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塩粒サイズの「自律型ロボット」の開発に成功

  • 2025.12.17

塩粒ほどの小さなロボットが、自律的に環境を感知し、水中を泳ぐ。

そんなSFのような存在が、ついに現実のものとなりました。

米ペンシルベニア大学(UPenn)とミシガン大学(University of Michigan)の研究チームは、世界最小となる完全自律型・プログラム可能なマイクロロボットの開発に成功したと発表しました。

このロボットは肉眼ではほとんど見えないサイズでありながら、光をエネルギー源として数カ月間動作し、周囲の温度を感知して行動を変えることができます。

しかも製造コストは、1台あたりわずか1ペニー(約1〜2円)です。

この成果は、ロボット工学が長年越えられなかった「サブミリメートルの壁」を打ち破るものとして、大きな注目を集めています。

研究の詳細は2025年7月15日付で科学雑誌『PNAS』に掲載されました。

目次

  • なぜ「塩粒サイズ」は40年間も不可能だったのか
  • 電気で水を動かし、ダンスで情報を伝える

なぜ「塩粒サイズ」は40年間も不可能だったのか

開発された極小ロボット/ Credit: Marc Miskin, Penn

このロボットの大きさは、約200×300×50マイクロメートル。

塩の粒よりも小さく、多くの微生物と同じスケールで動作します。

電子機器はここ数十年で急速に小型化してきましたが、ロボットはそう簡単には縮みませんでした。

その最大の理由は、物理法則がスケールによって激変するからです。

人間サイズの世界では、重力や慣性が運動を支配しています。

しかし、サイズが極端に小さくなると、粘性や抗力といった「表面積に関係する力」が圧倒的に強くなります。

ペンシルベニア大学のマーク・ミスキン(Marc Miskin)准教授は、この状況を「水を押す感覚が、タールの中を進むようなものになる」と表現しています。

そのため、脚や腕のような機構はマイクロスケールでは壊れやすく、製作も困難です。

この問題が、1ミリメートル未満で自律的に動くロボットを作れない理由として、40年以上にわたり研究者を悩ませてきました。

研究チームが選んだ解決策は、「無理に動かす」のではなく、微小世界の物理に適応することでした。

電気で水を動かし、ダンスで情報を伝える

新しいロボットは、体をしならせたり、脚を動かしたりしません。

代わりに、周囲の溶液中に電場を発生させます。

この電場がイオンを押し動かし、さらにそのイオンが水分子を動かすことで、ロボットの周囲に流れが生まれます。

その結果、ロボットはまるで流れる川に乗るように前進します。

しかも電場を調整することで、単独で動くだけでなく、魚の群れのように協調して移動することも可能です。

さらに驚くべきは、このサイズの中に本物のコンピューターが搭載されている点です。

プロセッサー、メモリ、センサー、太陽電池がすべて1チップに収められています。

ミシガン大学のデビッド・ブラウ(David Blaauw)教授のチームは、出力わずか75ナノワットという極限的な電力条件でも動作する超低消費電力回路を設計しました。

これはスマートウォッチの消費電力の10万分の1以下です。

ロボットは摂氏約0.3度の精度で温度を感知できます。

そして測定結果は、無線通信ではなく、小さな「ダンス」として外部に伝えられます。

ロボットの動きのくねり方に情報を符号化し、研究者は顕微鏡とカメラでそれを読み取ります。

この方法は、ミツバチがダンスで情報を共有する仕組みに着想を得たものです。

ロボット工学は「見えない世界」へ踏み出した

チームは、この成果をゴールではなく「出発点」だと位置づけています。

将来的には、より多くのセンサーを搭載し、より複雑なプログラムを実行し、過酷な環境で動作するマイクロロボットが生まれる可能性があります。

ミスキン氏は、「ほとんど目に見えないほど小さな存在の中に、脳とセンサーとモーターを入れ、それが数か月動き続けることを示した」と語っています。

この基盤があれば、そこに知能や役割を積み重ねていくことができます。

塩の粒ほどのロボットは、医学や製造技術だけでなく、ロボット工学そのもののスケール感を塗り替える存在になりそうです。

参考文献

Dancing robot is the size of a grain of salt
https://www.popsci.com/technology/dancing-robot-salt-grain/

Penn and Michigan Create World’s Smallest Programmable, Autonomous Robots
https://www.seas.upenn.edu/stories/penn-and-umich-create-worlds-smallest-programmable-autonomous-robots/

元論文

Electrokinetic propulsion for electronically integrated microscopic robots
https://doi.org/10.1073/pnas.2500526122

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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