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22年前、モー娘。メンバーがソロで放った“大人の歌謡曲” 凛と佇んだ“異国情緒あふれる独白”

  • 2026.2.19

2004年2月。世の中は、どこか高揚感と慌ただしさが入り混じった空気に包まれていた。携帯電話の画面はカラーが当たり前になり、着うたが流行の先端を走っていた時代。音楽シーンでは、デジタルな質感が街の喧騒と共鳴するように響き渡っていた。

そんな中、テレビ画面やラジオからふと流れてきたのは、それまでの喧騒を一時停止させるような、あまりにも静かで、あまりにも凛とした旋律だった。

飯田圭織『エーゲ海に抱かれて』(作詞:三浦徳子・作曲:つんく)――2004年2月4日発売

少女たちの喧騒を離れ、ひとりの女性として立つ場所

2004年当時、彼女は国民的な熱狂の渦中にいたモーニング娘。の2代目リーダーとして、個性豊かなメンバーたちを束ねる重責を担っていた。グループの楽曲が、若さ溢れるエネルギーと強烈なビートで時代を牽引する中、彼女がソロデビュー曲として選んだのは、それとは対極にあるような「大人のための歌謡曲」だった。

モーニング娘。で見せる「お姉さん」としての頼もしさや、バラエティで見せる親しみやすい笑顔。そうしたパブリックイメージの裏側に隠されていた、どこか憂いを帯びた、透明感のある表現力が、この一曲によって静かに解き放たれることになる。

それは、多忙を極める日常の中で、彼女自身が心のどこかで求めていた「静寂」そのものだったのかもしれない。この曲が鳴り響く瞬間、私たちの目の前にある日本の冬景色は、一瞬にして深い碧色をたたえたエーゲ海の情景へと塗り替えられていった。

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2004年、『エーゲ海に抱かれて』を披露する飯田圭織(C)SANKEI

巨匠たちが描き出した、贅沢なまでの「情緒」

この楽曲を語る上で欠かせないのは、制作陣による緻密で贅沢な音作りだ。作詞を手がけたのは、日本のポップス史を彩る数々の名曲を生み出してきた三浦徳子。そして作曲は、モーニング娘。の生みの親であり、彼女の成長を誰よりも近くで見守ってきたつんく。

三浦徳子が綴った言葉たちは、単なる恋の歌の枠を超え、ひとりの女性が自分自身を見つめ直すための、精神的な旅の記録のようにも聞こえる。そこに添えられたつんくのメロディは、いつものキャッチーな仕掛けをあえて削ぎ落とし、流れるような美しさと、ふとした瞬間に胸を締めつけるような「和」の哀愁を絶妙にブレンドさせていた。

さらに、前野知常による編曲が、この楽曲の異国情緒を決定づけている。アコースティックギターの乾いた音色や、情感たっぷりに鳴り響くストリングス。打ち込みが主流だった当時の流行に抗うように、生楽器の生々しい響きが、曲全体に血の通った温もりを与えている。

時代が求めた、立ち止まるための安らぎ

この曲は「頑張りすぎている誰か」にそっと寄り添う、心の余白のような存在だったように思う。当時の飯田圭織が持っていた、どこか浮世離れした気品と、包み込むような優しさ。その声の質感が、エーゲ海の風を感じさせるアコースティックなサウンドに見事に溶け込んでいた。

過剰な感情表現を排し、あえて淡々と、でも芯の強さを感じさせる彼女のボーカルは、聴く側の孤独を静かに肯定してくれるような包容力に満ちていた。

流行の波がどれほど激しく入れ替わろうとも、人の心には、こうした「静かな場所」を求める本能が備わっている。騒がしい日常から少しだけ距離を置き、目を閉じて遠くの波音に耳を澄ませるような贅沢な時間。その心地よさを、彼女の歌声は教えてくれた。

碧色の旋律が、今も記憶の片隅で揺れている

音楽は、時としてタイムマシンのような役割を果たす。この『エーゲ海に抱かれて』を聴き返すと、2004年のあの冷たい空気とともに、彼女が見せてくれた「大人の女性への覚悟」のようなものが鮮明に蘇る。

それは、単なるアイドルからの脱皮という言葉では片付けられない。ひとりの表現者として、自分の声を、自分の呼吸を、大切に届けようとする真摯な姿勢。その純粋な意志が、この碧色の旋律には今も宿っている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。