1. トップ
  2. 今期“もっとも注目”の新ドラマ、『silent』『海のはじまり』脚本家の“新境地” 初回放送から秀作の予感

今期“もっとも注目”の新ドラマ、『silent』『海のはじまり』脚本家の“新境地” 初回放送から秀作の予感

  • 2026.1.16

今期もっとも注目を集めるドラマ脚本家といえば、やはり生方美久だろう。『silent』や『海のはじまり』など、繊細な感情描写で社会現象を巻き起こしてきた彼女が、待望の新作で選んだのは、これまでのイメージを鮮やかに裏切るコミカル、かつサスペンスフルな“会話劇”だった。

“嘘も方便”という言葉があるが、果たして嘘とは人生を円滑にするための潤滑油なのか、それとも悪意を持って人の心を傷つける凶器なのか。フジテレビ系で放送が開始された『嘘が嘘で嘘は嘘だ』は、嘘をめぐるスリリングな展開の中に、人間のどうしようもない可笑しさと愛おしさをハイレベルに融合させた秀作となる予感がする第一話で幕を開けた。

元夫婦に結婚詐欺師、ひき逃げ犯が居酒屋で談義?

物語の舞台は、雪の舞う新潟のとあるアーケード街。離婚した元夫・小林幸助(錦戸亮)との待ち合わせ場所に現れた大森みつ子(菊地凛子)は、寒空の下ですでに機嫌が悪い。遅れてやってきた幸助に対し、「遅刻は相手への甘え」と一喝するみつ子。二人の離婚の原因は幸助の不倫であり、その修羅場となったのが、まさにこの再会の場である居酒屋だったという皮肉な設定から物語は幕を開ける。

undefined
菊地凛子 (C)SANKEI

第一話は、徹底した“会話劇”として展開していく。物語の大半は居酒屋のテーブル席で進行する。息子の入院や養育権の話から始まった会話は、やがて幸助の“嘘”に対する姿勢へとスライドしていく。幸助は、「どっか痛いて言うと、みっ子が優しくしてくれるんだもん」と悪びれもせず語るような男だ。いかにも、自分のやった事、言った事を悪いと思っておらず、相手に対する甘えが目につく。

しかし一方で、小学生時代の仮病の体験を引き合いに出し、本当にいじめをきっかけにお腹が痛くなったことがあり、その場合「嘘つきだと決めつけたほうが、嘘つきになる」と、妙に核心を突いた独自の哲学も展開したりする。しかも、みつ子との結婚生活の際は、嫌いな食べ物を“好き”と嘘をついていたという。それは結婚生活を円満にするための“優しい嘘”だというのだ。みつ子は、そんな幸助の嘘を知らずに、一方的に自分が我慢していたわけではなかったことを思い知らされつつも、上手く言いくるめられているような気もして、複雑な思いだ。

こうした、元夫婦の取り留めのない居酒屋談義のワンシチュエーションに、異物として混入してくるのが、自称・結婚詐欺師の中村信(塩野瑛久)と、頭から血を流して入店してきた謎の男・並木正義(竹原ピストル)だ。折しもテレビでは、付近で発生したひき逃げ事件のニュースと、事故を起こした逃走車両の特徴が報じられている。並木は自分を刑事だと名乗るがどうも怪しい。彼は逃走中の犯人なのか、ただ偶然居合わせただけなのか。そして、中村はみつ子に「消したくないですか、ヨダ真理子(幸助の不倫相手)」と意味深な耳打ちをする。偶然居合わせたこの奇妙な4人が一つのテーブルを囲むとき、単なる痴話喧嘩は予測不能なサスペンスへと展開していく。

熟練の俳優陣の丁々発止の演技が見どころ

第一話は、ほとんど居酒屋で座りながらの会話劇だ。にもかかわらず、緊迫感と脱力感が同居するのは、役者たちの巧みな芝居に負うところが大きい。

主役のみつ子を演じるのは、菊地凛子。嘘を極端に嫌い、正論で相手を追い詰めるが、実は他人の心の機微には不器用な女性像を、硬軟自在な芝居で体現している。対する元夫・幸助役の錦戸亮は、まさにハマり役。“息をするように嘘をつく”憎めない人たらしを演じさせたら、右に出るものはいないと称賛されている。そんなダメ男を軽妙に演じつつ、ふとした瞬間に人間の真理を突くセリフを放ち、視聴者をドキリとさせる。その存在感は、本作の“嘘”というテーマに多層的な深みを与えている。

さらに、物語の鍵を握るのが塩野瑛久と竹原ピストルだ。塩野演じる中村は「結婚てね、騙し合えるのが一番幸せなんですよ」と語るミステリアスな詐欺師。詐欺師は、本作のテーマ“嘘”を体現する職業と言えるが、彼はもう詐欺師からは足を洗ったという。しかし、それが本当なのかもわからない。竹原ピストルは、その粗野な風貌で頭から血を流しながら居酒屋に居続ける姿がシュールだが、画面に緊張感ももたらしていて、ユーモラスな空気も纏っており、作品の中で素晴らしいアクセントとなっている。

人は嘘をつかずに幸せになれるのか、それとも嘘があるからこそ生きていけるのか。雪深い新潟の夜、4人の男女が織りなす嘘と本音の心理戦。張り巡らされた伏線と、二転三転する展開に、一瞬たりとも目が離せない。生方美久が新境地を切り拓いた本作は、今期必見の作品だ。


ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi