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19年前、アジア各国のシンガー5人が灯した“国境なき希望の一曲” 「愛・地球博」で流れた“祈り”

  • 2026.2.19

「19年前、あの夏の終わりの空を覚えていますか?」

平成の夏が、かつてないほどの熱気と“地球への眼差し”に包まれていた2005年。愛知県で開催された「愛・地球博(2005年日本国際博覧会)」は、自然の叡智をテーマに、世界中から人々が集う壮大な祝祭となった。街にはモリゾーとキッコロがあふれ、万博会場を歩けば、どこからか未来への予感と、どこか懐かしい地球の息吹が聞こえてきた。

そんな祭典のフィナーレを彩るように、そして新しい時代の幕開けを告げるように響いたのが、この一曲だった。

松任谷由実 with Friends of Love the Earth『Smile again』(作詞・作曲:松任谷由実 訳詞:ディック・リー、amin、イム・ヒョンジュ)――2005年9月14日配信リリース

万博の熱狂を包み込んだ「アジアの祈り」

2005年9月23日、万博閉幕を間近に控えた秋分の日。会場のEXPOドームでは、万博最大の音楽プロジェクトの締めくくりとなる「YUMING Love The Earth Final」が開催された。松任谷由実のもと、国境や文化を越えて集まったアジアのアーティストたちが、ステージの上で一つの輪になった。

そこで披露された『Smile again』は、ただのイベントテーマソングではなかった。「近いのに遠い」という、アジア諸国が抱える繊細な距離感や歴史、文化の壁を、音楽という共通言語で乗り越えようとする切実な祈りが込められていたのだ。会場を埋め尽くした観客は、その荘厳なメロディと重なり合う歌声に、静かに涙し、そして共に微笑みを交わした。

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2005年、東京・品川プリンスホテル内にオープンしたライブハウス「ステラボール」でこけら落とし公演を行った松任谷由実(C)SANKEI

5つの個性が織りなす「心の境界線」を越える響き

このプロジェクトに参加したのは、松任谷由実(日本)を中心に、シンガポールの国民的音楽家であるディック・リー、上海出身で透明感のある歌声を持つamin(アミン)、韓国出身の“ポップ・オペラ”の貴公子ことイム・ヒョンジュ、そして中国が世界に誇る二胡奏者の許(シュイ・クー)という、アジアを代表する5人の精鋭たちだ。

楽曲の核心にあるのは、抑制された美しさと、それを突き破るようなエモーショナルな力強さの共存にある。松任谷由実による日本語の詞に、各国の言葉が重なり合う構成は、まるで世界が一枚の布でつながっていくような感覚を聴き手に与える。静かなピアノのイントロから始まり、二胡のむせび泣くような音色が重なった瞬間、聴く者の心にある境界線は溶け去っていく。

配信からパッケージへ、語り継がれる「再会の約束」

2005年9月に先行配信シングルとして世に放たれた。当時、音楽配信がまだ新しい文化として根付き始めていた頃であり、この試み自体も極めて先駆的だった。翌年2月にはCDシングル『虹の下のどしゃ降りで』のカップリングとして収録されたことで、この「アジアの絆」は物理的な形として、多くのファンの手元に届けられることになる。

「何度どしゃ降りに見舞われても、その先には必ず虹がかかる」

そんなメッセージが、シングル盤全体を通して一つの物語のように響き渡っていた。

時代が変わっても色褪せない「微笑みの記憶」

今、20年という月日を経て改めてこの曲を聴くと、当時の私たちが抱いていた「世界への純粋な希望」が鮮やかに蘇る。SNSで瞬時に世界とつながれるようになった現代だからこそ、あえて生身の人間が集まり、声を重ねることでしか生まれない“体温のあるハーモニー”が、より一層尊く感じられるのだ。

恋人同士のすれ違い、国同士の軋轢、あるいは自分自身との葛藤。あらゆる「壁」を前にしたとき、この曲はそっと隣に寄り添い、もう一度笑うための勇気を与えてくれる。それは流行に消費されることのない、普遍的な「心の灯」のような存在だ。

あの万博の空に響いた歌声は、今も私たちの記憶のどこかで、静かに、けれど力強く鳴り続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。