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遠距離カップルはゲームの中で手をつないでいた

  • 2025.12.9
遠距離カップルはゲームの中で手をつないでいた
遠距離カップルはゲームの中で手をつないでいた / Credit:Canva

アメリカのワシントン大学(University of Washington, UW)で行われた研究によって、遠く離れて暮らす恋人同士がオンラインゲームの中で、まるで同じ家に住んでいるかのような親密さを感じながら時間を共に過ごしている実態が見えてきました。

研究では、参加者が週に少なくとも1回以上一緒にゲームにログインし、「二人で家事や冒険をこなす」ような協力プレイを楽しみ、ゲーム内のアイテムを贈り合ったり、スクリーンショットを撮って「二人だけのアルバム」を作ったりすることで高い「つながり感」を報告しています。

これは、遠距離ゆえに生まれる心の距離をゲームが少し和らげているように感じられる新たな役割「ゲーム内同棲」を担っている可能性を示しています。

どうしてゲームの中でのデートや共同作業が、ここまで遠距離恋愛の心の距離を縮める助けになりうるのでしょうか。

研究内容の詳細は『Proceedings of the 2025 Designing Interactive Systems Conference(DIS ’25)』にて公開されました。

目次

  • 遠距離カップルの“オンライン同棲”をのぞいてみた
  • 遠距離恋愛はゲーム内同棲が助けになる
  • 電話より“共同作業” 遠距離恋愛を支える協力プレイ

遠距離カップルの“オンライン同棲”をのぞいてみた

遠距離カップルの“オンライン同棲”をのぞいてみた
遠距離カップルの“オンライン同棲”をのぞいてみた / Credit:Canva

遠距離恋愛において「電話や画面越しの会話が続かなくなる」と感じた人は多いと思います。

「今日は何したの?」「そっちは何時?」といった会話をくり返しているうちに、沈黙の時間が増えていきます。

画面越しに同じ部屋にいるはずなのに、どこか「一緒にいる感じ」が足りない。

そんなもどかしさは、遠距離経験者なら一度は味わう悩みです。

先行研究では、遠距離カップルでも近くに住むカップルと変わらない満足度を維持できることが報告されていますが、それでも会えないもどかしさや物理的な触れ合いの欠如という壁は残ります。

電話やビデオ通話といった通信手段も欠かせませんが、「一緒に過ごす」実感を得るには限界がありました。

そこで注目されたのが共同の趣味です。

映画の同時視聴やオンラインゲームなど、コンピューター越しでも一緒に楽しめるレジャーは、二人の結びつきを高める可能性があるとされています。

中でもビデオゲームは今や遠距離で交流する手段の一つとして増えつつありますが、恋人同士がゲームで関係維持にどう取り組んでいるかは十分に研究されていませんでした。

そこで今回、米ワシントン大学の研究チームは、遠距離で暮らすカップルがデジタルゲームを通じてどのように親密さを育んでいるのか詳しく調べることにしました。

遠距離恋愛はゲーム内同棲が助けになる

遠距離恋愛はゲーム内同棲が助けになる
遠距離恋愛はゲーム内同棲が助けになる / Credit:Canva

研究チームはまず、普段から一緒にオンラインゲームで遊んでいる13組の遠距離カップルに協力を依頼しました。

参加者には日記調査としてゲームで一緒に遊んだセッションごとに(最低5回)内容や感じたことを記録してもらい(計71件のセッション記録が収集されました)、後日ペアごとにインタビューを行いました。

分析では、ゲーム中に相手とのつながりを何段階で感じたか、どんなゲームジャンルだったか、そしてどんな交流が起きたかといった点を細かく検討しています。

結果、記録されたゲームの約85.9%は協力プレイ主体で、カップルは同じ目標に向かって協力し合う場面が非常に多く、各セッションで二人が感じた「つながり」は、自己申告のスコアで見ると5点満点中平均4.401点と高水準でした。

ほとんどのゲームセッションで、お互いの存在を意識したり一緒に行動したりできたと参加者は答えており、これは遠距離で欠けがちな「日常の共有」をゲームが一部補っている可能性があることを示唆します。

実際、農場経営ゲームで分担して作業を進めたり、協力シューティングで背中を預け合ったりと、カップルたちはゲーム内で文字通り二人三脚の「共同作業」を行っていました。

こうした遊びの中で冗談を飛ばし合ったり、時にはわざと負けて相手を喜ばせることもあり、対戦ゲームさえも恋人同士の軽口を叩くコミュニケーションの場になっていたのです。

さらに興味深いのは、ゲーム内で見られたカップルの行動が人間関係を良好に保つための典型的なパターンときれいに重なっていたことです。

コミュニケーション研究では関係維持行動(仲良しを保つ行動)として、「前向きでいること」「本音で話すこと」「愛情や将来の約束を確認し合うこと」「家事など共同作業をすること」「友人も交えて一緒に活動すること」の5つが知られています。

ゲーム中のカップルはまさに、これら5種類の行動すべてをデジタルな場で実践していました。

例えば、プレイ中に常にポジティブな声かけをして相手を楽しませたり、ゲーム内のアイテムを工夫してプレゼントしたり(「卒業祝いにゲーム内で手作りの帽子を贈った」というエピソードもあります)、協力ゲームでは家事のように役割分担をして助け合い、高得点を競う場面でも冗談を言って笑わせ合うなどです。

つまりゲームの中でデートもし、家事もし、友人付き合いさえも完結しているように見え、まさに「ゲーム内で同棲しているようなものだ」とも言えそうです。

実際、一部のカップルはゲーム中に撮ったスクリーンショットを保存し、「2人のアルバム」を作って思い出を振り返っていました。

これらの結果は、遠距離カップルたちは現実には手をつなげない状況でも、ゲームの中でさまざまな方法で気持ちをつないでいることを示しています。

電話より“共同作業” 遠距離恋愛を支える協力プレイ

電話より“共同作業” 遠距離恋愛を支える協力プレイ
電話より“共同作業” 遠距離恋愛を支える協力プレイ / Credit:Canva

今回の研究により、オンラインゲームが遠距離恋愛中のカップルにとって仮想の「生活空間」として機能しうることが示唆されました。

離れて暮らす恋人同士でも、ゲーム内でならば日常生活のような共同作業や遊びを共有でき、高い「つながり感」が感じられる傾向が示唆されたのです。

研究者らも、遠隔地のパートナー同士がゲームで関係を保つための道具として使用していると述べています。

実際、カップルたちはデジタルゲームという既存の娯楽を創意工夫して「愛をはぐくむ場」に仕立てており、その姿はまさに現代版の逢瀬(おうせ)と言えるでしょう。

興味深いことに、現在市販されている人気ゲームの中で「遠距離カップル向け」に作られたものはほとんどありません。

二人プレイ前提のゲーム『It Takes Two』がその稀な例ですが、これは遠距離恋愛を想定した設計ではありません。

それでも恋人たちは既存のゲームに独自の意味を見出し、疑似デートや共同生活を楽しんでいました。

研究チームは、こうした知見を活かせばカップル向けゲームデザインの可能性が広がると指摘します。

例えば、二人だけの記念日イベントやペア限定の特別アイテム(お揃いの衣装など)をゲーム内に用意したり、離れていても同時に触れ合いを感じられる振動デバイスを組み込んだりすることで、よりロマンチックな仕掛けが作れるかもしれません。

実際、研究チームはゲーム中の写真や動画を簡単に保存してカップルで共有できる試作アプリ(思い出アルバム機能)を考案しており、他にもハプティクス(触覚フィードバック)技術による、たとえば「遠くからハグしているように感じられる」体験の可能性について言及しています。

遠距離恋愛カップル向けの技術開発は今まさに黎明期にあり、これから各所で研究と試作が進んでいくと考えられます。

コラム:あなたはどのタイプ?
この調査からはまた、カップルごとのゲーム利用スタイルに3種類の大きな違いがあることも見えてきました。
1つ目は「協力ガチ勢タイプ」(約46%)です。
このタイプのカップルは、「とにかく協力プレイが好き」「パートナー相手のガチ対戦は避けたい」という人たちです。
スキル差が大きいと、片方が落ち込んでしまうので、「二人で同じ方向を向いて敵と戦う」ゲームを選びがちです。
スターデューバレーの家事分担や、協力シューティングでの役割分担など、「共同作業・共同家事」がキーワードになります。
2つ目は「バランス型タイプ」(約38%)です。
基本は協力プレイが好きですが、同じゲーム内でちょっとした対戦も楽しみます。
たとえば「一緒にチームで戦いながら、味方どうしでスコアを競う」「ミニゲームやパーティゲームで軽く勝敗をつける」といったスタイルです。
このタイプは、「協力で支え合う安心感」と「たまの勝負のドキドキ」をうまく行き来しているのが特徴です。
3つ目は「対戦でイチャイチャするタイプ」(約16%)です。
ここでは1対1の軽い対戦が主役です。
お絵かきクイズやパーティゲームなどで、「相手をからかいながら勝ったり負けたりする」のを楽しみます。
彼らにとっては、勝ち負け以上に、「どれだけ相手を笑わせられたか」「どれだけ内輪ネタで盛り上がれたか」が重要です。

もしかしたら未来の世界では、「どの街に住んでいるか」よりも、「どのゲームの世界で一緒に暮らしているか」が、恋人たちにとって大事なプロフィールになっているかもしれません。

そのとき私たちは、ゲームの中の小さな畑や、スクリーンショットだらけのアルバム画面を、「遠距離恋愛が生き延びた証拠」として眺めることになるのではないでしょうか。

元論文

Partnership through Play: Investigating How Long-Distance Couples Use Digital Games to Facilitate Intimacy
https://doi.org/10.1145/3715336.3735773

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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