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声が小さいバイトに「なぜ接客業?」待遇が理由かと思いきや「いまだに──」に胸を打たれたワケ

  • 2025.12.15

私が学生時代にアルバイトをしていたレストランで出会ったひとりの寡黙な大学生。物静かで接客が苦手と思われていた彼の意外な一面が、スタッフ全員の心を動かした驚きのエピソードをご紹介します。

レストランで働く大学生

私が学生時代に働いていたイタリアンレストランは、もともと個人経営の小さな店でしたが、オーナーが飲食店グループの会社に変わったばかりでした。シェフは新しいオーナー会社から派遣された二人。一方、ホールは以前からのベテランパートさんと、私たちアルバイトがそのまま担当していました。その中に、大学生の松本くん(仮名)がいました。

彼は物静かで、仕事以外の話をしているところをほとんど見たことがありません。お客様への声かけも小さく、何度も聞き返されてしまうこともしばしば。スタッフの間では、「松本くん、なぜ接客のバイトを選んだのかしら」と不思議がられていました。

社長夫人の食事会

ある日、オーナー会社の社長の奥様が取引先を招いて食事会を開くことになりました。お客様は20名、スタッフたちは緊張の中、食事会が無事に終わることを祈っていました。

ところが、当日来店されたお客様はほとんどが外国人。奥様は英語でお店の案内をされています。事前に何も聞かされていなかったスタッフたちは、ただ黙々と料理を運ぶしかありませんでした。

食事が進むと、夫人が「飲み物のおかわりをうかがって」「パンのおかわりをうかがって」とスタッフに指示。英語が苦手なスタッフはどう声をかけてよいかわからず、全員に追加のパンを配りはじめ、「必要な方にだけでいいのよ、先に聞いて」と注意される始末でした。

救世主、松本くん

デザートと飲み物を残すのみとなったとき、お客様にメニューから選んでいただかなければならず、スタッフ同士で「なんて聞けばいいの?」「誰が行く?」と小声で相談していました。

すると、いつも控えめな松本くんが「僕がオーダーを取ってきます」そう言ってお客様のテーブルへ向かって行ったのです。そして流暢な英語でデザートと飲み物の説明を始め、次々と注文を聞いていくではありませんか。いつも聞き取れないほど小さな声の彼が、大きな声で堂々と英語を話す姿に、私たちは驚くばかりでした。

苦手に向き合う強さ

後で聞くと、松本くんは高校までカナダで暮らしていた帰国子女でした。「日本語がいまだに苦手で、うまく話せるようになりたくて接客のアルバイトを始めたんです」と、はにかみながら話してくれました。自分の苦手に真正面から向き合い、挑戦する姿勢に、スタッフ全員が心を打たれました。

それ以来、店では松本くんへの日本語指導がはじまり、次第にゆっくりと丁寧な言葉で話せるようになり、声も大きく。お客様に聞き返されることもほとんどなくなりました。そして今度は松本くんがスタッフに英語を教える番に。外国人のお客様が来店しても、皆が落ち着いて対応できるようになったのです。

苦手なことも、克服しようと一歩踏み出すことで、周りの人が思いがけず力を貸してくれる。 そう気づかせてくれた経験でした。

【体験者:60代・女性会社員、回答時期:2025年10月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。

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