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中堅漫画家の前に現れた、魅惑的な編集者…女性同士の名前が付けられない関係性を描く

  • 2025.12.20

漫画家・ばったんさんに、最新作『ファタールゲーム』についてお話を伺いました。

のめり込みたい欲望をくすぐる、途中下車不可能の心理ゲーム

「最近、恋愛に近い女性同士の関係性を描いていなかったので、そろそろ…と思い始まった作品です。女性同士の名前が付けられない関係性は、私が漫画を描くうえでの大きなテーマなので、必然的に女性にとってのファム・ファタールになりました」

ばったんさんが最新作で描くその関係性とは、自身と同じ職業の漫画家と、編集者。ななくさは過去一作だけ売れたことのある中堅漫画家で、かつてのような情熱を持てずにいる。そんななか新たな担当編集として現れた双海(ふたみ)すみれは、ななくさの過去作の熱烈なファンで、一緒に傑作を生もうと鼓舞。それだけなら真っ当な編集者と言えそうだが、ななくさをその気にさせるための手段がいちいち変わっているのだ。

「編集者と漫画家って、私にとっては友達以上恋人未満といった感じで、友達には話さないようなことを話したりするのですが、そこがすごく独特だと思っています。面白い漫画を描くために成長する“漫画家漫画”ではなく、このふたりの関係性をこぼさず描くことにしています」

やはり注目したいのは、ななくさをはじめとする漫画家たちを手練手管で翻弄する、すみれのキャラクター。ばったんさんいわく「完全なる私の趣味(笑)」とのこと。

「私自身、商業漫画を描くうえで若干の倦怠感と行き詰まりを感じていたので『この人のために描きたい!』と思えるキャラクターにしました。彼女の独特な距離の詰め方を表現するうえで一番大事にしているのは、物理的な距離は近くても、精神的な部分には絶対に壁を作るようにすること。一方で、ななくさは自分とかなりリンクしています。私も仕事以外に恋愛や生活にも情熱を燃やすことができなくなっていたので、そんな自分が夢中になれるキャラクターを作り一喜一憂しながら描いています。この連載が終わったとき、私のなかに何が生まれるのか生まれないのか、結末が楽しみです」

誰もが持つ嫉妬や承認欲求から目を背けず、どこへ行き着くのかわからないハラハラ感がたまらない。

「清く正しく優しく生きるには、人間は複雑すぎると考えていて、こういったいわゆるマイナスの感情は、私の漫画に欠かせません。なぜその感情に至ったのか、どうなれば救われるのかを掘り下げて、ひとりの人間として描くことを意識しています。テンポが速く、勢いがあるお話なので、それに負けないくらい画面も派手に、ポップにしています!」

ばったん

漫画家。2016年『にじいろコンプレックス』でデビュー。著書に『かけおちガール』『姉の友人』『けむたい姉とずるい妹』など。愛犬の写真募集中!

information

『ファタールゲーム』1

描くことに自信と情熱を失っている中堅漫画家の前に現れた、魅惑的な編集者。読む側もふたりの関係性に夢中になる、女性にとってのファム・ファタール。(講談社、792円)

写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

anan 2476号(2025年12月17日発売)より

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