「いちいち細かいな」銭湯でタオルを湯船につける客→従業員の一言で二度と来なくなったワケ【短編小説】

本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

私は昔ながらの銭湯で、番台や清掃のアルバイトをしています。常連のおばあちゃんたちとの会話も楽しい職場なのですが、ある一人の女性客の振る舞いに、私は頭を抱えていました。

その女性は、仕事帰りなのか、夕方の混雑時によく来店されるのですが、マナーがとにかく悪いのです。長い髪を束ねずに湯船に入れたり、場所取りをしたりとやりたい放題。

中でも一番困るのが、タオルを湯船の中に平気で浸すことでした。「汚いから注意してよ」と他のお客様から苦情が入ることもしばしばです。

ある日、ついに私は意を決して、見回りのついでに脱衣所で涼んでいる彼女に声をかけることにしました。

「お客様、申し訳ありません。衛生上のルールですので、タオルを湯船につけるのはご遠慮いただけますか？」

私が丁寧に伝えると、彼女は不機嫌そうに顔を上げ、睨みつけてきました。

「はぁ？いちいち細かいな。私のタオル、家で洗濯してきた高級ブランドのやつなのよ。そんじょそこらの雑巾とは違うの。菌なんてついてないわよ」

周りのお客様がドン引きするような甲高い声でした。ここで引いては、お店の品位に関わります。私は深呼吸をして、ニッコリと営業スマイルを浮かべ、あえて周囲にも聞こえるようにはっきりと答えました。

「それは大変失礼いたしました！さきほど脱衣所の入り口で、そのタオルを床に落とし、そのまま土足エリアで踏んで拾い上げているのを拝見しましたので、てっきり泥がついているものかと勘違いしておりました。高級なタオルだったんですね、安心しました」

その瞬間、脱衣所にいた他のお客様たちが一斉にざわめき、「え、床に落ちたやつ？」「土足のとこ？汚い……」というヒソヒソ声が広がりました。

女性は顔を真っ赤にして口をパクパクさせ、いたたまれなくなったのか、無言で帰っていきました。

それ以来、彼女が店に来ることはなくなり、常連さんたちも安心して入浴を楽しんでくれています。

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