見落とさないでほしいです」。

それに対して町田も、今度は竹内への思いを率直に語る。「竹内君は軽やかに全部出せる人。『これが楽しい』『これは違う』って、ちゃんと全部外に出せる。それがめちゃくちゃ羨ましいんです。エネルギーも自由度もすごく高い。僕はどうしても一方向に向かって狭くなりがちだから、いきなりバコーンと広く飛び込める姿を見ていると、本当に気持ちいい。それは竹内君だからこそ。だから、ダンスも苦しいより楽しかったでしょう?」と問いかけると、「苦しいけどそれが楽しい、そこがいいのよ」と竹内は笑う。

「ものごとを真正面から楽しめるのが本当にすごい。楽しみを見出す力がある」と町田は改めて称えた。 そんなやり取りの中で、竹内はふと思い出したように切り出す。

「町田君、言われて嬉しいか分からないけど、一人思い当たる人がいて」 (竹内)

「一人?何?」(町田)

「海外の俳優で、ちょっと似ているなって思った人がいて」(竹内)

「誰?」(町田)

「ショーン・ペン。町田君ってショーン・ペンっぽいんだよね」(竹内)

「(笑)ちょっと、いきすぎです。いきすぎ!嬉しくないわけないけど、それはさすがに嘘だよ」(町田)

否定しながら笑う町田を前に、竹内は、どうしても語りたいシーンを紹介してくれた。「練習で、杉木先生と信也がタンゴを踊っているシーンがあるんですけど、そのとき杉木先生が『休もう』って言うんですよね。あのシーンがマジですごいんです。僕、あそこ何回も巻き戻して観ていて、なんでか分からないんですけど、観る度に泣きそうになっちゃう。多分、『いいな』って感じているんだと思います。良すぎて、泣いて笑っちゃうんですよ」。

その言葉を受けて、「竹内君は本当に変な人だね」と町田は笑う。

役を通して、互いへの理解と信頼はより深まった。「町田くんのことは役者仲間の中でもトップクラスで信頼しています。だから色々なものを預けられました」(竹内)

「信頼がないと、ダンスは踊れないですから」(町田)

竹内は、社交ダンスを習得できた理由を迷いなく語る。「ダンスの先生たちを信じて、監督を信じて、パートナーの土居(志央梨)さんを信じて、町田君を信じて、最後は自分を信じられた。それだけです。信じきらないと踊れないダンスだった」。撮影を終えた今も、その体験はふたりの中に深く刻まれている。

「僕は今でも、たまに先生のところへ行って踊っています。あのときみたいには踊れなくてショックを受けるけど、でもやっぱり好き。楽しいから」(竹内)

「それはすごいよ。僕は、あの追い込まれていた感覚を思い出すと震えてきちゃうから、怖くて行けない。でも、あの体験ができたからこそ、恋しさもある。今思うと、『もっといけたんじゃないかな』とも感じるし、そうやって焦がれてしまう自分もいる。引きずるんですよね」(町田)

俳優人生の中でも、ふたりにとって間違いなく特別な一本となった。「これが伝わらなかったら、自分のことを考え直さないといけない。それくらい、エネルギーを爆発させた作品です」(竹内)。

全身全霊を捧げたNetflix映画『10DANCE』。彼らの言葉が一語一句、真実であることを、ぜひ作品で確かめてほしい。

Netflix映画『10DANCE』
⚫︎監督/大友啓史
⚫︎原作/井上佐藤『10DANCE』(講談社「ヤングマガジン」連載)
⚫︎脚本/吉田智子、大友啓史
⚫︎出演/竹内涼真、町田啓太、土居志央梨、石井杏奈 ほか
⚫︎128分
⚫︎2025年、日本映画
⚫︎企画・製作/Netflix
独占配信
https://www.netflix.com/10DANCE

photography: Sakai De Jun (Ryouma Takeuchi)styling: Takashi Tokunaga(SOT) (Ryouma Takeuchi)hair&makeup: Tomokatsu Sato (Keita Machida)styling: Eiji Ishikawa (Keita Machida)hair&makeup: Kohey text: Rieko Shibazaki

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