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2本の巨大な尾をもつ「異例の惑星」を発見、その正体とは?

  • 2025.12.16

宇宙を漂う彗星には、長く伸びた尾がつきものです。

しかし今回、天文学者たちは、彗星ではない「惑星」が、しかも2本もの巨大な尾を引きずっている決定的な証拠を捉えました。

その天体は、地球から約880光年離れた場所にある太陽系外惑星・WASP-121 bです。

カナダ・モントリオール大学(UofM)らは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)の連続観測によって、これまで誰も見たことのない惑星の姿が明らかにしました。

研究の詳細は2025年12月8日付で科学雑誌『Nature Communications』に掲載されています。

目次

  • 恒星に焼かれる「超高温木星」という極限環境
  • 2本の巨大な尾が示す惑星の新たな姿

恒星に焼かれる「超高温木星」という極限環境

今回の主役であるWASP-121 bは「超高温木星(ウルトラ・ホット・ジュピター)」と呼ばれるタイプの系外惑星です。

木星と同程度の巨大なガス惑星でありながら、母星のすぐ近くを公転しており、1年はわずか30時間しかありません。

恒星との距離があまりにも近いため、WASP-121 bの大気は数千度まで加熱されています。

この極端な高温環境では、水素やヘリウムといった軽いガスが重力を振り切り、宇宙空間へと逃げ出していきます。

これまでにも、こうした「大気流出」を示す系外惑星はいくつか知られていました。

しかし従来のトランジット観測は、惑星が恒星の前を横切る短い時間に限られており、流出がどこまで広がり、どのように変化するのかは分かっていませんでした。

そこで研究チームは、JWSTに搭載された近赤外線撮像・スリットレス分光器NIRISSを用い、WASP-121 bを約37時間にわたって連続観測しました。

これは1公転以上に相当し、惑星の大気が「逃げ続ける様子」を初めて丸ごと捉えた観測となりました。

2本の巨大な尾が示す惑星の新たな姿

観測の結果、研究者たちはWASP-121 bの周囲に、想像を超える構造を発見しました。

惑星から流れ出したヘリウムが、1本ではなく2本の巨大な尾を形成していたのです。

1本は、恒星の放射と恒星風によって惑星の後方へ押し流される「後方の尾」。

もう1本は、恒星の重力に引き寄せられ、惑星の進行方向前方へ湾曲する「前方の尾」です。

これら2本の尾は、合わせると惑星直径の100倍以上に広がり、惑星の公転軌道の半分以上を覆っていました。

2本の巨大な尾を持つ惑星のイメージ画像/ Credit: Waterloo News – Chasing its tail in the cosmos(2025)

単一の尾なら既存のモデルでも説明可能ですが、異なる方向に伸びる二重構造は、これまでの理論では十分に再現できません。

この発見は、大気流出が単なる一方向の「ガス漏れ」ではなく、恒星の重力、放射、恒星風が複雑に絡み合った三次元的な現象であることを示しています。

さらに重要なのは、この現象が惑星の運命そのものに深く関わる点です。

長い時間をかけて大気を失えば、巨大なガス惑星が海王星サイズに縮小したり、最終的には岩石の核だけが残ったりする可能性もあります。

WASP-121 bは、そうした惑星進化の「途中経過」を、まさにリアルタイムで見せてくれている存在なのです。

今回の発見は、惑星が誕生した瞬間の姿のまま存在し続けるわけではないことを、強く印象づけます。

恒星との距離や環境によって、惑星は形も性質も大きく変わっていくのです。

2本の巨大な尾を引くWASP-121 bは、そうした変化の最前線にある「異例の惑星」といえるでしょう。

参考文献

Chasing its tail in the cosmos
https://uwaterloo.ca/news/chasing-its-tail-cosmos

Webb Telescope Reveals Double Helium Tails Escaping from a Hot Jupiter
https://exoplanetes.umontreal.ca/en/webb-telescope-reveals-double-helium-tails-escaping-from-a-hot-jupiter/

元論文

A complex structure of escaping helium spanning more than half the orbit of the ultra-hot Jupiter WASP-121 b
https://doi.org/10.1038/s41467-025-66628-5

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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