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「お前はスカすな」樋口堅がFC町田ゼルビア先輩DFの言葉を胸にトライアウト参加「町田が僕にくれた夢」を22歳は追いかける

  • 2025.12.17

日本プロサッカー選手会(JPFA)が主催する『JPFAトライアウト』が17日に大阪府内で開催。

今季限りでJ1のFC町田ゼルビアを契約満了になった下部組織出身MF樋口堅は、自身と同じく各クラブから契約満了を言い渡されたJリーガーたちをピッチ上で鼓舞し続けた。

22歳で直面した困難をポジティブに乗り越えようとする姿は、町田の先輩DFと重なった。

画像: ロングボールを蹴る樋口(写真:浅野凜太郎)
ロングボールを蹴る樋口(写真:浅野凜太郎)

サウナで告げられたエール

「ナイスプレー!」と、はつらつとした声がグラウンドに響き渡った。

今季契約満了を告げられたJリーガーたちが集まるトライアウト。急造チームでミニゲームや紅白戦が行われるため、団結することはなかなか難しい。

そのため、各チームの年長者が率先して盛り上げる光景をよく見るが、この日は違った。青色のビブスチームで人一倍の声を出していた選手は、今季限りで町田を契約満了になった22歳の樋口だった。

「ここに来ているのはみんなプロなので、全員特徴を持っているし、その良さをガンガンに出してくる。その中で自分が(オファーを)つかみ取るためには、プレーがどうこうではなくて、もう声を出すしかない。

もちろん、きょうも足りなかった部分があったとは思いますけど、元気に『チームでやろうぜ!』って声を出そうと、後ろの選手としてやっていました」

画像: 声を出す樋口(写真:浅野凜太郎)
声を出す樋口(写真:浅野凜太郎)

FC町田ゼルビアJrユース、FC町田ゼルビアユースを経て、2022年にトップチーム昇格。今季は育成型期限付き移籍していたJFL沖縄SVから復帰したが、公式戦の出場がないまま愛するクラブを去った。

もちろん苦しかった。

それでも切り替えて、この日のトライアウトに臨めた理由は町田の先輩DF菊池流帆(りゅうほ)の言葉があったからだ。

「強化部から契約満了を伝えられたときに、流帆くんが僕の家の近くに引っ越してきて、一緒にサウナへ行くことになったんです。そしたら流帆くんがサウナ室で『お前はスカすな。とにかくやれ。とにかくガツガツと行って、笑顔と元気でつかみ取ってこいよ』と言ってくれました。とにかくはっちゃけて、試合中から声を出していけば、運が来るって」

画像: 仲間に指示を出す菊池(写真:浅野凜太郎)
仲間に指示を出す菊池(写真:浅野凜太郎)

チームが苦しいときや、逆境に追い込まれたときにこそ、自らを奮い立たせるように声を出す菊池。

22歳の樋口は、「流帆くんはめちゃくちゃ愛情深いというか、めちゃくちゃ人間らしい。もう本当に“あのまんま”の人です(笑)」と、尊敬する町田の先輩DFになりきって、トライアウトを闘った。

町田がくれた夢

町田から契約満了のリリースはトライアウト前日に出され、多くのファン、サポーターが生え抜きとの別れに涙し、今後の活躍を祈った。

トライアウトを終えて、ミックスゾーンに現れた樋口は感慨深そうに町田での日々を振り返った。

「このトライアウトに集中できないくらい、いろいろな方から温かい言葉をいただきました。自分で言うのも変ですけど、期待されて愛されていたんだなと…。だからこそ、その気持ちに応えられなかったことが悔やまれますね。自分のサッカー人生で一番の後悔です」

画像: ボールを奪いに行く樋口(写真:浅野凜太郎)
ボールを奪いに行く樋口(写真:浅野凜太郎)

樋口が下部組織に入団したときはJ3だった町田。そこから着実に力を蓄えていき、2023年にJ2優勝、昨季はJ1優勝争いを演じ、ついに今季の天皇杯で悲願の初タイトルを獲得した。

先月22日に国立競技場で行われたJ1ヴィッセル神戸との天皇杯決勝はスタンドから見守り、試合後にはピッチ上で仲間たちと歓喜した。中学時代から在籍していたクラブの栄冠は驚きとうれしさが混在していた。ただ時間が経つにつれて、ふつふつとこみ上げてきた感情は悔しさだった。

「自分が関わっていないタイトルって、こんなに歯がゆいんだって勉強になりました。タイトルってこんなに華やかなのかと。

達成感とかうれしさが、みんなの体からにじみ出ているんですよ。でも僕はそれを感じられなかった。やり切れたとか、自分でつかんだという感情を持てなかったことが、めちゃくちゃ悔しかったですね」

画像: 天皇杯を制した町田(写真:浅野凜太郎)
天皇杯を制した町田(写真:浅野凜太郎)

目に焼き付いているあの日の光景が、22歳の原動力だ。

Jリーグクラブでのプレーを希望しているが、たとえどのカテゴリーでも、出場するためにベストを尽くしたいと力を込めた。

「やっぱり取りたいですね、タイトル。町田が僕にくれた夢です」

沖縄SV時代は引退も覚悟した。それでも今季より復帰した町田がつかんだタイトルと、同クラブのチームメイトやファン、サポーターの存在が、22歳の心に火をつけている。

画像: ドリブルする樋口(写真:浅野凜太郎)
ドリブルする樋口(写真:浅野凜太郎)

「町田に戻ってきていろいろなものを見て、たくさんのことを学んだからいまがある。町田にいられたことへの感謝を、自分のプレーや活躍で応えていきたい」と、樋口は夢を追いかけ続ける。

(取材・文・写真:浅野凜太郎)

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