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志の集大成となる「直島新美術館」誕生【アートが導く日本の未来 vol.3】

  • 2025.12.12

瀬戸内の島々の豊かな自然と共にある、世界的な現代アートの殿堂「ベネッセアートサイト直島」。その生みの親である福武總一郎さんの哲学を通して、現代の道標をともに考える連載、第3回です。2025年5月に、福武さんの志の集大成となる「直島新美術館」が開館しました。

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<Profile>
福武總一郎(ふくたけそういちろう)/福武財団名誉理事長、「瀬戸内国際芸術祭」総合プロデューサー

1945年岡山県生まれ。'86年福武書店(現・ベネッセホールディングス)代表取締役社長に。同会長兼CEOなどを経て、2016年より名誉顧問。瀬戸内の島々をアートで振興する「ベネッセアートサイト直島」を30年以上指揮。

地域に溶け込む美術館。新たなメッセージ発信の拠点に

直島新美術館の中心を貫く階段室は、建築家、安藤忠雄さんらしい精緻で美しいコンクリートの空間。天窓からは自然光が降り注ぎ、刻々と表情を変える光の演出がドラマティック。この両側に4つの展示室が配されている。ベネッセアートサイト直島では10番目となる安藤建築。 GION

地域のコミュニティ、既存の美術館やギャラリー、そして地元の人々との“一体化”を実現したのが、今春開館した「直島新美術館」です。「傷ついた地域をアートで元気にする」と邁進してきた私にとっての集大成であり、ベネッセアートサイト直島(BASN)の一つの完成を象(かたど)るものだと考えています。奇しくも今年は、福武書店(現ベネッセホールディングス)の創業者である父、福武哲彦が直島を訪れ、三宅親連町長(当時)と教育および文化的な開発に向けた会談を始めた日から、40年目の節目となります。

直島には「地中美術館」など個性的な美術館が複数ありますが、当館は集落のほど近くに立つ初めての美術館です。その本村地区には、空き家などを活用して人々の暮らしの時間や記憶をアートに織り込む「家プロジェクト」の作品群が、昔ながらの街並みの合間に点在します。地域になじんだアートを島の散策のなかで鑑賞する体験は、この新たな美術館でより豊かになるでしょう。

「この地のために選び抜かれた作品を」という選定基準はこれまで同様に、直島新美術館ではアジアの現代美術に特化しています。作品の収集にはかなり注力し、BASN黎明期より縁のある村上隆さん、蔡國強さんをはじめ、インドネシアやタイ、韓国などのアジア地域出身の現代を代表するアーティストらの最高峰の作品を揃えました。直島で制作された新作はもちろん、既成の代表作にも加筆が入るなど、サイトスペシフィック性も堅持されています。

欧米とは違うユニークさ、力強い魅力がアジアの現代美術にあることは、「ベネッセ賞」の審査の場をヴェネチアからシンガポールビエンナーレに移した、2016年ごろから強く認識していました。時に破壊も伴う自然の加工によって営まれてきた西洋文明に対し、アジアには「自然と共に生きる」という価値観が根付いています。消費中心から自然と歩むアジア的感性へのシフトは、時代の必然なのではないか。また日本は地政学的にも文化的にも、アジアの一員であることをより意識したほうがいい。アジア諸国と友好な環境をもっとつくっていかなければ…。そうしたアジアに着目したメッセージは、瀬戸内国際芸術祭でも折に触れて発信してきたことです。

BASN全体でも、欧米中心の現代美術だけでなく、アジアに焦点を当てた美術館を作ることによって、バランスの取れたアートサイトになったと思います。恒久作品が主な直島ですが、当館では多様なアジアの現代美術を紹介するべく、展示替えなどによる“動き”も予定。変わりゆく世界に向かってメッセージを発信していく、新たな拠点になればと願っています。

直島新美術館は、直島の建築を多々手掛けていただいた安藤忠雄さんの設計です。自然、アート、建物の調和はここでも健在。特に私がこだわったのは、瀬戸内海を一望できるカフェをどなたでも利用可能にしたことでした。島の人々がすでにリピーターになってくださっていることは、望外の喜びです。

瀬戸内海を一望するカフェ側から見た直島新美術館。地下2階、地上1階の3層から成る建物で、島の中心的な集落、本村地区近くの高台に位置。今を代表するアジア出身の現代アーティストの作品を展示する。 GION

「直島新美術館」
所在地/香川県香川郡直島町3299-73
開館時間/10:00~16:30(最終入館16:00)
休館日/月曜日
※祝日・休日の場合開館、翌日休館
入館料金/¥1,500(オンライン購入) ¥1,700(窓口購入)
※15歳以下無料
URL/benesse-artsite.jp/nnmoa
※「開館記念展示―原点から未来へ」開催中

初出:リシェスNo.53 2025年9月27日発売
INTERVIEW:MAYUMI YAWATAYA
EDITING:YUKO KAMIYAMA

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